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身分差太宰女体化中太。
・・・私中太の女体化書きすぎじゃない?地雷の人ごめんね。
深淵に沈むような冬の静寂が、北方の古い領地を包み込んでいた。 中原中也は、この広大な土地を治める若き領主である。その双眸は冷徹な氷の色を湛え、常に一分の隙もない軍服姿は、周囲の貴族たちに畏怖を抱かせるに十分だった。
対して、太宰(♀)は、城の最下層から這い上がってきた名もなき召使であった。 かつて飢えた獣が蔓延るスラムで泥水を啜っていた彼女は、運良く城の雑用係として拾われたものの、その素性の卑しさと、どこか人を食ったような底知れぬ美貌ゆえに、城内の使用人たちからは陰険な迫害を受けていた。
二人の間には、天と地ほどの開きがある。 城の謁見の間や、重苦しい会議の場で顔を合わせる際、二人が視線を交わすことは一度としてなかった。
「……そこの、水を」
中也が低く、威厳に満ちた声で命じる。 側に控えていた太宰は、表情を一切変えず、ただ一介の道具のように恭しく頭を下げ、銀のトレイを差し出すだけだ。
「は、閣下」
彼女の潤んだ声が、大理石の床に空虚に響く。 中也は彼女の手元すら見ず、差し出された杯を受け取ると、そのまま別の貴族へと視線を戻す。周囲の者たちは、その徹底した無関心さに、領主がこの身分の低い娘を「虫けら」ほどにしか思っていないのだと確信していた。
太宰が給仕を終えて下がるとき、先輩の召使がわざと彼女の足を引っかけようとしたが、彼女はそれすらも柳に風と受け流し、影のように消えていく。中也の背中は、彼女が去った後も石像のように動かなかった。
完璧なる主従。 絶対的な身分差。 ピラミッドの頂点と、底辺に沈む塵。
それが、衆目の前で演じられる、二人の完成された「虚構」であった。
深夜、城の時計塔が午前二時を告げる鐘を、ひっそりと鳴らした。 松明の火も消え、当直の衛兵すらも睡魔に襲われる頃、太宰は音もなく自室――窓すらない狭苦しい物置部屋――を抜け出した。
向かうのは、城の最奥、立ち入りを禁じられた旧温室である。 冬の冷気がガラスを伝い、内部は凍てつくような寒さのはずだが、その場所だけは、かすかな魔法の灯りと熱気に守られていた。
重い扉を、細い指先で慎重に押し開く。 そこには、重厚な領主の外套を脱ぎ捨て、白いシャツの襟を寛がせた中也が待っていた。
「……遅かったな」
その声には、昼間の冷徹さは微塵もなかった。 蜂蜜のように甘く、深い慈しみを湛えた響き。 太宰は、仮面のように張り付いていた召使の無表情を、一瞬で溶かした。
「ごめんなさい、中也。……廊下で、嫌味な侍女長に捕まってしまって」
彼女が駆け寄ると、中也は大きく腕を広げ、その細い身体を丸ごと受け止めた。 太宰は彼の胸に顔を埋め、領主としての威厳ではない、彼個人が持つ温かな体温を全身で吸収するように深く息を吐く。
「……また、何かされたのか」
中也の大きな手が、彼女の乱れた髪を優しく梳く。 太宰は彼の胸の中で、小さく首を振った。
「いいえ。何を言われても、何をされても、……今の私には、ここがあるもの」
「……馬鹿野郎」
中也は苦笑し、彼女の顎を指先で持ち上げた。 月明かりが、彼女の白い肌を銀色に縁取る。昼間は決して交わることのなかった瞳が、今は至近距離で、お互いの存在だけを映し出していた。
「昼間のテメェの、あの冷たい顔ときたら。俺を、本当にただの残酷な領主だと思ってるんじゃないかと、時々不安になるぜ」
「それはこちらの台詞よ、閣下。……あんなに冷淡に水を命じられたら、私、悲しくて死んでしまいそうだわ」
太宰がわざとらしく芝居がかった口調で言うと、中也は溜息をつき、そのまま彼女の唇を奪った。 それは、依存や執着といった重苦しいものではなく、ただ純粋に、お互いが「ただの男と女」であることを確かめ合うような、砂糖よりも甘い、純白の接吻だった。
温室の中に咲き乱れる冬の花々が、二人の吐息に揺れる。 中也はソファに腰を下ろし、その膝の上に、愛おしげに太宰を抱き上げた。
「……中也。手の甲を見せて」
太宰が唐突に言う。中也が訝しみながらも右手を差し出すと、太宰はその甲に、丁寧な、そして祈るような熱を込めた口づけを落とした。
「昼間、私が跪いて杯を捧げたとき、……本当はこうして、貴方の手に触れたかったの」
