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雨だった。
冷たい雨。
崩れたショッピングモールのバックヤードで、二人は足止めを食らっていた。
外はルナティックの群れ。
動けば見つかる。
だから今夜はここで休むしかない。
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「痛っ」
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エリオットが声を上げた。
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「どうした」
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「いや、ちょっと指切った」
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缶詰を開けようとしていたらしい。
小さな傷だった。
本当に小さな。
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だが。
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ピザガイの顔が露骨に曇る。
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「貸せ」
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「大丈夫だよ」
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「貸せ」
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有無を言わせない声。
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エリオットは苦笑しながら手を差し出した。
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大きな手が包み込む。
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まるで怪我人を扱うみたいに慎重だった。
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絆創膏を貼る。
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それだけなのに。
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異常なほど慎重だった。
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「……」
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エリオットはその様子を見つめる。
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そしてふと笑った。
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「本当に変わったね」
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「何がだ」
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「昔の君」
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エリオットは絆創膏の貼られた指をひらひら振る。
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「こんなこと絶対できなかったでしょ」
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ピザガイの動きが止まった。
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数秒。
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沈黙。
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雨音だけが響く。
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「……ああ」
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珍しく否定しなかった。
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「できなかった」
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低い声。
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どこか遠い場所を見るような目だった。
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エリオットが初めて彼と会ったのは、世界が終わる数年前。
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Builder Brother’s Pizzaの厨房だった。
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当時のピザガイは今以上に無口だった。
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笑わない。
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雑談しない。
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愛想がない。
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ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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しかも。
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とにかく不器用だった。
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生地を伸ばせば破る。
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チーズを撒けば偏る。
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トッピングは落とす。
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箱詰めは潰す。
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店長は頭を抱えた。
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「なんでこんな簡単なことができないんだ!?」
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ピザガイは黙っていた。
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ただ。
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本当に分からなかったのだ。
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ある日。
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エリオットは聞いた。
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「前、何してたの?」
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軽い気持ちで。
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何気なく。
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すると。
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珍しく答えが返ってきた。
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「軍人だ」
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「へぇ」
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「特殊部隊」
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「へぇ」
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「重火器担当」
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「へぇ……」
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そこでようやく理解した。
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だからか。
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ピザガイの手は大きかった。
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異様なほど。
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人を運ぶため。
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重い武器を持つため。
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壁を破るため。
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敵を制圧するため。
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そういう用途で鍛えられた手だった。
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繊細な作業には向いていない。
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向いているはずがない。
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「俺は」
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その時のピザガイは言った。
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「壊すことしか習ってない」
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エリオットは今でも覚えている。
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その言葉を。
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人を守るために。
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人を撃つ。
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敵を倒す。
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扉を吹き飛ばす。
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壁を破壊する。
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そんな人生だった。
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「だから」
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ピザガイは苦笑した。
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珍しく。
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本当に珍しく。
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少しだけ。
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「生地を触る方が難しかった」
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エリオットは吹き出した。
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「普通逆じゃない?」
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「俺もそう思う」
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その日からだった。
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エリオットがピザガイにピザを教え始めたのは。
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「優しく」
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「やってる」
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「優しく!」
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「やってる!」
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「生地が泣いてる!」
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「泣くのか?」
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「泣く!」
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そんな毎日。
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「ほら」
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エリオットが後ろから手を重ねる。
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「こうやって伸ばすんだよ」
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大きな手の上に。
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細い指が重なる。
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「力を抜いて」
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「難しい」
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「抜いて」
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「難しい」
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その繰り返し。
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何週間も。
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何ヶ月も。
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やがて。
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少しずつ。
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本当に少しずつ。
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人を壊す手は。
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ピザを作る手になった。
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雨音が続いている。
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ショッピングモールの暗闇の中。
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エリオットは隣を見る。
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今。
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その大きな手は。
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誰かを傷付けるためではなく。
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小さな傷に絆創膏を貼っている。
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「ねえ」
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「なんだ」
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「覚えてる?」
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エリオットが笑う。
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「初めて生地を投げた時」
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ピザガイは顔をしかめた。
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「あれは忘れたい」
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「天井に張り付いたよね」
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「うるさい」
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「店長が泣いてた」
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「思い出させるな」
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二人は笑う。
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久しぶりに。
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本当に久しぶりに。
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終末世界になる前の話をした。
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そしてエリオットは思う。
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この男はずっと勘違いしている。
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自分は壊す手しか持っていないと。
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違う。
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あの日から。
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ピザを作るようになった日から。
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そして今。
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自分を守るために何度も伸ばされたその手は。
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もうとっくに。
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誰かを守る手になっているのだと。
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けれど。
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そんなことを言えば。
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きっと照れて黙り込むから。
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今はまだ言わない。
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代わりに。
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「ピザガイ」
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「なんだ」
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「今度また生地投げてみる?」
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数秒後。
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飛んできた空き缶を、エリオットは笑いながら避けた。