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『愛なんて、』 第8話 sn編②
俺は悩むようになった。
付き合い始めた当初は純粋に仁人とふたりで死ぬまで一緒に生きていければいいと思っていた。仁人もそのつもりだと信じていた。
だけど、あの出来事をきっかけに色々と考えるようになってしまった。この先の未来、本当に仁人と幸せに過ごしていけるのか。
そんなことを思ってしまうくらい、突きつけられた現実は俺に重くのしかかっていた。
悶々と悩む日々。
だけど仁人には察しられないようにしなければと気をつけて過ごしていく毎日に少しずつ精神が削られていった。
心に余裕ができなくなっていって仁人に対して素っ気ない態度をとってしまってることは自覚していた。冷たくする度に悲しい思いをさせていることにも気づいていた。
それでも、以前のように接することができなくなっていた。なるべく顔を合わせないよいにお互い休日でもわざと予定を入れて一緒に過ごさないようにした。残業もするようにして帰りをあえて遅くなるようにもした。
それでも夜遅く帰っても仁人は俺の帰りを寝ている時もあるが待っていたかのように起きていることもある。そんな健気な仁人に申し訳なさで心が痛んだ。
このままではいけない。頭でわかってはいたけど、ひとりで抱えるには大きすぎるものに自分が壊れてしまいそうだった。
誰かに相談したかった、助けて欲しかった。
仁人が頼りないわけじゃない。大切だからこそ、愛してるからこそ、頼れなかった。
※
「佐野くん、最近元気ないんじゃない?」
かつて新人の頃自分の指導者でもあった女性の先輩が、昼休憩の時に空いてる向かいの席に座って声を掛けてくれた。可愛らしい顔つきなのに中間管理職的な立場で仕事もテキパキこなすというギャップがあり尊敬できる年上の先輩のうちのひとりだ。
「いや、全然元気っすよ」
「うそつき。顔死んでるよ?営業マンは見た目も大事なんだからなんとかしなさい」
「なんとかって言われても…」
「なにか悩みでもあるの?頼れる先輩なんだからなんでも言いな」
「頼れるって…自分で言いますかそれ……本当に大丈夫です…」
「プライベートなこと?」
「んん……まぁ、そうっすね…」
「じゃあ今度の休日、話聞いてあげる。会社だと難しいし」
「いや、俺大事な人いるんで…異性と出掛けるのはちょっと…」
「あはは、心配しないで、大丈夫。私、男には全く興味がないから」
「……え?」
「あれ、言ってなかったっけ?私レズなの」
「………れず?」
「そ、女性が好きなの」
※
週末、先輩が行きつけだという小洒落たカフェで待ち合わせをした。良い店だな、今度仁人と来てみようかなぁなんて店の前で待って考えていたら普段スーツ姿とは違う、私服姿の先輩がやってきた。
「ごめーん、お待たせ。待った?」
「いえ、全然。すみません、休日なのに時間もらっちゃって」
「なーに言ってんの、私が言い出したらことなんだから気にするんじゃないよ」
店内は満員だったのでテラス席に案内された。とりあえずドリンクだけ先に互いに注文し終えたら早速先輩が前のめりになって「それで?どうしたの佐野くんは最近」と聞いてくる。
「先輩近いっすよ…」
「あ、ごめんごめん」
「…えっと、」
グッと拳を握る。今から言おうとしていること、本当に言っていいのか迷った。
でもこれ以上はもう耐えられないところまで自分は追い詰められているのかもと思うと意を決する。
「先輩は…男同士の恋愛、どう思います?」
「男同士?」
「……俺、恋人がいるんですけど…相手も男なんです」
「……そう…」
先輩は注文して届いたアイスカフェオレにささってるストローをぐるぐるゆっくりとまわして伏せ目がちなりなにか考えている様子だった。静かなふたりの間にまわすたびにカラカラ氷がぶつかり合う音が響く。
あぁ、やっぱり言わないほうがよかったのかなぁ……そんな後悔が押し寄せてくる。
しばらくすると、先輩がぽつりと呟いた。
「私の過去の話、してもいい?」
「…はい」
「……今より全然若い頃、女性と何年か付き合っていたことたある」
「…そうなんですか」
「うん、お互い本気で愛し合ってた。ウェディングフォト撮ろうねなんてまで言ってたの。最初はよかったけど、でもまわりのみんなに隠して付き合うことが段々苦しくなってきた。だから、親や友達に自分はレズだということと、女性と付き合ってることを伝えたの。そしたら、親には縁を切られ、友達はみんな離れていった。今思えば本当にオープンにするべきだったのかなって後悔してる時もある」
「………あの、今相手の人とは?」
「ずいぶん前に別れた。他に好きな人ができたって、しかも相手は男。やっぱりこんなのは違うって、気の迷いだったのかも、だから私にも真っ当な人生を歩んでなんてことも言われたわ」
「…ひどくないですか、それ」
「別れた時はそう思っていたわ、でもよくよく考えたらあの人は私の将来のこと考えて別れるという決断をしてくれたのかなって…そう自分に思わせないと立ち直れないくらい落ち込んだ。真っ当な人生ってなんだろうね、私はあの人と生涯添い遂げる覚悟はできていたのに…あの時こうだったら、こうすれば……たらればなことばっかりな恋愛だったなぁ……佐野くんは、相手のことを好き?」
