テラーノベル
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※今回長くなってしまいました💧ストーリーはもう少しで終わる予定です。
藍Side
‥ん‥‥、
カーテンの隙間から光が差し込む。眩しさに目を細めながら時計を見ると、もう昼近くになっていた。
モゾッとベッドから抜け出し、洗面所へと向かう。
鏡に映る自分の顔は悲惨極まりない。腫れた瞼、充血した目、涙の痕がくっきりと残っていた。
無造作に顔だけ洗うと、再びベッドへと潜り込む。
何もする気にはなれなかった。何も考えたくない。
そんな時、遠くで着信音が鳴り響く。
早朝、怒りに任せて蹴り飛ばした携帯。
見たくもない‥そう思ったが、大事な用件なのかもしれないと、蹴り飛ばした方向を探す。すぐに携帯は見つかった。
拾い上げ、画面を見ると‥‥‥‥あっ、
「‥もし‥もし‥」
「おっ、やっと出たな。」
声を聞き、安堵したように呟いたのは‥太志さんだった。
「ん?、声枯れてない?どうした?」
「えっ‥いや‥なんでも‥ないっす‥」
泣いていたから‥声が枯れているんだろうか。
「嘘つけ、なんかあったろ?さっきさ、塁が電話しても藍が出ないって大騒ぎするから、俺がまた掛けてみるって話したんだ。(ボソッ)もしかしたら‥祐希絡みなんじゃねぇかと思って‥違う?」
「えっと‥それは‥そのぅ‥」
「ああ‥もう今ので分かった!とりあえず電話じゃなんだし、俺、行くわ、今からそっちに」
「えっ?今から!?」
「(ボソッ)近くに‥塁もいるからさ‥お前も話しにくいだろ?」
「でも、俺、今、不細工やと思うし‥」
「何言ってんの!そんなの前からじゃん!笑」
「太志さん、ひどっ!!」
「笑、たまには言われたっていいだろ?笑」
携帯の向こうでゲラゲラと笑う太志さん。きっと、近くにいる塁を安心させるためでもあるんだろう。
誰かに会える状態ではないと思ったが‥家に来ることを了承した。
このまま1人でいてもきっと、心は塞がるばかりだと思うから‥。
「おー、思った以上に酷い顔だな、笑‥ほら?」
玄関を開けるなり、開口一番がそれなんて‥。しかし、ポイッと手渡されたのは‥冷えピタだった。
「少しは腫れが引くだろ?」
顔を覗き込みながら、頭をポンポンと叩かれる。
「‥あざっす‥」
俯きながら礼を言うと、もうスタスタと部屋に入っていく。遠慮のない振る舞いに、つい苦笑してしまう。
太志さんらしい。
「で?祐希と何があったわけ?」
ソファに腰掛けるなり、尋ねられる。
「‥いきなりっすね‥ちなみになんで‥祐希さんが原因やと思うんです?」
「‥実はさ、いや‥もっと早くお前に言うべきだったのかなって思うんだけど‥前に祐希に聞いたことがあって、」
「‥‥‥」
「お前に冷たい態度取ったときあったろ?その理由聞いたら‥お前に嫉妬して欲しいからって言っててさ、」
「祐希‥さん‥が?」
「ああ。で、それには智君が絡んでた。多分、協力者なんだと思う、祐希の。思い当たる節があるだろ?やけに2人一緒にいたし、」
「智さん‥が、協力者‥?」
だから、2人は常に一緒にいたのか‥いや、でも、祐希さんの事を話す智さんは‥
「2人が一緒にいるのを見たら、藍が嫉妬してくれると思ったんだろ‥でも、それだけじゃない。智君、祐希に気があるんじゃないかって。違う?」
違わない。智さんは祐希さんに思いを寄せている。コクリと頷くと、やっぱりね‥と呟く。
「前に、智君が祐希の家に行ってもいいか?って誘ったとき、俺が言ったろ?藍を誘ってくれって‥」
「はい‥」
「お前は気付かなかったかもしれないけど、あの時、智君すげぇ顔してたから。ずっと気になってて。でもすぐに思った。これは、本気の顔だって。だから、なんとなく智君の行動は気にしてたんだけど‥」
「‥‥‥‥」
「そしたら、昨日、たまたま会った小川に話聞いたらさ、智君用事があって出かけるって聞いて。どこに行くのかも何も教えてくれなかったって、こんなの初めてだって言うから、まさかと思って‥」
そうだったのか。それで、智さんは祐希さんのところにいるんじゃないかと思ったらしい。
俺がやたらと携帯を気にしていた事も、塁から聞いていたみたいやし。
「昨夜、携帯気にしてたって事は、藍も祐希のところに智君が居ることを知ってたんじゃない?それで?聞いてもいい?何があったのか‥」
そうだ、これからが本題やった。チラリと太志さんの顔を伺う。
話していいものか‥。
躊躇う。
でも‥
『藍が想像してる事をしたよ‥意味分かるよね?』
不意に携帯越しに聞いた智さんの勝ち誇った声が脳内に再生される。
2人は一夜を過ごしたんだ‥
愛されていたのは俺だけじゃなかったんや‥
「藍‥?」
「太志さん‥お‥れ、どうしたら‥いい‥ん?」
不覚にも声が震え、俺を見つめる太志さんの顔が滲む‥
「智さん‥言うとった‥ゆう‥き‥さんと‥寝たって‥」
「‥‥‥‥」
「‥俺‥ずっと‥信じて‥待ってた‥のに‥なにが‥あかんかったん‥かな‥、も‥ゆうき‥さんに‥愛されて‥ない‥んやろか‥」
