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⚠️注意書き⚠️
snjn
性描写あり。
※浮気・裏切りの描写があります。
※パニック発作の描写があります。
※浮気された側が相手を強く求め、身体を通して愛情を確かめようとする心理描写があります(いわゆる「サレラリ」を想起させる表現を含みます)。
苦手な方はご注意ください。
※本作はフィクションです。作中の心理描写は、すべての方に当てはまるものではありません。
―ブブッ
夜中、目を覚ましてすぐに勇斗のスマホが鳴った事に気付いた。
隣の勇斗はまだぐっすりと眠っている。
見るつもりなんてないまま暗闇を照らしたそれになんとなく目をやった瞬間心臓が跳ねて身体が硬直した。
『勇斗またこの間のホテル行こう〜♡』
…………。
ホテル…ホテル…?
…………。
「……」
通知が、画面の照明ごと消えるまで俺はそのメッセージを咀嚼していた。
そしてスヤスヤと眠る横顔を上から見下ろす。
気付くとじんわり手のひらに汗をかいていた。
心臓がバクバクして動けない。
「…ん」
勇斗が寝返りを打って俺の方に身体ごと向いてきた。
その無防備な寝顔を見た瞬間、何故だかとてもリアルになった。
さっきのメッセージは、既に一度、もしかすると勇斗は他の誰かにこの寝顔を無防備に見せていた可能性を確かに感じさせた。
…叫び出しそうになり、ベッドを飛び出してトイレに駆け込んだ。
ドアを閉める音なんて構っていられない。
冷静でいられない。
口元を手で押えて、ふと足元に目をやると、薄緑のスリッパを無造作に踏みつけている自分の足が目に入った。
なんだかとても滑稽で、信じていた彼に裏切られていたのかもしれない、やっとそう自覚した。
「…仁人ー?」
ビクリと身体が跳ねた。
ドアの向こうで勇斗が俺の名前を呼んでいる。
「大丈夫?お腹痛い?」
あまりにバタバタとし過ぎたせいで勇斗が起きたのかもしれない。
逃げ出したかった。
さっき見たものをそのまま問い詰めたら勇斗はどんな顔をするの?
言い訳をする?取り乱す?それとも誤魔化す?
…………。
カチャ…
「…」
「…仁人?」
トイレの照明に照らされた勇斗がこちらを怪訝そうに見ながらそこに突っ立っていた。
「…」
「大丈夫?」
勇斗の目を見たまま離せない。
ここからどうする?
問い詰める?
それとも、何事もなかったように振る舞う?
数秒の沈黙のあとに口から出たのは、自分にとってはあまりにも非現実的な言葉だった。
「………ホテルって、なに?」
「え…」
勇斗の顔を伺うように見ると、目を少し見開いて、考えを巡らせているようだった。
「……また行こうって、どういう事?」
「……」
今度こそ黙った勇斗が焦ったようにこちらを見る。
その顔は、全てを察したようだった。
「…」
「…」
焦ったような顔は、さっき見たものが、俺が想像した最悪の出来事が事実だと告げているようで。
「………帰る」
370
「ま…待って」
そのまま部屋を出ようとした俺の腕を掴んだ勇斗の手が、温かくて泣きそうになった。
「…離せ、」
「…やだ、待って、ほんとに」
「触ん、な」
「…仁人っ」
「触るなっ」
揉み合うようなやり取りの中で、俺はもう泣いていた。
強引に抱き寄せられた腕から逃れようとする俺を勇斗は離してくれない。
「俺以外と、したのかよ」
勢いに任せてそう口走った。
言った瞬間、その言葉があまりに軽く聞こえた。
身体が裏切ったのか、そんなことじゃない。
そんなことを言いたいんじゃないのに……。
「…悪かった」
少しの沈黙のあとに、勇斗が言った。
頭が真っ白になるって、こういう事なんだ。
「…」
「…」
抵抗も忘れて、目の前の勇斗の鼓動を聞いていた。
速い鼓動。
浮気……がバレたから?
それとも……
「……浮気したのか?」
「……ごめん」
「……俺ら…付き合ってたんだよな」
「…付き合ってる」
「………相手はだれ?」
なにも考えずにそう聞くと、勇斗の鼓動が一層速まった。
「………仕事の……付き合いのある子」
その言葉で、恐らくその相手が女性であることがわかった気がした。
至ってゆっくりと、身体を離した。
見上げると、勇斗の目が泳いでいた。
俺を真っ直ぐに見てくれていた彼はもう居ないんだ。
というより、俺の目に映っていたそんな彼が、いつから違っていたのか。
それすらもわからない。
いつから?
