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雑木林、草むらの順に抜けると街に出た。車、建物、看板、信号機、道路標識、俺がこれまで生きてきた世界とさほど変わった印象はない。
「こんにちは」
向かいからやってきた、スーツにネクタイ姿の男が微笑んでいる。後ろを振り向くと誰もいなかった。彼は爽やかな白い歯を残して歩き去った。
「こんにちは」次にすれ違ったのは、ダックスフンドを散歩するおばさんだった。ほかほかのじゃがいものように顔をほころばせて去っていった。
「こんにちは」今度は野球帽をかぶった小学生。つぶらで無邪気な瞳をしていた。その次は長い髪の若い女性。光る口紅をしていた。
その次は信号近くで立ち止まり、電柱の陰に身を寄せた。今日はお祭りでもあるのだろうか。ひとまず行き交う人の様子を観察することにした。すれ違う人どうしあいさつしている。お婆さんが、中学生らしき少年と立ち話をしている。アタッシュケースを持った男性が、余裕ありげに闊歩している。買い物籠をぶらさげた主婦が集まり、声をあげて笑っている。野球帽の小学生が、友達と追いかけっこをしている。不機嫌な顔がどこにもない。誰もがエネルギーに満ち溢れている。
信号が何度目かの青になったとき、俺と同い年くらいの、制服を着た生徒達が横断歩道を渡り始めた。その中の一人、一番背の高い男は、なんとケマルだった。彼らの後を距離をあけてついていくことにした。
角を曲がると、ペンキ塗りたてのクリーム色をした鉄筋コンクリート二階建ての建物が見えてきた。俺の通っている高校とどこか似ている。でもやはり違う。俺のところは正門右に校舎がある。集団は中に入っていった。門をくぐり建物に入ると、ざわつきが廊下に乱反射していた。透かし彫りの施してある手すりを辿って二階に出る。通りがかった生徒が「やあ」といきなりきた。軽く手をあげておく。廊下の奥に「職員室」と書かれた部屋を見つけた。半乾きのYシャツの前ボタンを締める。ネクタイはポケットに入れておいたはずだが、途中で落としてしまったようだ。中からあごひげのみぞおちまで伸びた人が出てきた。俺は制服が違う理由や、ここまで来たいきさつを話そうとしたが、彼は「また後だ」と言った。