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暗闇の奥で響く、規則的な金属音。
カタカタ、カタカタと、まるで巨大な昆虫が硬い殻を打ち鳴らしているような音が
静まり返った試掘坑道に反響する。
「……何の音だ、これ」
山城が脇差の鞘を握り直し、俺の背後にぴたりとつく。源蔵さんは震える手でライトをかざした。
辿り着いたのは、広大な円形の空洞だった。
そこには、戦前のものと思われる巨大な輪転機が数台
電気も通っていないはずなのに、独りでに動き続けていた。
機械の歯車が噛み合うたびに、真っ黒な紙が次々と吐き出されていく。
「これ……全部、札か?」
俺は床に散らばった紙の一枚を拾い上げた。
そこには、緻密な幾何学模様と「黒い百合」の紋章
そして見たこともない複雑な数式が、血のように赤いインクで印刷されていた。
「和貴、これを見ろ」
源蔵さんが空洞の中央にある石柱を照らす。
そこには、古びた通信ケーブルが無数に突き刺さり、地上の最新サーバー網へと繋がっていた。
「……なるほどな。神崎のデジタルも、阿久津の暴力も、全部ここの『予言』に従ってただけか」
この場所は、組織の「演算室」だった。
戦前から続く統計学と、ある種の狂信的なアルゴリズムを組み合わせた、超アナログな未来予測装置。
輪転機が吐き出しているのは、100日後の新宿崩壊を含む、この国の「予定表」そのものだ。
俺が石柱に近づこうとしたその時、暗闇からいくつもの赤い光が浮かび上がった。
「……侵入者を検知。第82フェーズ、執行」
現れたのは、全身を黒いボロ布で覆った、異様な集団だった。
彼らの顔には目がない。
代わりに、集音マイクのような機械が埋め込まれている。
組織が隠し持っていた、最も古い「守護者」たちだ。
「兄貴、こいつら……生きてるんですか!?」
「わからねえ。だが、通してくれる気はなさそうだぜ」
俺は脇差を抜き放った。
組織のデジタルな支配を支える、このアナログな根源を叩き潰さない限り、地上に明日は来ない。
輪転機が吐き出す「100日目の新宿」の紙が、風に舞い、俺の足元を埋め尽くしていく。
残された時間は、あと2160時間
未来を印刷し続ける「地獄の心臓」を止める戦いが始まった。