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「新しい友達だ」
先生は俺の腕を引っ張ると、黒板の前に立たせた。黄色い声と低い声、手を叩く音、口笛の音。中には笑っている人もいる。
教室を見回すと、後方にケマルがいた。
「自己紹介でもなさい」先生は黒板の端でひげに手をやっている。
俺は名前を言ったあと、いつか越えようとしていた大きな城壁を今日はやっと越えてこちら側まで来たこと、制服の人を見かけてついてきたらここに辿り着いたことを話した。先生も生徒も、壁のことは何も知らない様子だった。狐につままれたような顔をしているだろう俺に構わず、先生は前から三列目の空いている席をさした。隣の人に教科書を見せてもらおうと椅子をずらすと、ギイッと床が鳴った。先生は俺の元へやって来て、「とりあえず中に入っているものを出してみなさい」と言う。軽い鞄を逆さにすると、筆箱とノート、国語の問題用紙が出てきた。解答用紙は捨ててきてよかった。他の教材は全て、壁向こうの学校のロッカーの中だ。先生は俺の藁半紙を取り上げ、ざっと目を通したあと、小さな失笑を洩らした。それを俺は確かに聞いた。「ようし、変更だ。今日はクタイの持ってきたものをやろう」生徒の一人が問題用紙を人数分コピーしてきて最前列に配る。紙が暖かい。後ろへまわす。文章に目を通す時間が終わると、教室のほぼ全員が手を上げた。異文化だ。ほぼ、というのは、俺ひとり上げていなかったからである。