テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
524
#nmnm
かめちょん
93
1,192
コメント
1件
いやあああああ尊すぎる!!!!😭💕💕💕 桃太郎がめんどくさがりで、その相手がまさかの美しすぎる赤鬼ちゃんって反則じゃない??しかも一目惚れからの「好き」連呼、早すぎて笑ったけどこっちまでニヤニヤ止まらんかった!! 涼架の「演技だった」ってバレるシーン、あそこから一気に距離縮まる感じがエモすぎて何回も読み返したよ…💘 滉斗のツッコミも絶妙だし、三人のゆるふわな空気がたまらんかった🥺 続きもっと読みたいから、早く更新してね庵野さんっ!!🌸
桃太郎、と聞いて誰もが思い浮かべるのは、鬼ヶ島へ向かい、犬猿雉を連れて鬼を退治する勇敢な英雄だろう。
しかし。
「……めんどくさい」
縁側で寝転がりながらそう呟いている青年を見て、誰が英雄だと思うだろうか。
春の昼下がり。
桃色の羽織を適当に羽織った青年――元貴は、団子を片手にだらだらしていた。
「元貴ぃ!」
家の奥から、お婆さんの怒鳴り声が飛ぶ。
「聞いておるのかい!」
「聞いてる聞いてる〜」
「返事が軽い!」
のそり、と起き上がる。
元貴は桃太郎だった。
……らしい。
桃から生まれたとか、生まれてないとか、本人もよく知らない。
気づいたら爺さん婆さんに育てられていたし、別に深く考えたこともない。
ただ、人より強い。
それだけだ。
「村長様が呼んでるよ。鬼の件だって」
「鬼ぃ?」
最近、妙な噂が流れていた。
赤い鬼。
街を三つ潰した。
山を裂いた。
一晩で百人消えた。
尾ひれが付きすぎて、もはや化け物話である。
元貴は半分くらい聞き流していた。
だが今日は少し違った。
「村の子が一人、森に入ったまま帰ってこんらしい」
その言葉に、元貴はようやく身体を起こした。
「……ふーん」
「ふーんじゃないよ!」
「いやぁ……」
「お前、桃太郎だろう!」
「その設定まだ生きてたんだ」
「設定言うな!」
怒鳴られた。
結局、 押し切られる形で元貴は森へ向かうことになった。
腰に刀ときびだんご。
扇子をぱたぱた揺らしながら歩く姿は、やる気があるのかないのかわからない。
「はぁ……帰りたい」
「まだ村出て十分だぞ」
横から声がした。
いつの間にか隣にいた男に元貴はげんなりした顔を向ける。
「……なんでいるの」
「面白そうだから」
「帰れ」
「嫌だ」
にかっと太陽みたいに笑う男。
滉斗。
犬猿雉の混合物体とかいう意味不明な存在である。
犬にも猿にも雉にもなれるらしい。
「俺も鬼見たい」
「観光気分やめて」
「お前一人じゃ心配なんだよ」
「母親?」
「俺の方が身長デカいからね、ももたろさんっ」
「うざ……」
そんな調子で二人は森を進んだ。
木漏れ日が揺れる。
風が吹く。
不思議なほど静かだった。
本当に恐ろしい鬼がいるなら、もっと殺気とか瘴気とか、そういうものがあると思っていた。
だが。
聞こえてきたのは。
「わー!」
「きゃはは!」
子どもの笑い声だった。
「……は?」
茂みをかき分ける。
そこで元貴は、言葉を失った。
赤。
最初に見えたのは、鮮やかな赤だった。
長い真っ直ぐな赤髪。
陽に透ける白い肌。
派手な着物と羽織。
頭には小さな和傘のような飾り。
そこから、偽物らしき鬼の角が覗いている。
そして。
この世のものとは思えないほど、美しかった。
「……え」
元貴の思考が止まった。
完全に止まった。
赤鬼――涼架は、子どもと一緒にしゃぼん玉で遊んでいた。
「見よ見よ〜、おおきいの作れたぞ〜」
「すごーい!」
「妾、天才じゃな」
ふわふわ笑う姿は、とても街を潰した化け物には見えない。
というか。
可愛い。
めちゃくちゃ可愛い。
「……やば」
「おい元貴、顔」
「無理」
「早いな一目惚れ」
「無理だってあれは」
元貴は真顔で言った。
「どタイプなんだけど」
「そーですか」
その時。
子どもの一人がこちらに気づいた。
「あ! もときにーちゃん!」
「ん?」
「このおにーちゃん優しいんだよ!」
「どっちのおにーちゃんかの?」
涼架が小首を傾げる。
その仕草すら絵になる。
元貴は死にかけた。
「…………」
「おーい戻ってこーい」
滉斗に肩を叩かれ、ようやく意識が戻る。
涼架は二人を見ると、すっと立ち上がった。
ふわり、と袖が揺れる。
「……ほう。桃太郎か」
空気が変わった。
ぞくり、と肌が粟立つ。
笑っているのに。
ただ立っているだけなのに。
圧が凄まじい。
