コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
そろそろ暖まったころなので私は湯船から身を乗り出した。今は1月真っ只中で至極寒い日が続いている。身体中に帯びた水を拭き取り、髪の毛を乾かしているうちに昨日のことを思い出した。
昨日出逢った女はとても不思議な女であった。私は喫茶店で珈琲を嗜みながら窓の外を眺めていた。人々が行き交う中、私はある1人の女に目がいった。その女はどこかで会ったことのあるような面持ちで、誰かを探しながら歩いているようだった。私はなぜかその女のことが気になり、目で追っているうちに視線がぶつかり合ってしまった。すると、女はこちらを見てはにかんだと思ったらそそくさと他所へ行ってしまった。まるで私を一目見て満足したかのようであった。どうも私はあの女のことが気がかりである。別に好意を寄せているわけではないが、何か繋がりがあるのではないかと直感で感じた。しかし、もう会うはずもない女のことを考えていても仕方がないので、気になりつつも私は日常に戻った。
私は今大学1年生で、両親は私が物覚えつく頃に他界してしまった故に祖母と暮らしている。両親の死因についての詳細は知らない。知ったところで何もすることはできないので知ろうともしていない。私の知る両親は、額縁の家族写真のみである。その写真を家の掃除をしている際に久々に見た。そのとき私ははっとした。母親の顔がつい先日見た不思議な女とそっくりなのだ。どこかで見たことがあると思っていたが、まさか母親に似ていたとは思いもよらず、身の毛がよだつ思いをした。私はこの話を祖母に黙ってはいられなかった。祖母にこのことを話すと、祖母の優しげな表情が一変した。私は祖母の表情を見た途端、祖母は女のことで何か知っているに違いないと思った。また、母とそっくりすぎるあの女が母と無関係とは思えなかった。私は両親の死因を探らざるをえなくなった。