テラーノベル
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食事を終え、ようやく少しだけ体力が回復した潔は、凪の膝から「もう大丈夫だから!」と必死に脱出した。膝はまだ少し笑っているけれど、ストライカーとしての本能が体を動かせと急かしている。
ちょうどその時、食事を終えた凛が、一切の無駄がない動作で席を立った。
「……おい、凛! 待てよ!」
潔が慌てて後を追いかけると、凛は足を止めず、背中越しに冷たい視線を投げた。
「……なんだ、無能。まだ腰が抜けてるんじゃなかったのか。そのままその温室(凪と玲王)で腐ってろ」
「もう大丈夫だって! それより、これから瞑想だろ? 俺も一緒に行っていいか? お前と一緒にやると、なんか集中できる気がするんだよな」
潔は、凛の「来るな」というオーラを真っ向から無視して、キラキラとした、純粋にサッカーの上達を願うストライカーの瞳で凛を見上げた。無愛想な凛と少しでも距離を縮めたい、仲良くなりたいという潔の善意は、もはや凶器に近い。
「…………チッ。……勝手にしろ。ただし、一言でも喋ったら殺す」
凛は吐き捨てるように言って歩き出したが、その歩幅は、腰に違和感があるはずの潔が無理なくついてこられるよう、心なしかいつもよりわずかにゆっくりとしていた。
二人がやってきたのは、昼間は人気のない静かなヨガコーナー。
凛は慣れた動作で床に座り、目を閉じて深く静かな呼吸を始める。潔もその隣に並び、凛の真似をして姿勢を正した。
(……凛、やっぱりすげぇな。座ってるだけで、ピリピリしたオーラがあるっていうか……格好いいよな、マジで)
潔は目を閉じる直前、隣に座る凛の横顔をじっと見つめた。
凛は、潔のその「尊敬」に満ちた熱い視線を肌で感じ、瞼の裏側でわずかに動揺していた。
(……こいつ、何を見てる……。……さっきまで他の奴らに無様に弄ばれておきながら、なんでそんな、混じり気のない目で俺を見れる……)
凛の胸の奥で、潔に対する「苛立ち」とは別の、くすぐったいような、けれど熱い感情が小さく渦を巻く。
潔が自分を慕って追いかけてくること、自分との時間を求めていること。それを「嬉しい」と感じてしまう自分を、凛は必死に「気持ち悪い」と否定しようとするが、口元がわずかに緩みそうになるのを抑えるのが精一杯だった。
「……凛、始めていいか?」
「……喋るなと言ったはずだ、クソボケ。……さっさと集中しろ」
凛の言葉は毒に満ちていたが、その声にトゲはない。
潔は「あはは、ごめん!」と短く笑い、今度こそ深く目を閉じた。
静まり返った室内で、二人の呼吸だけが重なり合う。
潔の身体からは、まだ凪の体温や玲王の香水の匂いが微かに漂っている。それが凛の鼻腔をくすぐるたびに、凛の瞑想は「潔を自分の色で塗りつぶしたい」という、静かだが激しい独占欲へと変質していく。
(……次は俺だ。……耳でも胸でもない。……魂ごと、俺が引き摺り下ろしてやる……)
凛は静寂の中で、隣にいる潔の気配を全身で感じながら、誰よりも深く、潔世一という存在に執着し始めていた。
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