「妾を斬りに来たか?」
赤い瞳が細められる。
元貴は数秒見惚れてから。
「いや別に」
「……は?」
「え、だって子ども無事だし」
「……」
「あと顔が好き」
「は?」
今度は涼架が固まった。
滉斗が吹き出す。
「お前さぁ!!」
「本音が先に出た」
「いや早いんだって!」
涼架はぽかんとしていた。
どうやらこういう反応は予想外だったらしい。
「……妾は鬼じゃぞ?」
「知ってる」
「人を恐怖させる存在じゃぞ?」
「うん」
「街を潰したこともある」
「へぇ」
「…………」
「で?」
元貴は不思議そうに首を傾げた。
「今、悪いことしてないじゃん」
涼架が目を見開く。
その一瞬。
演技みたいな空気が、少しだけ剥がれた。
ふわ、と。
柔らかいものが見えた気がした。
「……変なやつじゃの」
「ありがと。よく言われる」
「元貴、それ褒められてない」
涼架はしばらく黙っていたが、やがてふっと笑った。
「くく……面白いな、おぬし」
その笑顔があまりに綺麗で。
元貴は本格的に終わった。
(好きだ……)
心の中で確信した。
その後、 元貴たちは涼架と一緒に話をすることになった。
聞けば街を潰したという噂も半分は誇張らしい。
「いや全部合わせたらそのぐらい潰したがの」
「潰してるじゃん」
「完全に街潰したのは一つだけじゃ」
「潰してるじゃん」
「山賊が住み着いておっての」
「規模がでかい」
しかも本人は、見た目に反してかなりふわふわしていた。
話し方を頑張って威厳ある感じにしているが、時々妙に間が抜ける。
「それでの、妾が――」
ぐぅ。
腹が鳴った。
「…………」
「…………」
「…………ボク、お腹すいた」
空気が止まった。
元貴が固まる。
滉斗が瞬きをした。
涼架も、「あっ」みたいな顔をした。
「…………え」
元貴が呟く。
涼架は数秒黙ったあと、観念したように肩を落とした。
「……もういいや」
その瞬間。
空気が、ふっと変わった。
さっきまでの芝居がかった威圧感が消える。
代わりに現れたのは、拍子抜けするくらい柔らかい声だった。
「ずっとあの喋り方してると疲れるんだよね」
「演技!?」
「うん。鬼っぽいかなって」
「鬼っぽさを作ってたの!?」
「怖そうに見えるでしょ?」
涼架は困ったように笑った。
その顔があまりにも年相応で。
元貴は頭を抱えた。
「待って無理」
「何が」
「好き」
「急に?」
「いや前からだけど」
「最悪……」
口ではそう言いながら、涼架は少し照れたように視線を逸らす。
しかも。
派手な羽織を脱いだ瞬間、元貴はさらに倒れかけた。
細い。
びっくりするほど華奢だった。
大きな服に隠れていた身体は、少女みたいに細くて頼りない。
白シャツ姿が妙に色っぽい。
「……えっ」
「ん?」
「細……」
「だから隠してたのに」
「可愛い」
「やめてって」
元貴は頭を抱えた。
好きが増える。
会話するたび増える。
和傘を取った時なんて本当に危なかった。
本物の赤い角が現れた瞬間、美しさが限界突破したのである。
「…………」
「なにその顔」
「好き」
「知ってる」
滉斗が腹を抱えて笑っていた。
そして。
数日後。
「村来る?」
元貴は唐突に言った。
「……は?」
「いや、涼ちゃん強いし」
「涼ちゃん!?」
「守護者とか向いてそう」
「軽いなぁお前!」
だが村人たちは、実際に涼架を見て考えを変えた。
怖がる者も最初はいた。
けれど。
子どもたちと遊ぶ姿。
困った人を助ける姿。
何より、圧倒的な美しさ。
みんなすぐに受け入れた。
「ありがたや……」
「美しい……」
「神様か……?」
村人たちが惚れ始めた辺りで、元貴は不機嫌になった。
「……なんかムカつく」
「嫉妬?」
「うるさい」
以来。
元貴は基本的に涼架の横を離れなくなった。
「元貴、近い」
「嫌」
「子どもかおぬしは」
「涼ちゃんが人気すぎるのが悪い」
「知らんがな……」
そんな二人を見ながら、滉斗は子どもたちと遊んでいた。
「滉斗にーちゃん! 犬なって!」
「よしきた!」
「次は雉ー!」
「猿も!」
「忙しいな俺!?」
笑い声が響く。
平和だった。
鬼も。
桃太郎も。
犬猿雉の混合物体も。
きっと昔話とは少し違う。
でも、 縁側で並んで座る元貴と涼架は、どこか幸せそうだった。
「……ねぇ元貴」
「んー?」
「ボク、ここ好きかも」
元貴は目を丸くして。
それから、ふっと笑った。
「そっか」
夕暮れ。
赤い髪が風に揺れる。
その横顔が綺麗すぎて、元貴はまた見惚れた。
(やっぱ好きだなぁ)
たぶんこれから先も、ずっと。