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礼央一家は強烈だった。
大学のミュージカル同好会で知り合ったご両親はディズニーミュージカル命。カフェを経営しているが、店内はまるで夢の国のようで、それが受けて各地にチェーン店も出来ていると言う。
自宅も一歩入ればミッキーグッズで揃えられ、半端ない。
「昨日のコンサート、素晴らしかったわあ。あの莉音くんが来てくれると言うから、夫婦でシンデレラの衣装で決めてみたよ」
ドレス姿のお母さんの隣で、王子様衣装のお父さんが満足そうにうなずいている。
ご両親がコスプレしてる。
あ、礼央は平気な顔してるからこれが日常か。
「本当に綺麗な顔立ち。白タイツの衣装も莉音くんなら似合うわ」
履きたくありません、ごめんなさい。
「きゃー、きゃー、莉音くんだ!ホンモノ!妹の夢子ですっ」
次にミニーちゃんの耳をつけたミニスカートの美少女が階段を降りてきて、勢い余ってすっ転んだ。
「恥ずかしい、テヘ」
いや、大丈夫なのか、パンツ見えてたけど。
「父・和多田学、母・那月、姉・聖子(芸名・真凜聖良)、妹・夢子。全員異常なミュージカルオタクだがいたって平凡な家庭だ」
うん、わかった。やはり礼央はこれを平凡って言うんだ。
テーブルにはお母さん作の料理、色とりどりのお菓子が並んでいた。
「でも驚いたわ。西宝ミュージカルの王道の舞台に立つと決めていた礼央がアイドルになるとは。あ、私、次の公演がミュージカル版ロミオとジュリエットに決まったの。ロミオよロミオ、うふ」
トップスターの姉・聖子さんに自慢げに言われても礼央は淡々と返した。
「名を売り今をステップにすればいい。俺はエリザベートの主役・トートを目指すだけ」
「お兄ちゃんがトートなら、莉音くんの皇太子ルドルフがいいなあ。男同士のキスシーンがあるの。萌えるー」
莉音は紅茶にむせそうになった。
萌え…って。
「まあまあ夢子ったら。ごめんなさいね。この子、その手の同人誌やってるから」
親公認の中学生BL作家…。
夢子は礼央と莉音の顔をあらためてジーっとみつめて言った。
「…ベストカップル。礼✖️莉」
「馬鹿なことを言うな」
キッパリと礼央が否定する。
確かに両親や姉妹の前じゃ肯定しにくいだろうけど、ヤっちゃってるのに。
「莉音くんはフリー?ならば私などお似合いかと」
聖子が男役のポーズを決めてウインク。
「お姉ちゃんはダメ。女口説いてるみたい。それに莉音くんが相手だとペットかヒモに見えちゃう」
「妹よ、それも新しい愛の形」
「違ーう、何かねえ、変態っぽい」
「失礼な」
…すごい姉妹だなあ。
「盛り上がったところでパパとママのデュエットダンスを披露するわね」
「ほこりがたつから却下」
息子に断られご両親はしょんぼり。
それにしてもなんて明るい家族だろう。
…初めて見た、こんなの。
…自分の知らない世界だ。
莉音は羨望の目で見てしまう。
…いいな、手に入らない世界。
いけない何か暗くなってきた、笑わなきゃ。
そんな莉音を礼央はじっと見ていた。
「…俺の部屋に行くよ。莉音、かなり疲れてるみたいだから休ませる」
「…何かすごいね」
海外、国内問わずミュージカルのポスターが壁一面に貼られた部屋。
「…悪かったな」
「何が?」
「…その」
「わかっるよ。礼央、僕が1人になるから連れてきてくれたんでしょ」
「え…」
「暗い顔してた?あー、ごめん。せっかくの家族団欒なのに、気を遣わせた。ごめん」
ダメだなあ、僕。
「いや、その…」
「優しいね、礼央。やっぱり大好き」
あ、やはり俺もとは言ってくれない。
「…ね、覚えてる?僕たちが初めてSEXした時のこと」
おい、話を逸らそうとしたのはわかるが、いきなり何を言う。
続く