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東京タワーの頂上を、数機の攻撃ヘリが包囲した。
サーチライトの強烈な光が、硝煙と火花にまみれた配信ルームを真っ白に焼き抜く。
「……各員に告ぐ。対象の生存を許すな。パンドラの機密と共に、すべてを瓦礫の下へ葬れ」
スピーカーから響くのは、冷徹な国家の意志。
ミサイルの照準が、私たちの立つガラス張りの部屋に固定される。
喉を使い果たし、九条さんの胸で息を絶え絶えにしている私には、もう抗う術は残されていないように思えた。
「……ここまで、なのかしらね」
結衣が空の弾倉を捨て、苦笑いを浮かべる。
蓮は私の服をぎゅっと握りしめ、九条さんは残った左目で、静かに夜空を睨み据えていた。
だがその時、包囲する政府軍の無線に、凄まじいノイズが割り込んだ。
『——その脚本、退屈すぎて欠伸が出るわ』
聞き覚えのある、傲慢で、けれど誰よりも気高い声。
政府のヘリの隙間を縫うようにして、一機の漆黒の民間ヘリが強引にタワーの展望デッキへと着陸した。
ハッチが開き、風圧の中で長い髪をなびかせながら現れたのは——美波だった。
「美波……!?あんた逃げたんじゃなかったの!」
結衣の驚きに、美波は不敵な笑みを返した。
彼女の手には、政府の最高機密が収められたタブレットが握られている。
「逃げるわけないでしょ。私は『女王』なのよ? 政府がパンドラを私物化しようとしていた全記録、すでに海外の主要メディアと分散型ネットワークに放流し終えたわ」
「…今この瞬間から、あなたたちが攻撃を仕掛ければ、それは国家による『虐殺の証明』として世界中に生中継されることになる」
ヘリの照準が、迷うように揺れた。
美波は単身で、国家という巨大な演出家に対し、世界という観客を武器にチェックメイトをかけたのだ。
「……栞。あんたが作った『静寂』、無駄にはさせないわよ」
美波が差し出した手に、私は九条さんに支えられながら、震える手を重ねた。
かつて憎しみ合い、声を奪い合った私たちが、今、命を繋ぐために手を取り合う。
「——撤退しろ。…これ以上の続行は、国益を損なう」
無念そうな指揮官の声と共に、攻撃ヘリの群れが、夜明けの空へと遠ざかっていく。
完全な沈黙が、東京タワーを包み込んだ。
「……行こう、栞さん。僕たちの、場所へ」
九条さんが私を横抱きにする。
私たちは美波のヘリに乗り込み、崩れゆくパンドラの聖域を後にした。
眼下には、洗脳から目覚め、互いの無事を確認し合う人々の小さな光が、無数に広がっている。
それは、父が望んだ統制された光ではなく、不揃いで、けれど温かい、本物の命の輝きだった。
朝焼けが、水平線の向こうからゆっくりと世界を染め上げていく。
私の喉にある火傷の痕が、初めて、痛むのを止めた。
深冬芽以