テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第50話「エルフの母親に結婚はいつかと聞かれた場合」
森野リリカの部屋。
午後八時。
人口。
六人。
エルフ。
森野リリカ。
百四十三歳。
藤堂アリア。
百五十二歳。
森野エレナ。
二百九十一歳。
ハーフエルフ。
藤堂ユウ。
二十六歳。
人間。
相沢直人。
三十一歳。
藤堂修一。
百二十五歳。
そして。
森野エレナが。
娘へ聞いた。
「結婚はいつ?」
沈黙。
森野。
耳。
真っ赤。
「お母さん」
「何?」
「来て最初の質問がそれ?」
「違うわよ」
「じゃあ何?」
「最初は一緒に住み始めたのって聞いたでしょう」
「同じです!」
アリア。
笑う。
「エレナさん、もっと聞いて」
森野。
「アリアは黙って!」
修一。
「私も興味ある」
「修一さんまで!」
ユウ。
「僕は」
森野。
「ユウ君」
「はい」
「興味ありませんって言って」
「興味ありません」
森野。
「ありがとう」
ユウ。
「でも母から後で聞きます」
「敵!」
相沢。
黙る。
エレナ。
相沢を見る。
「相沢さん」
「はい」
森野。
「答えなくていいです!」
エレナ。
「あなたに聞いてるの」
「お母さん!」
相沢。
「まだ」
少し考える。
「具体的には決めてません」
森野。
停止。
エレナ。
「そう」
「はい」
「考えてない?」
「いえ」
森野。
耳。
ぴく。
相沢。
「考えてはいます」
森野。
「……」
アリア。
「リリカ」
「何」
「耳」
「分かってる!」
エレナ。
娘を見る。
「リリカは?」
「何が?」
「結婚」
「今その質問します?」
「する」
「しません」
ぴく。
エレナ。
「嘘」
森野。
「考えたことがないとは言ってません!」
相沢。
笑う。
森野。
「笑わないでください」
エレナ。
「じゃあ考えてるのね」
「……」
「リリカ」
「はい」
「二百九十一歳の母親を」
「はい」
「いつまで待たせるの?」
森野。
「お母さんならあと百年くらい待てるでしょう!」
エレナ。
「そういう問題じゃありません」
修一。
「私は待てないな」
全員。
止まる。
修一。
百二十五歳。
笑っている。
「できれば早めにしてくれると」
森野。
「修一さんは何で参加するんですか!」
「見たいから」
「何を?」
「エルフと人間の結婚式」
アリア。
「私たちもしたでしょう」
修一。
「あれは十二年前」
「そうね」
「もう一回見たい」
森野。
「私たちでやらないでください!」
夕食。
六人。
テーブル。
当然。
足りない。
折りたたみテーブル追加。
エレナ。
料理。
アリア。
食べる。
森野。
「アリア」
「何?」
「手伝って」
「お客さん」
「居候でしょう!」
エレナ。
「昔から変わらないわね」
アリア。
「エレナさんも」
森野。
「二人とも百年前の感覚で話さないで!」
相沢。
皿。
運ぶ。
エレナ。
見る。
「相沢さん」
「はい」
「家事するのね」
「普通に」
「料理は?」
「少し」
「洗濯」
「します」
「掃除」
「します」
「お金」
森野。
「お母さん!」
エレナ。
「大事でしょう」
相沢。
「普通に働いてます」
エレナ。
「健康?」
「健康診断は問題ありません」
エレナ。
「家族歴は?」
森野。
「結婚相談所ですか!」
修一。
「長寿家系?」
相沢。
「祖父が九十二まで」
修一。
「まだまだ」
相沢。
「修一さん基準では無理です」
食後。
エレナ。
アリア。
修一。
三人。
昔話。
森野。
嫌な予感。
エレナ。
「リリカは昔から」
森野。
「やめて」
「結婚なんて絶対しないって」
「お母さん」
アリア。
「言ってた!」
「アリア!」
エレナ。
「十七歳のとき」
「何年前の話!?」
エレナ。
計算。
「百二十六年前」
相沢。
「聞きたい」
森野。
「聞かなくていい!」
エレナ。
「結婚するくらいなら」
「お母さん!」
「森で一人で暮らすって」
相沢。
笑う。
森野。
「十七歳です!」
アリア。
「四十歳でも言ってた」
森野。
「あなたとは百年前に絶交して正解だった!」
アリア。
