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目を開けると、やはり人工的な灯りが目に映った。
その灯りに、心は暖まるはずもない。
求めている笑顔が脳裏に映る。
縋り付きたい、消して欲しい。その笑顔で塗りつぶして欲しい記憶を、引きずり出して鮮明にしていく。
考えたくないと訴えてくる自分を額を小突いて、黙らせて。
(どうしてこうなったんだ……って、思って、ああ。俺が、好きなんて返さなきゃよかったんだって)
それから、話題に上がった”隣のクラスで1番可愛い子”と付き合った。
気分が悪過ぎて適当に相手をしていたら、いつの間にか別れていて。
”仲の良かった女子同士を引き裂いた遊び人”みたいなよくわからないレッテルを貼られる始末で。
(まあ、それはそれでいーんだけど。今も大して変わらないし)
それからだったと坪井は記憶している。
『好きだと寄ってくる女』に嫌悪感を持ちながらも、特別になりたいと躍起になる姿を俯瞰して満たされてきたこと。
(女ってバカだなって思うと気が楽になる)
好みの相手なら基本的には誰だって良かった。
稀に惹かれる相手に出会うと、やはり男だ。
一等優しく触れる。こんなバカげた自分が終わってはくれないかと……やはりどこかで期待していたのかもしれない。
けれどそんなふうに大切に扱うと、ほぼ確実に出てくる言葉。
『私のこと好き?』
『好きって言ってくれないの?』
それがまるで呪いの言葉のように。
いつも、気持ちを急激に冷やしていく。
その単語を、嘘でも声にすることが恐ろしかった。
相手を不幸にしてしまうかもしれない、なんて上等な理由があったわけではない。
ただただ、あの泣き顔や、手首の傷や、芽生えた異性への興味が渦巻く空間や。
そんなものを思い出しては気持ちが悪くなった。
(それからずっと、無意識に試し続けてる)
女同士で揉めたらどう出る?
優しく甘い彼氏が裏切ったら?
求める言葉を返さなかったら?
不安で押し潰されそうな時は?
目の前の人物の真実が望む形では、なかったら?
(ほら、どーすんの、お前らってさ)
けれど、そのどれをも。思いつく限りの全てを踏み越えて笑顔を見せ続ける人に出逢った。
好きだと笑う人に出逢った。
何の疑いも向けずに、惜しみなく優しさを降らせ。
逃げ続ける坪井とは対照的に、常に自分の弱さと向き合う人。
いつだったか吐いた弱音。
ああ、しまった。取り消したい。なんて焦る心を取り繕う前に。
恥ずかしそうに、けれど真っ直ぐに彼女は――立花真衣香は言った。
『私にいくらでも吐き出して寄りかかって、頼って』
『隠さないで全部見せてほしいの』
小さくて頼りなさげで、だけど誰よりも強い。
“全部、見せてもお前変わらず笑ってんの?“
疑おうとする心と。
縋り付きたい気持ちが、いつも交差して。
もう訳がわからなかった。
自分自身のことが、わからなくなっていった。
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