いつから俺を……
「…悪かった…ほんとに、ごめん」
「……」
「…本気じゃないんだ」
勇斗がなにを言いたいのか、わかるけどわからない。
唯一無二だと思っていた、信頼していた彼が急に他のどうしようもない自分にとって価値のない…量産された男の姿に見えてくる。
そんな陳腐なセリフを吐くやつだったのかと。
「……お前、俺とどうしたいの?」
「っ…わ、別れたくないよ」
「…じゃあどうして?」
トイレの前の廊下で話し合う。
その状況すらダサくて情けない。
サーッと心が冷えていくのを感じた。
「……ごめん」
「……謝られても…」
「…二度としないからっ」
「……」
必死な勇斗の顔。
ほんとうに?
本当にそう思ってるのか?
それすらも嘘なんじゃないのか?
「…仁ちゃん…ごめん、ごめん」
「…アホらし」
「え?」
「部屋戻るぞ」
「え…」
サラリと迫ってくる勇斗を交わして部屋に戻る。
だんだんと冷静になってきたのかもしれない。
「…」
後ろから勇斗がついてくる気配を感じた。
愛してるのだろうか。
俺も、勇斗も。
…………
「…あの…仁人」
「…なに」
「……」
「…1個ずつ聞くから」
「…はい」
「…いつから?」
「………先週の…仁人が…自分ち帰った…日」
「…はあ〜…」
頭を抱えた。
あの日は確か、俺が次の日の撮影が早くて。
なんの疑いもなく、別々の帰路に着いた日だった。
「…い、1回だけだから」
「…は?」
「あの…1回だけ…そう、なった」
「…で?」
「だから…もう…二度としないから…」
「…」
「…だから…」
「……許せるかは…わからない」
「…え」
「…俺もよくわからないから。今お前の顔みても…俺が好きだったお前には見えてない」
「ど…どういうこと?」
「…違って見える」
「…」
「俺が好きだった勇斗に見えないから、わからない」
それを聞いた勇斗はなんだかとてもショックを受けた顔をしていて、心が少しづつ死んでいくのを感じた。
ドキドキして仕方なかった過去も、愛おしいと胸がきゅっと締め付けられた過去も、いまは過去。
さっきまでは取り乱していたのに…自分でも驚く程に、冷静だった。
「…今日は帰る」
「え…」
「一緒に居たくない」
「…」
「一緒になんて寝られない」
「………わかった」
そう告げ淡々と帰り支度を始めた俺を勇斗は引き止めたそうに立ち上がってオロオロと眺めていた。
「…じゃあ」
「仁人っ」
「…」
「また…明日会えるよね?」
「…仕事なんだから当たり前だろ」
「…」
「…」
バタンッ
部屋のドアが閉まった後、マンションの廊下に立ち尽くした。
一人になった寂しさが少し、やっと苦しい話から逃れられた安心感が少し、自分でも判断のつかない思い。
何も考えたくなかった。
俺を裏切った勇斗を、信じていた俺を、これからどうしていけばいいのか。
全部、何もかも考えたくなかった。
―――
翌日、仕事に行くと勇斗がもう居た。
「おはようございまーす」
「…おはよう」
現場をすり抜けて歩く俺に並走するようにやってきた勇斗を見ずにただ道を進んだ。
慣れた道。慣れた場所。知ってる顔ぶれ。
ただ俺たちだけが異物のように周りから浮いている。
そう感じた。
「仁ちゃん…」
「…話しかけるな」
「…待ってっ」
「…っ!」
早足で歩く俺にくっつくように隣を歩く勇斗の手が俺の肩に触れた瞬間、ザワっと鳥肌が立ち気づいたら振りほどいていた。
「…」
「あ…ごめ、ん」
驚いた勇斗に、無意識で口をついて出た謝罪。
身体と心が分離したみたいだった。
「…」
「…着替えるから」
避けるようにすり抜けた俺を勇斗は立ち尽くして見ていた。
…………
「お疲れ様でしたー」
その日の収録が終わり、また控え室にもどる。
多分いつも通り。出来た。
というより、なんだか意識がふわふわする。
視界はハッキリしていて、声だってちゃんと聞こえる。
なのに頭の中にモヤがかかったようだった。
自分の話す声も聞こえる。きっとちゃんと喋れてる。
なのになにかがおかしい。
「…仁ちゃん」
「ん…なに」
「…ひとりで帰るの?」
「…」
俺の傍に来た勇斗がポツリと呟くように聞く。
俺は…どうしたいんだろう?
「一緒…帰る?」
「…っ、うん」
気付いたらそう口にしていた。
一瞬で嬉しそうに華やいだ勇斗の表情をただ見ていた。
このモヤはいつ無くなるのだろう。
―――