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莉愛
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勇斗の「そっか」が、やけに薄く聞こえたのは、
たぶん自分のせいだ。
部屋の明るさに無性に泣きそうになる。
隣には確かに勇斗が存在して、温度がちゃんとあるのに、どこか遠い。
「ねえ」
隣から、少し強い言葉が掛かる。
「なに」
「今、ちょっと怖いこと考えたでしょ」
図星すぎて、言葉が止まる。
「……なんでわかるの」
「顔」
即答されて、思わずため息が出る。
「別に、大したことじゃないよ」
そう言いながら、先ほど淹れたまま手付かずのため、少し冷めたコーヒーに手を伸ばして、少し距離をとる。
でも、離れてはくれない、横の存在。
「続くといいね、って言ったから?」
さっきの言葉を、そのままなぞられて、誤魔化しが効かない。
「……続かない可能性もあるだろ」
「あるね」
あっさり肯定されて、余計に胸がざわつく。
だってどこにも、なんにも俺らには確証がない。
「でもさ」
少し苛立ちを含んでいるようなトーンの声。
「今はここいるじゃん」
当たり前のことを言われてるのに、妙に引っかかる。
「だから今、こうしてるの、すごくいいなって思ってる」
軽く抱きしめられる。
逃がさないみたいな、それでいて無理はさせない、中途半端な強さと、優しさで包まれる。
「仁人は、違う?」
答えられなくて、少しだけ間が空く。
なんでそんなこと言うんだろう。
『今』なんてお前はそんな奴じゃないじゃないか。
常に『先』を見据えて生きてるのに。
俺の『今』に付き合う必要なんてないのに。
「……怖いんだよ」
小さくこぼした言葉に、自分でも少し驚く。
「こういうの、慣れるとさ」
続けようとして、言葉が途切れる。
慣れた頃に、なくなる気がして。
勇斗が『この先』に気付く気がして。
そこまでは、言えなかった。
しばらく黙っていると、勇斗がゆっくり息をつく。
「なくなるかもね」
また、あっさり言う。
「でも」
今度は少しだけ、顔を近づけてくる気配がした。
「なくなる前提で一緒にいるの、つまんなくない?」
耳元で言われて、思わず振り仰ぐ。
距離が近くて、視線がぶつかる。
「……つまんなくは、ある」
「でしょ」
少し笑って、勇斗は額を軽くぶつけてきた。
「だから、なくなったらその時でいいじゃん」
無責任に聞こえるのに、なぜか少しだけ楽になった。
「そんな考え方するタイプじゃないだろ」
「……ん。でもさ、大事なこと」
「なにが?」
「あんま追い詰めるとじんちゃん逃げちゃいそうだから」
そう言って、またいつもの調子で肩に顎を乗せる。
さっきと同じはずなのに、部屋の明るさに今度は救われた。
「……冷めちゃってるね」
手元のカップをとりあげて、淹れなおしてあげるよ。と
当たり前みたいに言って、勇斗は離れる。
その背中を見ながら、ほんの少しだけ思う。
続くかどうかなんて、わからない。
でも、ちゃんと今はここにあった。