テラーノベル
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夜の山を、風が駆け抜けていった。雪こそ降ってはいないものの、その気配は濃く、どこか寂しげだった。
「……気配なし、か」
凩 侃(こがらし かん)――鬼殺隊の中でも異端の柱、“凛柱”と呼ばれる少年が、ふと小さく呟いた。
十五歳という年齢とは裏腹に、背筋はまっすぐに伸び、眼差しは凍てつくように鋭い。
鬼に対して容赦なく、感情を見せず、それでいて驚くほどの剣技と気配の読みで数多の命を救ってきた。
けれど――
彼の心の奥底には、誰にも見せぬ“空洞”があった。
(会いたいな……あの人に)
誰にも語らぬ想い。
誰にも理解されない矛盾。
鬼殺隊として鬼を討つ立場でありながら、彼の心には“鬼に助けられた記憶”が根付いていた。
幼き日の記憶
あの夜――
侃がまだ、名もない孤児だった頃。
極寒の山中で命を落としかけた自分を救ったのは、血に染まった道着の男だった。
「……寒いだろ。人間は弱いな」
そう言って、彼は侃の肩を抱き寄せた。
その掌は驚くほど温かく、まるで冬の風を切り裂く炎のようだった。
侃は彼の名を知らなかった。ただ、その目と声だけを覚えていた。
そして幼いながらに思ったのだ。
「この人みたいになりたい」
「この人と、また会いたい」
だが現実は、残酷だった。
猗窩座――
鬼であり、上弦の参。
侃の記憶に焼き付いている“あの人”が、まさか人間を喰らう側だったなんて、夢にも思わなかった。
そして猗窩座もまた、忘れてはいなかった。
一方その頃、猗窩座
「……あいつ、生きてるのか」
鬼舞辻無惨からの指令を終えた猗窩座は、独り言のように呟いた。
過去の記憶――小さな子供。
自分の傍にすがりつき、「寒い」と震えていたあの少年。
「名を聞きそびれたな……」
その顔は、珍しく穏やかだった。
鬼になってなお、記憶に残る人間。
殺すことも、忘れることもできず、ただ再会を願っていた。
運命の歯車
再会を望みながら、出会うことのない二人。
同じ空を見上げ、同じように孤独を抱きながら、まるで対の存在のように――。
だが、運命は静かに動き始めていた。
それは“雪の夜”、再び彼らを引き寄せることになる。
コメント
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すいません。 名前は『凩 侃 こがらし かん』 と読みます、