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第49話「同棲三週間で五人暮らしになる場合」
午後十時。
森野リリカの部屋。
玄関。
藤堂アリア。
藤堂ユウ。
藤堂修一。
そして。
大きなスーツケース。
三個。
森野。
「燃えた?」
アリア。
「燃えた」
「家が?」
「正確にはキッチン」
「何で?」
「揚げ物」
森野。
「アリア」
「何?」
「料理できた?」
アリア。
「できるわよ」
藤堂ユウ。
「できません」
アリア。
「ユウ!」
修一。
車椅子から。
「私が止めたんだが」
森野。
「修一さんまでいて何で!」
修一。
「百二十五歳に火災消火を期待するな」
森野。
「それはそうですけど!」
相沢。
「怪我は?」
ユウ。
「ありません」
「よかった」
「火はすぐ消えたんですけど」
「はい」
「消火設備が作動して」
アリア。
「家中びしょびしょ」
森野。
「ホテルは?」
アリア。
「嫌」
「何で?」
「せっかくだから」
森野を見る。
「親友の新居に泊まりたい」
森野。
「ここ私の家です!」
アリア。
「今は愛の巣でしょ?」
森野。
耳。
真っ赤。
「帰って!」
「家、燃えたって言ってるでしょ!」
結局。
泊める。
寝る場所。
問題。
寝室。
森野。
相沢。
リビング。
アリア。
修一。
予備室。
ユウ。
相沢。
「修一さん、ベッド使ったほうがよくない?」
森野。
「そうですね」
修一。
「私はソファでいいよ」
「駄目です」
「でも」
「百二十五歳をソファに寝かせたら」
森野。
「私が一晩中気になります」
修一。
「じゃあ」
寝室を見る。
「私はそこ?」
森野。
停止。
相沢。
停止。
アリア。
にやり。
「新婚ベッド?」
森野。
「新婚じゃありません!」
ぴく。
「同棲ベッド?」
「名称をつけないで!」
結局。
寝室。
修一。
アリア。
予備室。
ユウ。
リビング。
相沢。
森野。
ソファ。
二つ。
午前零時。
電気。
消える。
森野。
ソファ。
毛布。
相沢。
向かいのソファ。
「相沢さん」
「何?」
「すみません」
「何が?」
「せっかく」
「うん」
「二人暮らし始めたのに」
相沢。
「別にいいよ」
「でも」
「困ってるときはお互いさま」
森野。
「……」
相沢。
「それに」
「はい」
「五人暮らしも面白そう」
森野。
「いつまでいるつもりなんでしょう」
暗闇。
アリアの声。
「一週間くらい!」
森野。
「起きてたの!?」
「聞こえた!」
「寝て!」
翌朝。
午前六時。
森野。
起床。
キッチン。
すでに。
修一。
いる。
森野。
「早いですね」
「老人だから」
「自分で言わないでください」
修一。
コーヒー。
森野。
「眠れました?」
「よく眠れた」
「よかった」
修一。
森野を見る。
「リリカさん」
「はい」
「幸せそうだね」
森野。
停止。
「急に何ですか」
「顔」
「普通です」
「百年前と違う」
森野。
コーヒーを入れる。
「百年前の私」
「うん」
「そんなに怖い顔してました?」
「してた」
「……」
「いつも」
修一。
「何かを失う前に」
「……」
「先に捨てようとしてた」
森野。
手が止まる。
修一。
「今は違う」
「そうですか?」
「うん」
「失うのが怖くても」
相沢が眠るリビングを見る。
「持ってる」
森野。
少し笑う。
「そうかもしれません」
午前六時半。
アリア。
起床。
「コーヒー」
森野。
「自分で入れて」
「親友でしょう」
「百年絶交してたでしょう」
「仲直りしたでしょう」
「だからって!」
午前七時。
ユウ。
起床。
午前七時十分。
相沢。
起床。
五人。
朝食。
食卓。
狭い。
アリア。
「楽しい」
森野。
「狭い」
修一。
「楽しい」
ユウ。
「すみません」
相沢。
「楽しい」
森野。
「私だけ?」
会社。
午前九時。
森野。
相沢。
ユウ。
三人。
同時出社。
田中。
見る。
「……」
森野。
「何ですか」
「昨日まで」
「はい」
「森野さんと相沢さん」
「はい」
「今日」
ユウを見る。
「藤堂君も一緒」
森野。
「事情があります」
田中。
「まさか」
森野。
「違います」
「まだ何も言ってない」
「絶対違います」
ぴく。
ユウ。
「うちが火事になって」
田中。
「火事!?」
営業企画部。
全員。
見る。
ユウ。
「小さい火事です」
森野。
「怪我人なしです」
部長。
「それならよかった」
田中。
「それで森野さんの家に?」
