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ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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捕まった。
本当に、あっさりと。
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「武器を捨てろ!」
「動くな!」
「手を頭の後ろに!」
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十数人。
自動小銃。
見張り塔。
鉄条網。
生存者コミュニティの武装兵たち。
補給物資を探していた二人は完全に包囲されていた。
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「ピザガイ」
「……」
「これ、まずい?」
「かなりまずい」
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十分後。
二人は手を縛られた状態で鉄格子の向こう側にいた。
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監獄だった。
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元警察署を改造したらしい施設。
薄暗い独房。
コンクリートの床。
錆びた鉄格子。
臭い。
暑い。
最悪。
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「懐かしいね」
エリオットが言う。
「何がだ」
「ピザ屋の冷蔵庫より狭い」
「比較対象がおかしい」
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すると。
重い扉が開いた。
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武装した男たちが現れる。
その中央にはリーダーらしき壮年の男。
顔に大きな傷跡があった。
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「侵入者」
男が言う。
「本来なら銃殺だ」
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エリオットが笑う。
「本来じゃないなら?」
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男は腕を組んだ。
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「噂を聞いた」
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ピザガイとエリオットは顔を見合わせる。
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「Builder Brother’s Pizza」
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沈黙。
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「お前たち、元ピザ職人だろう」
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「配達員も兼任です」
とエリオット。
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「どうでもいい」
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即座に切り捨てられた。
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「俺は三年間まともな飯を食っていない」
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リーダーは真顔だった。
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「美味いものを食わせろ」
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「え?」
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「満足したら解放する」
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「満足しなかったら?」
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「処刑」
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「うわぁ」
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エリオットが素直に引いた。
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一時間後。
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二人は監獄内の小さな調理室に放り込まれた。
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調理室と言っても酷いものだった。
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ボロボロのフライパン。
欠けた包丁。
焚き火。
謎の缶詰。
乾燥豆。
ジャガイモ。
少量の肉。
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以上。
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「終わってる」
エリオットが断言した。
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「終わってるな」
珍しくピザガイも同意した。
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「ピザ作れないじゃん」
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「小麦粉がない」
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「チーズもない」
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「トマトもない」
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「店長なら泣いてる」
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「確実に泣いてる」
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二人は沈黙した。
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処刑まで残り四時間。
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最悪である。
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その時。
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エリオットが突然笑った。
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「でもさ」
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「なんだ」
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「こういうの嫌いじゃないでしょ?」
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ピザガイが眉を上げる。
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昔。
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閉店後。
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残り物だけで夜食を作って遊んでいたことがあった。
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売れ残った具材。
余った生地。
半端なソース。
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誰が一番美味しく作れるか。
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そんなくだらない勝負。
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「……」
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ピザガイは小さく息を吐いた。
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そして。
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袖をまくる。
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「やるぞ」
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エリオットが笑う。
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その笑顔は。
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ルナティックも。
ゾンビも。
監獄も。
処刑も。
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全部忘れさせるくらい明るかった。
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「了解、シェフ」
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「お前も働け」
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「はーい」
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それから二人は動き出した。
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ジャガイモを潰す。
肉を刻む。
缶詰の油を再利用する。
豆を煮る。
野草で香りを足す。
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監獄とは思えない集中力だった。
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「塩」
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「ない」
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「終わった」
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「終わってない」
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「胡椒」
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「ない」
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「終わった」
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「黙れ」
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「ピザガイ」
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「なんだ」
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「もし解放されたら」
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「なんだ」
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「また店やろうよ」
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包丁を動かす手が止まる。
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ほんの一瞬だけ。
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「……」
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そして。
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「考えておく」
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エリオットは笑った。
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それは否定ではない。
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長年一緒にいるから分かる。
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考えておく。
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それは。
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かなり前向きな返事だった。
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数時間後。
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監獄の食堂。
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武装兵たちが集まる。
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リーダーが料理を見下ろす。
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見た目は地味だった。
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豪華さはない。
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だが。
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湯気と香りだけで空気が変わる。
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スプーンが運ばれる。
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一口。
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二口。
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三口。
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沈黙。
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兵士たちが固まる。
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エリオットが小声で囁く。
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「どう?」
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「……」
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リーダーは黙っていた。
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そして。
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突然立ち上がる。
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武装兵たちが緊張する。
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処刑か。
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それとも。
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男はゆっくり二人を見る。
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そして。
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「おかわり」
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食堂全体が爆笑に包まれた。
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その夜。
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処刑は中止になった。
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代わりに。
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二人は生存者コミュニティの全員分の夕食を三日間作らされることになった。
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「解放じゃないじゃん」
とエリオット。
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「生きてるだけマシだ」
とピザガイ。
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そして二人は久しぶりに聞いた。
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誰かが料理を食べて笑う声を。
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それはピザ屋を失った日以来、忘れかけていた音だった。
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