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北門から塀の外に出て、海の方へと延びる街道を徒歩で進んでいく。
この街道周辺でも基本魔物はほとんど出現せず、現れたとしても雑魚のスライムがせいぜいで、今の俺達の敵じゃない。
相変わらず雨は多いが、テオの装備は元から防水仕様。
俺もブーツを防水の物に新調し、マントに防水加工を施したばかりのため、少々降る程度ならば気にせず歩けた。
特筆すべき事件もなく道なりに進み、夜は街道沿いの『旅人の野営地――旅人達のために作られた、魔物が出にくく開けた場所――』にテントを設営し宿泊する。
今回最初の目的地である『インバーチェスの街』へと到着した。
目的地のニルルク村はかなり遠く直接徒歩で向かうのは大変だ。
諸々の状況をふまえた結果、この街から定期船に乗り、旅程の短縮を図ることにしたのである。
昔ながらの港町であるインバーチェス。
その歴史はかなり古く、少し歩けばあちこちに昔の面影を確認できる。
特に漁業が盛んで、この街の漁師達が獲った魚介類やその加工品は、内陸部を中心に様々な国や街へと売られていくのだ。
入場税を払い正門から街へと入った俺達は、船が多く停泊しているはずの港方面へと向かっていった。
世界地図の更新版。
※以前公開した地図に、本編で出てきた地名などを加えたもの。
余所者を嫌い、100人程度の村人は全て顔見知り同士。
お父さんもお爺ちゃんも、そのまたお爺ちゃんも全員が漁師。
男は海に出て、女は家庭を守るもの。
村人同士で協力しつつ、細々と漁業で生計を立てる。
何代も何代もそんな生活が続いていて、それが当たり前だと思っていた閉鎖的な独立地域の転機。
それは、近くにトヴェッテ王国が出来たことだった。
村から徒歩数日の距離に、急に建国された裕福な王国。
魚を売りに行った者から聞いた『夢のような華やかさ』に憧れた若者達を中心に、大半の村人達はあっさり村から出てトヴェッテ王国へと移り住んでいってしまった。
残されたのは数少ない老人達のみ。
そう強く感じた村人達は、トヴェッテ王国へと助けを求めたのだ。
この頃のトヴェッテは、周辺の無人の土地を開拓することで徐々に領土を広げ続けていた時期であり、初代国王『トヴェッタリア1世』が治めていた。
国王とインバーチェス村には縁もゆかりもなければ、助ける義理だって無い。
だがちょうど海路の交通拠点として港町の建設の必要性を感じ、候補地の選定を行っていたこと。
また長年インバーチェス村の人々が積み上げてきた漁業のノウハウに魅力を感じ、それが忘れ去られてしまうのは惜しいと感じたこと等を理由に、国王は「村の開発および資金提供をしよう」と答えたのだ。
ただし国王は、いくつか条件を出した。
条件の主なものは「今後インバーチェスはトヴェッテ王国の統治下へと入り、王国が派遣した領主が治めること」「長年インバーチェスが蓄積してきた漁業のノウハウを、王国へと伝授すること」。
この条件をのめるならば、村人の生活もそれなりに保証するという提案だった。
提案を受け入れれば、インバーチェスは発展し後世へと続いていくことだろう。
だがそれは、何百年も昔からそのままだった村の姿が、全く違う場所へと変化してしまうことを意味する。
村人達は悩みに悩み、話し合いを重ねた末、これ以外に道は無いとの結論に達し、国王からの提案を受け入れたのだ。
開発を始めた国王はまず、港の建設に着手した。
観光都市であるフルーディアとは違い、海上交通や物流の拠点としての都市を目指すインバーチェスにとって、港は最も重要な施設となる。
港の建設計画の見通しがある程度たった段階で、トヴェッテ首都からインバーチェスまでの街道の整備や、実用性重視の公共施設、街を囲む頑丈な塀などの建設にも取り掛かっていく。
なお、元々の住民達の「出来る限り、今の村の姿を残してほしい」という希望も考慮し、一部の建物――村人達の住宅や、村の広場など――には手をつけずそのまま残しておくことにした。
都市開発と並行し、漁業についても国家主導で事業展開を進め始めた。
村で長年漁業に携わっていた老人達を指導役に据え、彼らの意見を取り入れながら船や設備を新調したり、若い漁師達を育成したり。
また、ただ魚を獲って売るだけではなく、インバーチェスで獲れた魚介類をブランド化することや、効率よくまとめて運ぶ物流ルートを確保して経費を削減することによる収益の向上も目指した。
結果、トヴェッタリア1世の目論見通り、インバーチェスは現在でも栄え続ける港町へと変化を遂げたのだった。
「……で、この開発をきっかけに、それまで村だったインバーチェスは『街』へと改名して、『インバーチェスの街』って呼ばれるようになったんだ。今の街の人口は数千人って言われてて……さらに交通拠点だけあって外から訪れる人もたくさんいるから、村だった時代には考えられないぐらい大きくなったらしいぜっ!」
「へぇ~」
横を歩くテオが得意気に話す、新しい場所を訪れるたびに恒例となりつつある薀蓄を聞きながら、俺は街の中をぼーっと眺める。
テオの話も街の風景も、俺が知っているゲームのものとほぼ同様だった。
だけど、顔に当たるように強めに吹いてくる風から潮の匂いがするのが何だか新鮮で、たったそれだけで全く知らない場所に来たんじゃないかと思ってしまう……そんな不思議な気分になるのだった。