それから数年の月日が流れた。そうだな、大体十六年といった所か。
 その年に、スコットランド様が生まれた。
 スコットランド様は、フロスティブルーの瞳を持って生まれていた。俺の真紅にも近い赤の瞳とは違った。だが、俺にはそんな事は関係ない。俺の主だ。それには変わりが無い。
 礼儀作法は生まれた時から知っていた。それがドールというものだからだ。
 スコットランド様にも礼儀作法を教えた。人前に出た時に恥をかかぬようにする為に。
 「英厳ってさ、本当に、凄いよな」
 そんなある日、スコットランド様はそんな事を呟いた。
 「何が?」
 「毒味もして、俺の護衛もして、なんなら家庭教師もしてる。一人で何役やるんだよってぐらい色々とやっててさ、凄いなって」
 礼儀作法のレッスンが終わり、机に突っ伏したままのスコットランド様がそう言った。
 それから又、数年、今度はイングランド様が生まれた。
 二つの国は対立し、やがて、二国の化身も顔を合わせなくなった。
 「イングランド様は、この屋敷に残っているが、スコットランド様は、自身の国のある方へと移り住んでしまった。二人が、会うことは、もう、ないのか?」
 そう考えるととても悲しかった。
 そんなある日、イングランド様が何やら嬉しそうに帰って来た。
 「そんなに嬉しそうにして、どうしたんだ?」
 嬉しそうにしながらゲテモノ料理を作っているイングランド様に問い掛ける。勿論、イングランド様の作ったゲテモノは俺が平らげる事になっている。
 「いや、なに、運命を感じるような出会いがありまして」
 ニコニコと笑いながら未だに手を止めない。俺が料理をすると言っても今日は聞いてくれなかった。あの青紫のスターゲージーパイは流石に食べたくないが、食べないと拒絶すると可哀想だ。仕方が無い。
 「誰と会ったんだ?」
 パイを焼いているイングランド様を見つめながら質問を投げかける。
 「スコットランドだ。花のような良い香りがしました」
 思わず飲んでいた珈琲を吹き出す所だった。二人(国)の関係は険悪ではないようだ。それは嬉しい。
だが、まさか、こんな所でイングランド様が恋するとは思ってもいなかった。
今度、スコットランド様に話を聞こう。
 「ですが、彼とはあくまで敵国同士。こんな感情は抱いてはいけないのは理解していますとも」
 イングランド様は、少し悲しそうに目を伏せた。
 「これは受け売りだが、本気で心の底から欲しいと願うものは、自分の手で掴み取れ」
 この二人の恋のキューピッドにでもなってやろうか。
 「自分の手で掴み取る…………。それは良いですね」
 ニヤリの笑ってみせた。あぁ、この二人なら、幸せを自分の手で掴み取るだろうな。俺の助けは、要らないな。この時、そう悟った。