「また百年絶交する?」
森野。
「しません!」
全員。
笑う。
午後十一時。
問題。
寝る場所。
エレナ。
「ホテル取ってるから帰るわ」
森野。
「泊まらないの?」
「六人は無理でしょう」
「まあ」
エレナ。
玄関。
靴。
履く。
森野。
見送る。
エレナ。
「リリカ」
「何?」
「少し歩かない?」
二人。
外。
夜道。
母娘。
並ぶ。
エレナ。
「幸せ?」
森野。
「……」
「耳を見れば分かるけど」
森野。
「なら聞かないで」
エレナ。
笑う。
「聞きたいの」
森野。
少し考える。
「幸せ」
耳。
動かない。
エレナ。
「そう」
しばらく。
歩く。
森野。
「反対しないの?」
「何を?」
「相沢さんとのこと」
エレナ。
「前にも言ったでしょう」
「……」
「反対して別れるくらいなら」
「うん」
「あなたは百年前に別れてる」
森野。
「……」
「あなたは」
母が言う。
「怖くなると逃げる」
「みんなそれ言う」
「事実だから」
「……」
「でも今回は」
エレナ。
娘を見る。
「逃げなかった」
森野。
「うん」
「耳も出した」
「うん」
「一緒に住み始めた」
「うん」
「なら」
少し笑う。
「私が逃がす理由はないわ」
森野。
「お母さん」
「ただし」
「何?」
「結婚式は京都でもやって」
森野。
「だから決まってない!」
エレナ。
「分かってる」
ぴく。
「絶対分かってない!」
翌朝。
営業企画部。
田中。
「昨日、人数増えました?」
森野。
停止。
「なぜ知ってるんですか」
「藤堂君が」
藤堂。
「母が写真を」
森野。
「写真?」
藤堂。
スマートフォン。
昨夜。
六人。
鍋。
アリアのSNS。
投稿。
『親友の新居に避難中。百年ぶりに家族みたいで楽しい』
森野。
「公開!?」
藤堂。
「限定公開です」
「誰まで?」
「エルフの知り合い」
森野。
「何人?」
藤堂。
「二百人くらい」
森野。
「多い!」
月島。
スマートフォン。
「私にも来ました」
森野。
「消させます」
そこへ。
高橋から。
電話。
森野。
「はい」
『森野さん』
声。
少し緊張。
「どうしました?」
『藤堂修一さんの件です』
森野。
表情。
変わる。
「何か分かりました?」
『はい』
「何ですか?」
『過去の健康診断記録を』
「はい」
『可能な範囲で集めました』
「それで?」
高橋。
『修一さんは』
少し間。
『若い頃から老化が遅かったわけではありません』
森野。
「え?」
『少なくとも六十代までは』
「……」
『一般的な人間と』
『大きな差はありません』
森野。
「では」
『変化が見られ始めたのは』
紙をめくる音。
『七十代後半からです』
森野。
考える。
修一。
現在。
百二十五歳。
七十代後半。
約五十年前。
その頃には。
すでに。
アリアと長期間。
暮らしている。
森野。
「先生」
『はい』
「それって」
『まだ何も言えません』
高橋。
先に言う。
『ただ』
「はい」
『非常に奇妙です』
その週末。
研究会議。
高橋。
森野。
月島。
神崎。
アリア。
修一。
ユウ。
そして。
エリアス。
オンライン参加。
高橋。
「もう一例」
資料。
「エリアスさんの」
「六十四年間生活を共にした」
「人間の伴侶」
エリアス。
画面。
静か。
『はい』
高橋。
「百十八歳まで生きた」
『はい』
「医療記録は?」
『一部残っています』
高橋。
「確認させていただきました」
森野。
「どうでした?」
高橋。
「似ています」
全員。
静かになる。
「その方も」
「若い頃から特別に老化が遅かったわけではありません」
森野。
「では」
「高齢になってから」
高橋。
「老化速度が」
「……」
「一般的な範囲から外れています」
アリア。
修一を見る。
修一。
「つまり」
「まだ二例です」
高橋。
「結論は出せません」
「しかし」
資料。
閉じる。
「エルフ本人ではなく」
「エルフと長期間生活した人間にも」
「何らかの変化が起こる可能性を」
「検討する価値はあります」
森野。
「原因は?」
「分かりません」
神崎。
「食生活?」
「可能性があります」
月島。
「生活環境?」
「あります」
