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その女性――少女の姿に、俺は思わず眉間に皴を寄せ、まじまじと見つめてしまった。
どこからどう見ても中学生か高校生くらいの女の子。
茶色い髪の毛は肩まで伸び、オーバーサイズの白い半袖Tシャツに、太めの黒いパンツを履いたその若者らしいラフな姿は、とてもこの店の主人とは思えなかった。
「あぁ……、君はここの子?」
主人の娘あたりだろう、と訊ねてみたのだけれど、
「あ、違いますよ」
軽く首を横に振って、その少女はカウンターの内側に立ちながら、
「ちょっと店主が店を開けてるんで、店番を頼まれまして」
「店番……」
でも、ここの子ではない? どういうことだ?
そんな俺の視線に気づいたのだろう、少女は「あっ」と口を開いた。
「わたしはバイトです」
「あぁ、バイト」
俺は店の中を一旦見回してから、
「――じゃぁ、日を改めたほうがいいかな?」
すると少女は首を傾げながら、
「お話だけならお聞きしますけど」
お話だけ、っていわれてもなぁ……
俺は少女をまじまじ見つめる。
可愛らしい感じの少女じゃあるが、その程度だ。
この子に俺の話を聞いてもらったとて、なにがどうなるとも思えなかった。
「いや、いいよ。お気持ちだけ頂いておくよ」
それじゃ、と軽く手をあげて店を出ようとしたところで、
「あ、もしかして、わたしをただの娘っ子だと思ってます?」
――娘っ子。
そんな言葉を普段、耳にすることはほぼほぼない。
こんな若い子の口からそんな言葉が飛び出してきたことに思わず失笑してしまう。
「思うもなにも、そうなんじゃないの?」
「ところがどっこい、魔女なんです」
「……は?」
「魔女、です」
「魔女? 君が?」
「はい、魔女です」
「君にも、魔法が使えるってこと?」
「……といっても、見習いなので、多少ですけど」
なんだ。見習いかよ。
バイトで魔女の見習い。
結局中途半端なままじゃないか。
「だから、ほら。わたしを育てると思って、お話聞かせてくださいよ」
「なんだ、そりゃ?」
「わたしだって一端の魔女になりたいので、その練習に付き合ってると思って」
「いやいや、そこに俺を巻き込むなよ――」
「でも、どこのお店に行ってもバイトの新人なんてあたりまえにいるでしょ?」
「だから?」
「お兄さんはその店員さんが新人だとわかったら、いちいちベテランの店員さんに変わってもらうんですか?」
「いや、そんなことはしないけど……」
うむむ……そういうことか。
何事も経験。経験しなければ成長しない。成長するには経験させるしかない。
確かにここは魔法のお店――らしい。
そこのバイトの子が店番をしていて接客しているのなら、それはまぁ、そういうことなわけで。
「もちろん、実際に対応するのは店主の方ですから、安心してください!」
ふむ……。
俺は腕を組み、しばし考える。
それから小さく息を吐いてから、
「それじゃぁ、話だけでもきいてもらおうかな」
そして少女の顔にもう一度視線を向けて、
「えっと――」
彼女の名前を訊ねようとする前に、彼女はにっこりと微笑んで、
「茜です。那由多茜」
そういって、ぺこりと小さく、お辞儀した。