バス︰
シンスプリントもすっかり治り、夏——紬と凍は4泊5日のスケート合宿に参加することになった。
合宿は全国から選手が集まり、技術向上を目的に行われるものだった。
今は、出発前の人数確認の時間。
「えっと……紬、凍、それから……」
係のスタッフが名簿を確認しながら、選手たちの名前を読み上げる。
紬はスーツケースを引きながら周囲を見渡した。「結構たくさんいるんだね。」
凍は淡々と荷物を持ちつつ、「まあな。」と短く答えた。
紬はふと彼を見て、「久しぶりの合宿、楽しみ?」と聞いた。
凍は少し考えて、「練習の場だろ。楽しむものじゃない。」と言う。
紬は苦笑しながら、「そういうのも含めて楽しみなんだよ!」と返した。
凍はそれには何も言わず、ただ視線をリンクの方向へ向ける。
こうして、2人の合宿が始まろうとしていた——。
バスに乗り込んだ紬と凍。目的地までの道のりは長いが、合宿へ向かう期待感が漂っていた。
最初の数分は会話を交わしていた。しかし——途中から紬の様子が変わる。
「……ちょっと、気持ち悪い。」
彼女は静かに呟き、座席に身を沈めた。
凍はそれをじっと見つめ、「何やってんの。」と冷徹に言う。
紬は顔をしかめながら、「見てわかんないかな?」とキレ気味に返す。
凍は腕を組みながら、挑発的な笑みを浮かべる。「うん。わっかんないな〜。」
紬は彼を睨みながら、「もういいから黙って……。」と力なく言った。
バスは揺れながら、目的地へ進んでいく。
紬はしんどそうに座席に身を沈めながら、ふと思った。
「……凍くんは酔わないの?」
凍は冷静に「酔うよ?」と返す。
紬は顔をしかめ、「じゃあなんで酔わないの?」と突っ込む。
すると、凍はわずかにドヤ顔をしながら、ポケットから何かを取り出した。
「ロリポップ舐めてるから。」
そう言って、ピンク色の球の飴がついた棒付きキャンディを軽く見せた。
紬はそれを見て、一瞬呆気に取られた。
「……え、それで?」
凍は淡々と「飴舐めてると酔わないんだよ。知らないの?」と言いながらキャンディの包装を指で弾く。
紬は少し間を置いて、「知らないよ……そんなの……。」とぽそりと言った。
こうして、紬はしんどそうに座りながらも、凍の意味不明な自信にちょっとだけ呆れていた。
紬はまだ少し顔をしかめながら、凍をじっと見ていた。
「……ちょっと待って。さっきの話、もうちょっと詳しく聞かせて?」
凍はポケットにキャンディの包みを戻しながら、「何を?」と淡々と返す。
紬はじっくりと考えながら、「いや、その……甘党なのはわかったけど、他に好きなものとかあるの?」と問いかけた。
凍は少し考え、「別に、普通にチョコとか。」とシンプルに答える。
紬は驚きながら、「え、チョコも好きなの?」と言ってしまった。
凍は「好きだが、何か問題でも?」と変わらず冷静な態度。
紬は一瞬言葉を詰まらせたあと、少し笑いながら「なんか意外すぎて……。」とつぶやいた。
凍は肩をすくめ、「お前が勝手に俺の好みを決めつけてただけだろ。」と言いながら、再び飴を口に含む。
紬はその一言に、むっとしながらも「まあ、確かにそうかも……。」と納得する。
こうして、彼女は知らなかった凍の一面を知ることになった。
想定外の部屋割り︰
バスは長い道のりを進み、やがて広々とした合宿施設の前に止まった。
大きなリンク場、宿泊施設、トレーニングルーム——すべてが整った環境だった。
紬は窓の外を見て、「すごい……!」と息をのんだ。
凍は淡々と荷物を持ち、「まぁ、悪くないな。」と冷静に言う。
選手たちは続々とバスを降りていく。
合宿の始まり——4泊5日のスケート漬けの日々が、ここから始まる。
旅館に到着し、選手たちはそれぞれ自分の名前が書かれた部屋へ向かっていた。
紬と凍も名簿を確認しながら部屋を見て回っていた——すると、紬の名前が書かれた部屋を発見。
「ここだ……」と紬は立ち止まり、部屋のメンバー表を確認する。
次の瞬間——凍の名前がそこに並んでいた。
「……えっ?」
紬は驚いて凍の方を見た。
凍は荷物を肩にかけながら、面倒くさそうに「なに。なんか用。」と呟く。
紬は目をパチパチさせながら、「え、なんで凍くんもこの部屋なの!?」と声をあげた。
凍は軽く名簿をちら見して、「割り当てられただけだろ。」とあっさり言う。
紬は困惑しながら、「いや、もっと驚いてよ!」と凍に詰め寄るが、凍は「別に驚くほどのことでもない。」と涼しい顔をしていた。
こうして、想定外の部屋割りに紬は戸惑いながらも、合宿の夜が始まろうとしていた。
合宿初日が終わり、晩ご飯を食べてスケート練習をこなし、温泉で疲れを癒した紬と凍。
