テラーノベル
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食堂の空気は、一瞬にして凍りついた。
凪の膝の上で、潔は縮こまり、耳の先どころか首筋まで真っ赤に染めて、自分の指先をいじいじと動かしている。頭のてっぺんからは、本当に「プシューッ」という音が聞こえそうなほど熱気が漂っていた。
「……あ、あの、その……れ、玲王……。変なことじゃ、ないんだ……たぶん……」
潔は蚊の鳴くような、消え入りそうな小声で、必死に言葉を選び始めた。もちろん、ピュアな潔の口から「絶頂」とか「感度」なんて破廉恥な単語が出るはずもない。
「……よ、夜中に、凪が……あの、寝ぼけてたみたいで……。そ、その、……俺の、胸の……ところを……その……」
潔は顔を両手で覆い、指の隙間から玲王たちを上目遣いで見た。
「……ずっと、こう……胸、いじられて、みたいな……? それを……あ、明け方まで、ずっと……。……そしたら、なんか……身体が、変な感じになって……声が、勝手に出て……力が入らなくなって……」
最後の方は、もはや聞き取れないほど小さな声だった。
けれど、その「オブラートに包みすぎた説明」が、かえって生々しい想像力をストライカーたちの脳内に叩き込んだ。
「………………」
凪は、潔のあまりにピュアで必死な説明に、逆に自分のしたことの「重さ」を再確認してしまい、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「……わざとじゃ、なかった……けど……、潔が、あまりに……可愛かったから……」と、これまた気まずそうにボソッと呟く。
その瞬間。
「…………は???」
玲王は、手に持っていたスポーツドリンクのボトルを、握力だけでベコォッ! と凹ませた。
「……いじる……? 明け方まで……? それで腰が抜けるまで……っ!! 凪、テメェェェ!! それはマナーじゃねぇ、『開発』っていうんだよ!!!」
「あはは……。……凪ちゃん、それ、死刑だよ?」
蜂楽が、いつも以上の「殺気」を孕んだ笑顔で、目が全く笑っていない状態で凪の背後に立った。
「……おい、ゴミ共」
凛が、青筋を立てながら、震える手でフォークを握りしめている。
「朝っぱらから……そんな下劣な『ご報告』を聞かされる身にもなれ……。……凪、死ね。潔……お前は、今すぐ俺の部屋に来い。その……『バグ』を、俺が上書きして消してやる」
「え、凛!? バグって何だよ! 怖いよ!!」
「行かせねーよ!! 潔、俺だ! 俺のところに来い! 俺が、御影家流の『正しいリラックス法』を教え直してやる!!」
食堂は、潔の「ピュアすぎる告白」によって、嫉妬と独占欲の炎が渦巻く戦場と化した。
腰が抜けて動けない潔を巡って、ブルーロックの天才たちが、かつてないほど「エゴイスト」な本性を剥き出しにしている。
「……あの、……みんな、なんで怒ってるんだ……? やっぱり、御影家の儀式って……難しいんだな……」
潔だけが、真っ赤な顔でまだそんな「ズレた」ことを考えていた。
玲王は、これ以上凪に食ってかかっても潔が混乱するだけだと、超人的な忍耐力で自分を抑え込んだ。
「……っ、はぁ、まぁいい。もう過ぎたことだ。潔、お前はとりあえずメシだ。腹減ってるだろ」
玲王はそう吐き捨てると、すぐに御影家の財力とコネクション(あるいはブルーロックへの特別出資権)をフル活用し、食堂の厨房を動かした。
数分後、テーブルには一流ホテルのビュッフェも驚愕するような最高級料理が次々と並べられた。芳醇な香りのスープ、絶妙な焼き加減の肉、そしてデザートには、潔が何よりも愛する最高級のきんつばが、金箔まであしらわれて鎮座している。
「ほら、食え。栄養つけねーと、お前の体力がもたねー」
玲王は椅子を引き寄せ、潔の正面に陣取った。
一方、凪は「……俺、潔を離すつもりないから」という無言の圧を発しながら、潔を自分の膝の上に抱えたまま、その腰をがっしりとホールドして固定している。
「おい、凪……。いつまでそうしてるつもりだ。潔が食いづらいだろうが」
「……いい。俺、潔の支えになってるから。……玲王、食べさせてあげれば?」
凪は一歩も引かず、潔の背中に自分の胸板をぴたりと密着させている。潔はその密着感に、昨夜の指先の感触を思い出して「……っ、ひぅ」と肩を跳ねさせたが、あまりの空腹に抗うことはできなかった。
「……チッ、仕方ねぇな……。今回だけだぞ」
玲王は盛大な舌打ちをしながらも、手つきは驚くほど優しかった。銀のスプーンで一口大の料理を掬うと、丁寧にふーふーと息を吹きかけ、適温にする。
「ほら、潔。あーんしろ」
「えっ、あ……。れ、玲王、自分で食べられるよ……っ!」
「無理だろ。お前、さっきから指先までプルプル震えてんぞ。……ほら、早く。冷める」
潔は、目の前に差し出された玲王の「あーん」と、背後から包み込んでくる凪の「拘束」に挟まれ、もう逃げ場がないことを悟った。
真っ赤な顔をして、羞恥心でプシューッと煙を出しながら、潔は小さな口を「あ……」と開ける。
「…………ん、……んぐ。……おいしい……」
「……だろ? 御影家の専属シェフに作らせた。……次はこれだ。きんつばも一口サイズに切ってやるからな」
玲王は潔が美味しそうに食べる姿を見て、ようやく少しだけ機嫌を直した。だが、その瞳の奥には「次は俺が、凪のしたこと以上の『お返し』をしてやる」という、ドロリとした執着が渦巻いている。
凪は凪で、自分の腕の中で大人しく餌付けされている潔の「もぐもぐ」という振動を身体で感じながら、「……潔、小動物みたいで可愛い。……ずっとこのままでいいのに」と、独占欲に満ちた瞳で潔の項を見つめていた。
ブルーロックの食堂で、一人のストライカーが二人の天才によって「甘やかされながら飼育される」という、異常なまでの朝食タイムが続いていく。
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