テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
21
15
50
42
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
文化祭当日。
朝から学校は騒がしかった。
廊下には装飾。
写真を撮る生徒。
笑い声。
どこも、 “青春っぽい空気”で溢れている。
二年C組も、 表面上だけは盛り上がっていた。
「インスタ載せよー」 「動画回して!」
女子たちはスマホを向け合い、 男子たちはふざけながら呼び込みをしている。
白石ひかりは、 そんな教室を少し離れた場所から見ていた。
昨日までの重苦しい空気が、 嘘みたいだった。
でも、 どこか薄っぺらい。
皆、 “楽しい文化祭”を演じているように見えた。
その時だった。
「白石ー!」
一軍女子の朝比奈美優が、 笑いながらスマホを向けてくる。
「写真撮ろ!」
白石は少し困ったように笑う。
「今忙しいからあとで――」
「いいじゃん一枚くらい!」
無理やり肩を組まれる。
周囲は笑っている。
その空気に、 白石も結局合わせて笑った。
その様子を、 教室後ろで神崎が見ていた。
神崎は小さく舌打ちする。
「……また空気か」
昼過ぎ。
お化け屋敷はかなり混んでいた。
悲鳴。
笑い声。
スマホ撮影。
教室は熱気で溢れている。
その中で、 朝比奈たちは教室裏で動画を撮っていた。
「せーの!」
「二年C組サイコー!」
笑いながらカメラを回す。
その時。
女子の一人が、 ふざけ半分で言った。
「ねぇ、水瀬役やろーよ」
空気が少し止まる。
水瀬結衣。
裏アカ事件から、 学校へ来なくなった女子。
しかし朝比奈は笑った。
「え、やば笑」
「幽霊役じゃん」
誰かが、 空席になった水瀬の机を映す。
さらに、 黒板へ悪ふざけで文字を書く。
『欠席中』
笑い声。
動画はそのまま、 SNSへ投稿された。
数十分後。
空気が変わり始める。
「……ねぇこれヤバくない?」
「もう拡散されてる」
「他クラスにも回ってるって」
ざわつく教室。
白石はスマホ画面を見て、 血の気が引いた。
投稿動画には、 水瀬を馬鹿にする内容がはっきり映っていた。
コメント欄。
『最低』 『普通にいじめじゃん』 『引く』
通知が止まらない。
朝比奈たちの顔が青ざめる。
「え、待って……」 「ここまでなると思わなかった」
でも、 誰も「消そう」とは言わなかった。
責任を押し付け合うだけ。
「撮ったのそっちじゃん」 「投稿したの私じゃないし」
教室の空気が一気に崩れる。
その時。
ガンッ!!
神崎が机を蹴った。
教室が静まり返る。
神崎は低い声で言う。
「……お前ら最低だな」
誰も喋れない。
朝比奈が震える声で返す。
「だってノリだったし……」
「ノリなら何してもいいのかよ」
神崎の目は、 今まで見たことがないくらい冷たかった。
「水瀬来なくなった時も笑って」
「今も責任逃げて」
「結局、お前ら誰一人本気で人見てねぇじゃん」
空気が凍る。
男子の一人が苛立ったように言う。
「お前関係ないだろ」
「関係ある」
神崎は即答した。
「同じクラスだからだよ」
白石の胸が苦しくなる。
神崎だけが、 ずっと本音を言っていた。
でも皆、 それを“空気壊す奴”として避けていた。
男子がさらに言う。
「正義ぶんなよ」
「問題児のくせに」
その言葉で、 教室の空気が一気に険悪になる。
神崎は笑った。
でも、 その笑いはいつもより危なかった。
「じゃあ聞くけど」
「お前ら、自分が悪くないって本気で思ってんの?」
誰も答えない。
沈黙。
その空気が、 神崎をさらに苛立たせた。
「ほらな」
「誰も本音言わねぇ」
男子の一人が、 神崎の肩を強く押した。
「うるせぇんだよ!」
教室が騒然となる。
女子の悲鳴。
白石が止めようとする。
「やめて!!」
しかしもう遅かった。
押し合いの中で、 神崎の身体が大きくよろめく。
後ろには、 文化祭用に開け放たれていた階段扉。
神崎はバランスを崩す。
一瞬だった。
白石と目が合う。
その顔は、 驚いているのに、 どこか諦めたみたいにも見えた。
次の瞬間。
ガンッ――
鈍い音が、 静かな廊下に響いた。
誰も動けない。
階段下。
神崎が倒れていた。
血が、 ゆっくり床へ広がっていく。
「……神崎くん?」
返事はない。
さっきまで、 そこにいたのに。
教室は静まり返っていた。
誰も、 何も言えなかった。
自分たちの“空気”が、 一人を落としたことに、 ようやく気づいてしまったから。