先輩の前だというのに、みっともないぐらい涙がボロボロと流れ‥声が詰まる。
でも、そんな俺を‥
太志さんは何も言わず近寄ると、
ただ抱きしめてくれた。
ポンポンと肩を叩きながら。
優しさに包まれ‥
泣いてしまった‥。
涙って不思議だ。あんなに泣いたのにまだ出るんだな‥。
ああ‥
この涙と共に、想いも記憶も温もりも、
消え去ってくれればいいのにと願わずにはいられなかった。
「よしっ、じゃあ、行くかっ!」
「えっ!?」
太志さんの胸を借り、泣き続け‥ようやく落ち着いてきた頃、不意に威勢のいい声を発しながら太志さんが俺の腕を引く。
「ちょっ、まっ、待って!どこ行くんすか?」
「祐希の家に行くに、決まってんじゃん!」
「えっ!?今から?」
「当たり前だろ!今から行って一発殴らないと気が済まんだろ?」
「殴るって‥大問題になるんじゃ‥」
「言葉の綾だよ。まぁ、本当に殴りはしないけど‥お前のこと泣かせたんだ!責任は取ってもらわんと!」
「でも‥俺‥会いたくない‥」
「今、行かないと今度いつになると思う?思い立ったら即行動って言うだろ?」
ほら、行くぞ!と半ば強引に引っ張られ‥
気は進まない中、祐希さんの家に行く事になってしまった‥。
智Side
「‥はぁ‥」
「溜息ばっか、だね‥。俺のせい?」
さっきから携帯を覗き込み、溜息をつく祐希を眺め、思わず声に出てしまう。
溜息の理由。
原因は分かってる。
藍だ‥
幾度となく藍に連絡をしては、返事がなく、あからさまに落ち込む様子に胸が痛む。
今、一緒にいるのは俺なのに。
今日は、俺だけのものになるって言ったのに。
俺には今日しかないのに‥。
このままで終わらせたくない。
「ねぇ?祐希?」
少し離れた位置に座る横顔に話しかける。
「‥なんでそんな離れてるの?‥隣に座ってくんない?今日はさ‥約束したろ?俺だけのものになるって‥責任取るって‥」
‥卑怯だが、こう言うしかない。義理堅い祐希は、必ず守ってくれる。
俺は知っている。
「ん‥分かった‥」
ほら。甘えるように伝えたら、思惑通り、隣に来てくれた。嬉しくなり、つい腕に抱きついてしまう。
困惑した様子だが、振り解こうとはしない。そんな祐希からはまたいい匂いがする。
起きた後、シャワーをお互いに浴びたから‥。
今の俺からも祐希と同じ匂いがするんだろうな。
不思議とそんな些細なことが嬉しくて堪らない。こんな時なのに‥
昨夜と同じように‥クンクンと匂いを嗅ぐが、一つ違うのは、祐希が携帯を注視していること。藍からの連絡を待っているんだ‥
今日しかないのに‥そんな焦りが次第に大きくなる。
「なぁ?祐希‥こっち、見て?‥さっきから全然見てくれないじゃん?そんなに‥俺がきら‥い?」
話すうちに涙が溢れた。
今日は一緒にいてくれるって言ったのにと‥優しい祐希を責めた。
『うそつき』‥思わず発してしまった言葉に‥祐希の顔が歪む。苦しそうに‥
違う、こんな顔が見たい訳じゃなかった。心では分かっている。
だが‥もう、止められない。
泣きながら、祐希の頰を触る。
「ねぇ?祐希‥俺‥辛いよ。こんなに好きになるなんて思わないじゃん。誰のせい?俺だけのせいなの?祐希だって悪いんだよ‥だから‥愛させて‥昨日はたくさんキスしたでしょ?覚えてないかもしれないけど‥ほら、俺の身体にこんなに残ってる‥ねっ?キスして‥」
「と‥も‥君‥」
「そんな顔しても許さない、キスして。今日だけだから‥。じゃないと‥俺、お前がつけたキスの跡、見せるよ?全部。藍に見せるよ?いいの?‥‥ぐすっ。お前がつけた印を見たら、藍はどんな顔すると思う?ふっ、‥ああ‥でも、お前は喜ぶのかな‥藍に妬きもち妬かせたかったんだもんな‥」
‥こんな時なのにどうして俺はこうもスラスラと祐希を傷付けるような言葉を言ってしまうのか。
自分でもわからない。
人を愛しただけだ。
それが、誰かのものであっただけ。
無償の愛に包まれたかっただけ。
優しい恋人の存在を忘れて、俺を慕ってくれる後輩を裏切って、子供のように無邪気にその愛を欲しがって‥
その先にはなにがあるというんだろう。
いや‥
もう俺は知っている。
そんなの、
欲しがった代償が待ち受けていることも。
覚悟を決めて泣きながら祐希の唇にキスをする。
拒否はない。ただ、祐希も同じように‥泣いていた気がする。懺悔の涙なのか‥。時折雫が頰を伝わり口元へと流れ込む。涙の味のキスは切なく‥俺はきっと一生忘れないだろう。
ああ‥ほら、
遠くでインターホンが鳴る‥。
この愛の終焉を迎える合図なのだろう‥
コメント
10件
大志さ〜ん😭保護者ですや〜ん😭 藍くん智さんのことは気にせず、3人で話しておいで!🥰 智さんどこかな?あ、見つけた⭐️ じゃあ続き楽しみにしてます! 智サーん?( ¨̮ )(圧)
大志さん頼りになります😭 ほんと、必ず藍くんの味方になってくれる♡ さぁ。ゆうきさん、どうやって藍くんから許してもらう?…許されるかなぁ…
太志くんいい人すぎる❤️らんらん1発殴るくらいしなきゃじゃね!?2人とも!