レティシアの淡い金の髪が、薄暗い魔界の空の下でわずかに輝いた。短く切り揃えられた前髪が、かすかに揺れている。
彼女は剣を構えたまま、セリオを真っ直ぐに見つめている。
「……答えてください、セリオ様」
その声は震えていた。しかし、それは恐怖ではなく、怒りと疑念によるものだろう。
「なぜ、あなたが魔族とともにいるのですか?」
セリオは、目の前の少女を見つめ返した。
彼女は成長していた。
かつて、自分が助けたあの幼い少女——。
故郷を魔族に滅ぼされ、絶望の中にいた彼女を、剣をもって守ったことを覚えている。
あのときは、まだこんなに幼かったのに。
だが、今のレティシアは、もはや守られる存在ではなかった。
——いつの間に、こんなに強くなった?
「答えなさい!」
レティシアの叫びが、セリオの思考を引き戻す。
「……気づいたら、ここにいた。それだけだ」
「そんなはずはありません! あなたは正義の騎士だった! 弱き人々を守るために剣を振るっていた!」
「……」
「なのに、どうして魔族と一緒にいるのですか!? あなたが救った人々を、今度は見捨てるのですか!?」
セリオは静かに目を閉じた。
——救った、か。
確かに、あの時の彼女を救ったのは自分だ。
だが、だからといって、今もその信念のままでいられるとは限らない。
何より、自分はもう“人間”ではないのだ。
今の自分に、果たしてかつてのような“正義”を語る資格があるのか?
沈黙するセリオの横で、リゼリアが小さく息をついた。
「……面倒な子ね」
彼女は、レティシアを一瞥する。
「セリオはもうあなたの知っている“人間の騎士”じゃないのよ。彼は死んだの。今ここにいるのは、彼の亡霊——魔界の住人として生きる者よ」
「そんなこと……認めません!」
レティシアが剣を構え直した。
「たとえ死んだとしても、セリオ様はセリオ様です! あなたたち魔族に囚われ、操られているというのなら、私がこの手で解放します!」
「ふぅん、解放ね……」
リゼリアは冷ややかに笑う。
「人間って、どうしてこうも身勝手なのかしら」
次の瞬間、レティシアが地を蹴った。
その刹那——鋭い刃が、セリオの前に迫る。
かつて救った少女の剣が、今、自分を斬り裂こうとしていた。
セリオは、それを迎え撃つべく、剣を構えた。
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