「愛してます、死ぬまで一緒にいるつもりです」
「…そっか、…相手の人が羨ましいなぁ、そんなにも佐野くんみたいに愛してくれる人がいるなんて」
「…でも、最近迷ってるんです。この先のこと…このままで本当にいいのかなって、俺は…俺らを受け入れられない人たちがいるこの世の中から彼を一生守れるのかなって不安で、怖くて…悲しませたくない、傷ついてほしくないんです、彼には……」
「佐野くん……」
「正直憎くなってすらいます。この世の中が…そんなことまで思うようになっています」
「……まずは、よく話し合ってみたら?佐野くんの気持ちもぶつけてみたらいいんじゃないかな」
「…話し合い…」
「彼の気持ちも大事だけど、あなたの気持ちを伝えることも大事なことなんじゃないかなぁって思うけど」
「……そっか…」
「…んー…いっぱい話したら甘いもの食べたくなっちゃった。デザート頼んでもいい?佐野くんの奢りで」
「え!?…まぁいいっすけど…もともとそのつもりだったんで」
「じゃあデザート全部注文しよ」
「は!?全部!?」
「ふふ、嘘だよ」
「ちょっとやめてくださいよ、マジで」
あはは、っておかしくて久々にこんなに笑った。気を張るような日々だったが少し気持ちを吐き出せてそれが少し緩んだような気がする。
でもそんな笑い合う俺たちを仁人に見られていたなんて、この時は思ってもいなかった。
※
先輩に仁人がいずれ店を開きたいということを言ってみたら、知り合いに実際にカフェを開業させた人がいるというので今度話を聞いてみることになった。
実際開業させるには何をすればいいのか仁人のために少し調べようと先輩と別れた後にネットカフェに行って勉強していた。仁人も仁人なりに調べたりしていたが、自分も役に立ちたいと思っていた。
そのせいでその日は帰ってくるのが遅くなってしまった。0時近くてさすがに仁人は寝てるだろうと思っていたが、リビングに向かえばソファーには仁人が座っていた。
「…あ、おかえり勇斗…」
「……起きてたんだ」
うたた寝でもしてたのだろうか、とろんとした目を指で擦っている。久しぶりに仁人の顔をちゃんと見た気がした。だからなのか、話すことが妙に緊張してしまって顔が強張ってしまう。立ち上がった仁人は何か言いたそうにしている。指先同士を弄ってそわそわしているその仕草はなにか言いたいことがある時だとわかっていた。
「勇斗と話し合いたくて」
ドキンと心臓が跳ねた。
話し合い…仁人も、俺に何か言いたいことがあるのか。あんな冷たい態度をとっていたから、愛想をつかれてしまったのだろうか。
ーーもしかして、別れ話か?
「俺は話し合うことないよ」
咄嗟にでた拒否の言葉。
その言葉に仁人は呆然とする。まさか断られると思ってなかったのだろう。
「俺はあって、」
「…うるさいな、風呂入ってもう寝る」
「……昼間…、誰と……」
「なに?」
「……ううん、なんでもない」
風呂場に向かう時仁人を一瞬見た。
下唇を噛み締めて俯いて悲しそうにしていた。何も言わせないように強い言葉を言ってしまった。優しくしたいのにまたやってしまった。
脱衣所でしゃがみ込んで頭を抱える。
心が揺れる。せっかく話し合おうと思っていたのに。
ーー俺があの時、仁人と友達になろうと言わなかったら
ーー俺があの時、仁人に好きだと言わなかったら
ーーー俺たちがもし、出逢わなかったら
仁人は他の人生を歩んでいたのではないか?
別れたくない。でも俺と一緒にいるせいで仁人がこれから先、悲しんでしまうのならもう自由にさせてあげたいほうがいいのか?
俺みたいな奴より、他の人の方が幸せにしてあげられるんじゃないか。
先輩が言っていたように、真っ当な人生ではないけど普通に結婚して、子供に恵まれて幸せに家族で過ごすような、そんな人生。
好きで、大好きで、愛しているのに
結局一生守り抜くという自信と覚悟が俺にないだけなのだ。
続
お互いを想い過ぎてすれ違う…
前話で次はjyu さんの話と書きましたが書く順番ミスりましてsn編②になりました。すみません💦だらだら続いてて申し訳ないですがもう少しだけお話は続きます。私生活は少々バタついておりますので更新がゆっくりめになるかもしれないです。
必ず完結させますのでお待ち頂けたらと思います。。
#👶🏻➰💘
♡♡
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はるか
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コメント
7件
ハッピーエンドを願ってます😭
更新ありがとうございます!こ、拗れてる〜💦 🩷さんはどうしたってんだ!?と思っていましたが、空回りしていたんですね🥲2人には話し合いが必要ですね…なのに話し合いキャンセル😭どうなってしまうのか…行く末を楽しみにしております🙌
大好きだからこそ余裕がなくなって、素っ気なくなってしまうのが本当に本当にリアルで切ないです……! 今回も素敵なお話をありがとうございます!更新してくださるだけで嬉しいので、いくらでも待ちます!無理せず、ゆっくり更新お待ちしております😭