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魔界の空は常に薄暗く、灰色の雲が低く垂れ込めている。
セリオはリゼリアとともに北東の山道へと向かっていた。
先行して偵察に出た魔族の兵士たちが、慎重に様子を伺っている。
「見えたわ」
リゼリアが霧の向こうを指差す。
そこには、十数名の人間の兵士たちがいた。黒い鎧を纏い、統率の取れた動きを見せている。
——ただの偵察隊ではない。
セリオは彼らの装備を見て、即座に理解した。
彼らは精鋭。かつて自分が所属していた王国軍の、最も手練れの者たちと遜色ない。
それどころか——
「……女がいるな」
その先頭に立つ一人の少女。
白いドレスに白銀の甲冑を纏い、鋭い眼差しで前方を見据えている。
レティシア・ルミエル
セリオは彼女の幼い頃を知っている。
セリオが死んだ後、彼女がどのような道を歩んだのかは知らない。
だが、今ここで剣を抜いて立っているということは——
「私たちを滅ぼすつもりなのでしょうね」
リゼリアが小さくため息をつく。
「セリオ、あなたの知り合い?」
「ああ……」
その時、レティシアがこちらに気づいたようだった。
彼女はまっすぐに歩み寄り、一定の距離を保ったままセリオに呼びかける。その声はかすかに震えていた。
「……セリオ、さま……?」
「……お前か」
セリオはレティシアを見つめ返した。
彼女の顔には驚愕と疑念、そして——怒りが浮かんでいる。
「……どういうことですか? あなたは……もう、亡くなったはずでは?」
「間違いではない。俺は一度死んだ」
「じゃあ、どうして……!?」
レティシアの声には怒りが滲んでいた。
「まさか、魔族に魂を売ったのですか?」
その言葉に、セリオは眉をひそめた。
「そういうわけではない」
「では、どうしてあなたは魔族と行動を共にしているのですか……?」
「……気づいたら、ここにいた。それだけだ」
「ふざけないでください!」
レティシアが剣を抜いた。
「魔族の側にいるという時点で、あなたはすでに裏切り者です! 私はあなたを斬らなければならない!」
セリオは静かに剣を構えた。
レティシアの刃を正面から受け止める覚悟を決めながら。