アリア。
「遺伝的に長寿だっただけ?」
「もちろんあります」
相沢は。
会議には参加していない。
これは。
研究協力者の会議。
しかし。
森野の頭に。
相沢が浮かぶ。
もし。
本当に。
エルフと暮らすことで。
人間の寿命が。
少しでも。
延びるなら。
そんなことを。
期待していいのだろうか。
会議終了後。
森野。
家。
帰る。
相沢。
夕食。
作っている。
「おかえり」
「ただいま」
「どうだった?」
森野。
「まだ分かりません」
「そっか」
相沢。
味噌汁。
味見。
森野。
背中を見る。
三十一歳。
自分より。
百十二歳。
若い。
なのに。
おそらく。
自分より先に。
老いる。
ずっと。
怖かったこと。
森野。
後ろから。
相沢の服。
つかむ。
相沢。
「何?」
「……」
「森野さん?」
「長生きしてください」
相沢。
振り返る。
「急だね」
「百二十五歳」
「修一さん?」
「最低目標」
「前より上がってない?」
「上げました」
「無茶だって」
森野。
「じゃあ」
少し考える。
「百歳」
「努力します」
「九十」
「かなり現実的」
「八十」
「普通に目指す」
森野。
「駄目です」
「何が?」
「八十で満足しないで」
相沢。
笑う。
「分かった」
森野。
「笑わないでください」
「ごめん」
「本気です」
「分かってる」
森野。
相沢の服を。
まだ。
つかんでいる。
相沢。
「でも」
「何?」
「研究が本当だったら」
森野。
「まだ本当とは」
「仮に」
「はい」
「森野さんと一緒にいると」
「……」
「俺が長生きするなら」
森野。
「はい」
相沢。
「ずっと一緒にいればいい?」
森野。
停止。
耳。
真っ赤。
「研究のために?」
「違う」
「寿命のため?」
「違う」
「じゃあ」
相沢。
「一緒にいたいから」
森野。
何も言わない。
耳。
ゆっくり。
上がる。
「……それなら」
「うん」
「許可します」
「何を?」
「長期共同生活」
相沢。
「同棲って言えば?」
森野。
「恥ずかしいので嫌です」
その瞬間。
インターホン。
森野。
「また誰?」
モニター。
水原香織。
そして。
神崎レオン。
森野。
「また来た」
玄関。
開ける。
水原。
「こんばんは」
神崎。
「急にすみません」
森野。
「どうしたの?」
神崎。
珍しく。
言いにくそう。
水原。
神崎を見る。
「言いなよ」
「……」
森野。
「何?」
神崎。
耳。
赤い。
「私たち」
「うん」
「一緒に住むことになりました」
森野。
停止。
相沢。
停止。
そして。
森野。
満面の笑み。
「レオン!」
神崎。
「その顔やめてください」
「同棲!」
「大声で言わないでください!」
森野。
「いつから?」
「来月」
「どっちの家?」
「香織さんの」
「ベッドは?」
神崎。
「帰ります」
森野。
「待って!」
相沢。
「自分が田中さんに聞かれて嫌だったこと全部聞いてる」
森野。
「これは別です!」
神崎。
「別じゃありません!」
水原。
笑う。
そして。
言った。
「実は」
森野。
「はい?」
「相談があって」
「何ですか?」
水原。
少しだけ。
真面目になる。
「レオンと私が」
神崎を見る。
「一緒に暮らした場合」
「……」
「私の寿命も」
「延びる可能性があるんですか?」
部屋。
静かになる。
森野は。
すぐには。
答えられなかった。
恋愛だった話に。
寿命というものが。
少しずつ。
入り込み始めていた。
コメント
1件
読んだ! この話、めっちゃ好きだわ。 まず冒頭のエレナの「結婚はいつ?」で一気に引き込まれた。 家族みんな集まっての鍋のシーン、笑いあり、照れありで、ほんとに“家族”って感じがした。 一番刺さったのは、夜の母娘の散歩。 「反対しないの?」「逃げなかったから」——このやり取り、しびれる。 そして研究パートで寿命の話が出てきて、一気にシリアスに。 リリカが直人に「長生きしてください」って言うとこ、めちゃくちゃグッときた。 最後の水原&神崎の同棲報告でニヤニヤが止まらん。 家族の温かさと、寿命というテーマの重さが絶妙に混ざってる回だった。 次回も楽しみにしてる🔥