「……俺もだ。テメェが他の奴らに嫌がらせを受けてるのを見て、その場で全員を処刑してやりたいのを、どれだけ堪えたと思ってる」
「ふふ、そんなことをしたら、私の立場がもっと悪くなるわ」
太宰は彼の首に腕を回し、そっと耳元で囁いた。 「でも、嬉しい。……世界中が私を蔑んでも、貴方だけが、本当の私を知っていてくれるのなら。私は、あんな冷たい廊下も、汚れたスラムの記憶も、全て愛せるわ」
中也の瞳に、深い情愛が揺れる。 彼は、彼女の細い指を一本ずつ取り、慈しむように指先に唇を寄せた。 領主としての名誉も、広大な領地も、彼にとっては彼女というたった一人の存在に比べれば、価値のない飾りに過ぎない。
「……卒業だ、太宰。あと数ヶ月で、俺の基盤は盤石になる。そうなれば、テメェを召使として隠しておく必要もなくなる」
「……。……貴方の、妻として?」
「それ以外に何がある」
中也は彼女を強く抱きしめた。 「今はまだ、テメェを泥の中から救い出すには、この城の古臭い掟が邪魔すぎる。……だが、必ず、白昼堂々とテメェを俺の隣に座らせてやる。誰もがテメェに頭を下げ、誰もがテメェの美しさを讃える場所に」
太宰はその言葉を聞きながら、静かに涙を流した。 悲しいからではない。あまりにも眩しい未来が、今この瞬間の、二人だけの静寂の中に確かに存在しているからだ。
「……待っているわ。……たとえ、一万回、貴方の前で視線を逸らさなければならないとしても。……その一万回を、この瞬間のためだけに捧げるわ」
中也は、彼女の涙を親指で丁寧に拭うと、再び彼女の身体を深く、深く求めた。 二人の間に、言葉はもう必要なかった。 領主のシャツが床に落ち、召使の粗末な服が、夜の闇に紛れて脱ぎ捨てられる。
肌と肌が触れ合う音だけが、旧温室に響く。 中也の掌が、太宰の腰を優しく、そして力強く愛撫する。 彼の指先は、彼女が昼間受けている迫害の傷跡を探し出すように慎重で、見つけるたびに、そこへ贖罪のような、あるいは最上の愛のような接吻を残した。
「……あ、……ん、……ちゅ……や……」
太宰の口から漏れるのは、昼間の「召使」としての声ではない。 ただ一人の女性として、愛する男性の名を呼ぶ、震えるような旋律。 中也はその声を一滴残らず吸い上げるように、彼女の唇を幾度も、幾度も塞いだ。
「愛してるぜ、太宰」
「……私も。……貴方だけを、愛しているわ」
窓の外では、冬の嵐が吹き荒れている。 けれど、この旧温室の中だけは、春よりも温かな、極上の愛に満たされていた。 城の人間たちが、明日もまた、太宰を蔑み、中也を畏怖するだろう。 けれど二人は知っている。 その全てが、二人で描いた壮大な「茶番」であり、本当の真実は、この月明かりの下にしかないことを。
中也は、微睡み始めた太宰の額に最後のキスを落とした。 「……おやすみ。……俺の、愛しい人」
太宰は、その温もりの中で、深い、深い眠りに落ちていった。 明日、太陽が昇れば、また二人はお互いを見ない「他人」に戻る。 けれど、その心の奥底には、決して消えることのない、砂糖のように甘く、そしてダイヤモンドよりも硬い誓いが、燦然と輝いていた。
やがて、空の端が白み始める。 太宰は、名残惜しそうに中也の腕から離れ、再びあの粗末な召使の服に袖を通した。 中也もまた、領主としての冷徹な仮面を被り直す。
「……また、今夜」
太宰が扉の前で、一瞬だけ振り返る。 中也は答えず、ただ力強く頷いた。
太宰が温室を出て、凍てつく廊下を歩き出す。 すれ違った騎士が、彼女を邪魔そうに肩で小突いたが、太宰は小さく頭を下げるだけで、その唇には、誰にも悟られないほど微かな、幸福な笑みを浮かべていた。
彼女の瞳には、冷たい石造りの廊下ではなく、昨夜、中也の瞳の中に見た、眩いばかりの光の庭が映っていたからだ。
二人の物語は、まだ始まったばかりである。 世界を欺き、階級を嘲笑いながら、二人はただ純粋に、お互いの魂を分かち合っていく。 それは、どんなお伽話よりも甘く、どんな歴史書よりも確かな、真実の純愛であった。
コメント
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よし太宰さんにわざと当たったやつ公開処刑で☆
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