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「ダル」
机に突っ伏した状態の湾華からそんな声が聞こえる。自身の姉との連絡を中断させられた事自体不愉快なのだろう。
「ふむ、二分か。準備に一分かかるのであれば、その程度が妥当だろうが、本というのは早急に乾かした方が良い。時間が掛かる湾華は置いていけ」
空になった湯呑みに目をやりながら愛華は炎帝達にそう告げた。
「もし僕たちが依頼に言っている時に電話が来たらどうするの?」
炎加は、穏やかな口調だが、その声の奥底を読み取ると、まるで愛華を試しているようにも聞き取れる。
「心配するな。私も湾華と共に留守番している。何かあれば連絡してこい」
愛華は、そっと立ち上がり、冷蔵庫の中にあるポットの麦茶を湯呑みに注ぎながら応えた。
「そっかぁ〜。りょ~か〜い」
炎加は穏やかに、期待通りと言ったような声でそう言った。
「愛姉さんお留守番するんですか?そうですか…。じゃあ、和華、いっしょうけんめいに頑張ってきます!」
和華は彼女が一番慕っているドールである愛華が留守番と聞いて少し落ち込んだような素振りを見せたが、直ぐに可愛らしいエンジェルスマイルでそう宣言した。
「和華の事は僕に任せといてねぇ~」
そんなエンジェルスマイルを振り撒いている和華を愛おしそうに見つめながら、炎加は炎帝と愛華に向けてそう言った。
「そろそろ和華も嫁に出さねば、です、か」
少し寂しいような、嬉しいような、そんな複雑な表情を浮かべて炎帝は独り言を呟いた。炎帝も和華を実の妹のように可愛がっている者達の一人なのだ。
「茶番はいいから早く行け」
炎帝の言葉に愛華は少し眉を顰めつつも、優しい声色でそう告げた。
「あ!また姉貴から連絡来た!はぁ?何で彼奴の事話すの?最悪何だけど」
湾華は姉から連絡が来たらしくテンションが上がったと思われたが、湾華の姉が別のドールの話をするものだから一気にテンションが地の底まで落ちたようだ。テンションの落差が激しいのはいつもの事なのか、愛華達は気にも留めていない。
「イヤホン、よし!メモ帳、よし!ハンカチ、よし!ディッシュ、よし!準備万端です!」
和華は手動の硝子扉の前で、持ち物を一つ一つ確認して、元気良くそう声を上げた。
「和華、僕は姉貴と連絡してるから行けないけど、頑張ってね!」
湾華は意外にも和華に懐いている……、和華と親友なのだ。湾華曰く、和華は姉貴の次に大事。だそうだ。
「泣きながらサボった分の仕事をしている鈴姉さんの分まで頑張ってきますね」
いつもの定位置でまた、茶を啜っている愛華に向けて炎帝は声をかけた。
「あぁ。無理の無いように頑張れ。私も湾華の子守をしておく」
ちゃっかり、いや、しっかり湾華の子守と愛華は言った。彼女の辛辣な所は健全なようだ。
「じゃあ、いってきまぁ~す」
炎加のその穏やかな声を合図に炎帝達は事務所を飛び出した。