部屋に戻ると、他の2人はすでに眠りについていた。
しかし、ただ一人起きていたのは——凍だった。
彼は静かに窓を開け、さっき洗った衣類を干している。
「……意外と生活的じゃん。」
紬はその姿を見て、思わずそう思った。
旅館で貸してもらった浴衣を身にまといながら、彼女はそっと問いかける。「なんで起きてるの?」
凍は衣類を整えながら、淡々と答えた。「枕が変わると寝れないから。」
紬は思わず笑ってしまう。「私もあんまり眠くないや。」
そんな会話から、ふと話題が恋バナに移る。
「好きな人とか……いる?」
紬が何気なく尋ねる。
凍は少しだけ考え、「いない。」と即答。
「あんたは?」
「いないよ。」
そんな静かなやりとりの中で、お互いに少しだけ視線を交わす。
月の光が窓からこぼれ、静かな夜が2人を包み込んでいた——。
静かな旅館の部屋で、紬と凍は浴衣をまといながら話し続けていた。
「……恋バナって、何話せばいいんだ?」
凍は無表情のままそう言う。
紬は腕を組みながら、「うーん、例えば理想のタイプとか?」と提案する。
凍は少し考えたあと、「別に、好きになったやつがタイプだろ。」と淡々と言う。
紬は苦笑しながら、「それ、すごくざっくりしてるね。」と返す。
凍は飴の棒を軽く指で弾きながら、「あんたは?」と尋ねた。
紬は少し考え込む。「えーっと……一緒にいて楽しい人、かな?」
凍は「ふーん」と興味なさげに返す。
紬はむっとしながら、「ちょっと!そこはもうちょっと突っ込んでよ!」と言う。
凍は肩をすくめ、「じゃあ、一緒にいて楽しいって、具体的にどういうことだよ。」と聞き返す。
紬はしばらく考えたあと、「なんか、無理せず自然に話せるっていうか……」と言いながら、ふと凍を見る。
——そういえば、凍とは意外と自然に話せてるかも。
しかし、その思いに気づくと、紬は慌てて視線を逸らした。
凍はその様子を見ても何も言わず、ただ窓から月を眺めていた。
こうして、ふとした恋バナが、静かな夜の中で続いていく——。
トイレ︰
凍はようやく眠りについた——はずだった。
しかし、紬はまだソワソワしていた。
結局、彼女は凍を揺さぶりながら起こす。
「……何だよ。」
凍は寝ぼけながら、不機嫌そうに眉を寄せる。
紬は少し震えながら、「おばけが出そうで怖いから……トイレついてって……。」と不安そうに言った。
凍はため息をつきながら、冷静な顔に戻る。「分かったよ。ついてってやる。」
そう言って、彼はカバンからヘッドホンを取り出し、手に持って歩き始める。
廊下——紬は「怖い怖い」と思いながら、凍の背中にぴったりくっついていた。
すると、凍は立ち止まり、紬の耳にヘッドホンをそっとつける。
流れてきたのは——「メラ」。
紬は補聴器をつけていたので、ちょうど音が伝わる。
彼女はホッとしたように息をつき、「これならいける……」と呟いた。
無事にトイレへ向かうことができた——が。
凍は腕を組みながら、冷静に言う。「あんた何歳児だよ。いつまでお化け信じてんの。」
紬はトイレの中から「怖いものは怖いの!」と強気に叫ぶ。
その瞬間——凍はヘッドホンの音を「呪いのピアノ」に切り替えた。
「……ひっ!?待ってごめん!!!」
紬は慌てて謝る。
凍は満足げに微笑みながら、「それでいい。」と呟いた——。
紬は布団の中に潜り込みながら、ふと思い出した。
「ねえ、凍。なんか面白い話してから寝ようよ。」
凍は少しだけ目を開け、「なんでだよ。」とめんどくさそうに返す。
紬はムッとしながら、「だって、ちょっと眠くないんだもん!」と子供みたいな理由を言う。
凍は軽くため息をついて、「……じゃあ、あんたに合う話をしてやるよ。」と呟く。
紬は期待して、「何?」と身を乗り出す。
凍は冷静な顔をしながら、「昔、スケート靴の中にチョコを入れたやつがいたんだよ。」と語り始めた。
紬は「えっ、それでどうなったの?」と聞く。
凍は淡々と、「そいつ、滑り終わったら靴の中が溶けたチョコでベトベトになってたらしい。」と答えた。
紬はしばらく沈黙したあと、「何それ!!意味わかんない!!」と大爆笑。
凍は腕を組みながら、「だから言っただろ、あんた向きの話だって。」と冷静な顔で言う。
紬はまだ笑いながら、「それって誰の話!?」と聞くが、凍は「さあな。」と濁す。
こうして、夜の終わりにくだらない話をしながら、2人はゆっくりと眠りについた——。
つづく
コメント
6件
私もだわ!www
凍くんの甘党なのはギャップになるかな〜?と思って書いたけどドヤ顔も想像したら可愛い♡
www