「はい」
田中。
「何人?」
森野。
「三人」
「つまり」
指。
数える。
「五人暮らし?」
森野。
「一時的です!」
田中。
「エルフ三人」
「はい」
「ハーフエルフ一人」
「はい」
「人間二人」
森野。
「六人になってます」
田中。
「あ」
相沢。
「人間は俺と修一さん」
田中。
「修一さん?」
ユウ。
「父です」
「何歳?」
「百二十五」
田中。
停止。
「人間?」
「はい」
田中。
「もう何が普通なのか分からない」
昼。
森野のスマートフォン。
メッセージ。
アリア。
『今日の夕飯何?』
森野。
返信。
『まだ決めてない』
アリア。
『揚げ物食べたい』
森野。
『禁止』
即答。
夜。
五人。
鍋。
アリア。
「何で鍋?」
森野。
「火災リスクが低い」
「鍋も火使う」
「私が管理します」
修一。
「正しい」
アリア。
「夫まで敵」
ユウ。
「母さんは料理しないで」
「息子まで!」
相沢。
野菜。
切る。
森野。
豆腐。
切る。
アリア。
見る。
「夫婦みたい」
森野。
「違います」
ぴく。
相沢。
「耳」
森野。
「鍋見てください!」
食後。
修一。
テレビ。
アリア。
森野の昔のアルバム。
ユウ。
スマートフォン。
相沢。
洗い物。
森野。
「アリア」
「何?」
「それ勝手に見ないで」
「いいじゃない」
ページ。
めくる。
アリア。
止まる。
「これ」
森野。
見る。
古い写真。
昭和。
若い姿の森野。
隣。
人間の男性。
以前。
橘宗一郎が。
手紙を持ってきた。
その父。
森野が昔。
愛した人。
アリア。
「この人」
「うん」
「例の?」
森野。
「そう」
修一も。
写真を見る。
「ああ」
森野。
「知ってる?」
「一度会った」
「いつ?」
「ずいぶん昔」
修一。
写真を見ながら。
「いい男だった」
相沢。
洗い物。
止まる。
森野。
見る。
「相沢さん」
「何?」
「気にしてます?」
「別に」
森野。
相沢の耳を見る。
「人間の耳は動かないから不便」
相沢。
「俺の気持ち読むな」
アリア。
「嫉妬?」
相沢。
「少し」
森野。
少し笑う。
「正直ですね」
「昔の人には勝てないし」
森野。
「勝つ必要ありません」
「そう?」
「はい」
写真。
閉じる。
「昔は昔です」
そして。
相沢を見る。
「今は今」
耳。
動かない。
アリア。
「リリカ」
「何?」
「百年前より成長した」
森野。
「百年あれば成長します!」
三日目。
家。
さらに。
狭くなる。
洗濯物。
大量。
冷蔵庫。
大量。
靴。
玄関。
大量。
森野。
「無理」
相沢。
「何が?」
「五人暮らし」
「まだ三日」
「無理です」
アリア。
「楽しいじゃない」
森野。
「あなたが一番散らかしてる!」
アリア。
「百五十二歳に片付けを期待しないで」
森野。
「年齢を言い訳にしない!」
修一。
「私より二十七歳若い」
アリア。
「あなた基準やめて」
そこへ。
インターホン。
森野。
「今度は誰?」
モニター。
見る。
停止。
相沢。
「誰?」
森野。
「……母」
玄関。
森野エレナ。
二百九十一歳。
京都から。
突然。
来訪。
森野。
「何で!?」
エレナ。
「アリアから聞いたの」
森野。
アリアを見る。
アリア。
「連絡した」
森野。
「何で!」
エレナ。
部屋を見る。
相沢。
アリア。
ユウ。
修一。
娘。
そして。
大量の荷物。
エレナ。
「……」
森野。
「違うから」
「まだ何も言ってないけど」
「絶対誤解するから!」
エレナ。
相沢を見る。
「あなた」
「はい」
「リリカと」
「はい」
「一緒に住み始めたの?」
森野。
耳。
真っ赤。
相沢。
「はい」
エレナ。
「そう」
森野。
母の反応を見る。
エレナ。
しばらく。
沈黙。
そして。
「じゃあ」
森野。
「何?」
エレナ。
「結婚はいつ?」
部屋。
完全に。
静かになった。
アリア。
にやにや。
ユウ。
下を見る。
修一。
笑う。
相沢。
固まる。
森野。
耳。
これまでで。
一番赤くなった。
コメント
1件
第49話、めちゃくちゃ楽しかったです…! 展開が完全に某エルフ大家族漫画みたいになってて笑いましたw でも、修一さんの「幸せそうだね」とか「百年前は失う前に先に捨てようとしてた」って言葉がすごく刺さって。リリカがちゃんと“今”を選んで、相沢くんのこと「今は今」って言えたの、本当に嬉しかったです…! 最後の母登場→「結婚はいつ?」で締めるアリアのニヤニヤ顔が目に浮かぶようでした🤍 最高です!