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昼前にインバーチェスの街へ到着した俺とテオ。

まずは乗せてもらえる船を探すべく、港方面を目指して歩いていた。





どこもが潮の匂いに包まれる街・インバーチェスの中心は、大きな港だ。

港の端には高い高い灯台が建っていて、それは街のどこからでも良く見える真っ白なシンボルであり、港方面へ向かう目印でもある。


人通りはそこそこ多く、通行人の大半が重そうな荷物を背負ったり馬に運ばせたりしている旅人風というあたり、交通拠点と言われるインバーチェスならではだろう。

馬車も頻繁に通るものの、道幅自体が非常に広いため、2人並んで歩いても他とぶつかる心配はなさそうだ。



上品で洗練された景観のトヴェッテ王都やフルーディアとは違い、茶色系ベースに様々な色が雑多に混じった街並みや、店員達が親し気に呼び込みをする様子に、俺は懐かしさを覚えた。


この感覚はどこかエイバスの街を訪れた時のそれにも似ていて、時々エイバスに戻ってきたんじゃないかと錯覚しそうになるものの、風に混じる潮の匂いが俺を現実へと引き戻す。


エイバスにも一応港はあった。

だがエイバスの港は、街外れの独立エリアに作られており、あえて港方面に行かない限り海も見えなければ、俺がずっと滞在していた辺りまでは潮の匂いが届くことも無かったのだ。





港に近づけば近づくほど、潮風は強くなる。

同時に何かを揚げたり焼いたりする美味しそうな匂いも徐々に増していき、俺の食欲が刺激に耐えられなくなった頃。



カラフルな特大看板に目を奪われ、彼は思わず立ち止まった。


・・・・・・・・・・・

インバーチェス名物!!

安い! 旨い!

港通り屋台街こちら! →

・・・・・・・・・・・


まるでペンキで書きなぐったかのような、勢いたっぷりの大きな字。


思わずじゅるりと出そうになったよだれをぐっとこらえた俺だったが、テオも自分と同じく立ち止まり、その看板に釘付けになっているのに気付いた。



「……なんだ、テオも腹減ってんのかよ」

「まぁねー」


テオはニカッと笑う。


「じゃ、昼には少し早いけど、先に腹ごしらえといくか!」

「さんせーいっ!」


俺達は足取りも軽く、看板に書かれた矢印通りに曲がって、細道へ入って行った。





数十mほど道なりに歩くと、視界が一気に開ける。


目の前の道は、先程までとは比べ物にならないぐらい混みあっていた。



右を見ても左を見ても、食べ物を売る屋台と看板だらけ

どの看板にも食べ物の絵や、店のおすすめメニューの紹介などが力強く描かれていて、値段もお手頃価格ばかり。

しかもあちらこちらから強烈に食欲に訴えかけるような良い匂いが漂ってくるため、何を食べるか迷ってしまう。



しばらく人の流れに混じりつつ看板や店を眺めて回った俺とテオは、香ばしく焼ける匂いにつられてつい、程よく焦げ目がついた串焼きの肉を買ってしまったのをきっかけに、色んな物を少しずつ食べ歩きすることにした。



串焼き肉の後には、目に留まった魚介スープを買ってみる。

魚のアラや貝や野菜がゴロゴロ入った具沢山スープは、店員いわく「調味料は塩しか使ってない」とのこと。

スープには素材の旨みがたっぷり溶けだしていて、これなら確かに味付けは塩だけで十分だ。


さっぱりの次はこってり感がほしくなり、インバーチェスが村だった頃から食べられているという、衣をつけて丸ごと揚げた白身魚を買って頬張る。

かかっていた柑橘系の酸っぱいソースが、あっさりした白身魚と揚げたてサックリ衣と相性が良くて、一緒に買ったぬるいエールも合わせて癖になりそうな味だった。


お次は、薄い小麦粉系の皮で具材を巻いたクレープっぽいもの

まだほんのり温かい皮の中には、「これでもか!」と言わんばかりに大量の具材――甘辛く煮た肉と、千切り野菜――がギッシリ詰め込まれていて、見た目以上に凄いボリュームで食べごたえがあった。





「……はぁ~食った食った!」

と、テオは満足げにお腹をさする。


「というか、ちょっと食いすぎたかも……」

「でも旨かっただろ?」

「だな!」


俺とテオは、しばらく屋台街の外れに腰かけて休み、それから再び港方面に向かうことにした。






歩き始めて数分後。

坂道を上りきったところで、ふいに声が出る。


「海だ!」


その場所は小高い堤防のようになっていて、爽やかな潮風を感じつつ、柵越しに海を見渡すことが出来た。

雲ひとつなく澄み渡った水色の空と、波も無く穏やかに輝く群青色の海、岬の先端にあるインバーチェスのシンボル・真っ白な高い灯台とのコントラストが美しい。


もちろんこの光景も、ゲームでは飽きるぐらい目にしていた。

それでもやっぱり、このリバースという世界に来てから初めて見る海は魅力的で……思わず俺は立ち止まり、柵にもたれて見入ってしまった。



「やっぱ、海はいいねー」

気が付けばいつの間にか、テオも嬉しそうに海を眺めていた。

俺は「そうだな」と短く答え、しばらくは目の前の広大な景色を楽しむのだった。






ほどなくして、俺達はへと到着。


岸壁には大小様々な数十席の船が停泊していて、そこかしこから活気に満ちた声が聞こえてくる。

荷物を運ぶ人々や馬車にぶつからないよう避けながら、港中央付近にある船舶案内所へと向かった。



船舶案内所とは、船に乗りたい人と、船に乗せたい人とを仲介する施設である。

基本的には案内所を持つ国や街などの直営であり、インバーチェスの案内所も街が運営する形となる。


紹介してもらえる船は2種類


1つは定期船便。

国や街などが運営し、定期的に決まった航路を往復する船便だ。

窓口でチケットを買うだけで誰でも乗船可能。

公共交通のため融通はきかないものの、運賃はかなり割安である。


もう1つはチャーター便。

乗せてもらえるかどうか、運賃等の諸々条件は、船所有者との交渉次第で決まる。

ゲームでは、特定の所有者の船に乗り込むと起きるイベントも多数あるため、それ目当てで色んな船をチャーターしていくプレイヤーも少なくない。



今回の目的地であるニルルク村へは、旅のスタート地点であるエイバス方面に1度戻り、そこから逆方向に進む形となる。

そのため俺達は、まずエイバスまで定期船便で戻り、そこからは主に陸路でニルルク村を目指すことに決めていた。


もちろんインバーチェスから直接チャーター便に乗ったり、エイバスから別の定期船便に乗り替えたりすることで、ニルルク村あたりまで向かうという選択肢もある。

だが予算を考えると、チャーター便より定期船便が遥かにお得だ。

それに船便だと魔物に出会う可能性が非常に低いことから、今後を考えるとある程度は陸路で地道に戦闘経験を積んだほうがよいと判断したのだ。


なお「全行程、陸路で」という案も一応検討はしたのだが、トヴェッテ~エイバス間の魔物はかなり強くなった俺の敵ではないため戦闘経験のプラスになりにくく、無駄に時間を使ってしまうだけになるという理由で却下した。



案内所の壁に貼られた『定期船便の空き状況のお知らせ』を確認した俺が言う。


「……お。今夜発のエイバス行きの定期船便、まだ空きがあるみたいだぞ!」

「やったー! 早速おさえようぜっ!」


急ぎ案内所窓口へ並んだ俺達は、定期船便チケットを無事に購入できたのだった。

ブレイブリバース~会社員3年目なゲーマー勇者は気ままに世界を救いたい

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