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休日の午後。
公園には、子どもたちの笑い声がしゃぼん玉みたいにふわふわ浮かんでいた。
「おにいちゃん、はやくー!」
みことがぶんぶん手を振る。
滑り台の上から身を乗り出しているせいで、すちは思わず眉を下げた。
「危ないからちゃんと前向け」
「だいじょーぶ!」
全然大丈夫じゃなさそうだった。
でも、みことは楽しそうに笑っている。
太陽をそのまま飲み込んだみたいな笑顔だった。
すちは少し離れたベンチに座りながら、その姿を眺める。
休日なのに制服の延長みたいな感覚で疲れていた頭が、みことを見ているだけでゆるんでいく。
「おにいちゃん見て!」
今度は鉄棒にぶら下がっている。
「逆上がりできる!」
「へぇ、すごいじゃん」
「えへへ!」
褒めると、みことは本当に嬉しそうにする。
その反応が可愛くて、すちはつい何でも褒めてしまうのだった。
「いーち、にー……」
みことが足をばたつかせながら回る。
着地に失敗してふらついた瞬間、すちは反射的に立ち上がった。
「危なっ」
だが、転ぶ前にみことは体勢を立て直す。
「できたー!」
両手を上げて笑う姿に、すちはほっと息を吐いた。
「心臓に悪い……」
「おにいちゃん、顔へんなの!」
「誰のせいだと思ってんの」
みことはきゃははっと笑う。
その声が、近くにいた子どもたちの耳に入ったのだろう。
ざわ、と数人の小学生がこちらを見た。
「あ」
みことも気づいた。
少し離れた場所にいた男の子たちが、ひそひそ何か話している。
「あれ、みことじゃね?」
「え、ほんとだ」
「めっちゃ笑ってね?」
みことの肩がぴくっと揺れた。
さっきまで柔らかかった表情が、一瞬で固まる。
笑顔が消える。
みるみるうちに緊張した顔になって、みことはぱたぱたとすちのところへ走ってきた。
そして、そのまますちの後ろへ隠れる。
服の裾をぎゅっと掴む小さな手。
すちは目を瞬いた。
「みこと?」
返事はない。
背中越しに、小さな体がこわばっているのだけがわかった。
すちは困ったように視線を落とす。
学校での話を、少し思い出した。
みことはクラスであまり喋れない。
友達がいないわけじゃない。でも、輪の中に入るのが苦手。
家で見せる笑顔と、学校での顔は違うのだ。
「……大丈夫」
自然と、そう口にしていた。
すちは後ろ手にみことの頭を撫でる。
ふわふわの髪。
すると、みことの肩から少しだけ力が抜けた。
その様子を見ていた男の子たちが、おそるおそる近づいてくる。
「……なぁ」
ひとりの男の子が、すちを見上げた。
「お前、こいつの兄ちゃん?」
すちはしゃがんで目線を合わせる。
「うん。そうだよ」
なるべく柔らかく答えると、男の子たちの顔がぱっと明るくなった。
「え、マジ!?」
「すげー!」
「兄ちゃん高校生!?」
「背ぇ高っ!」
一気にわらわら集まってくる。
すちは少し圧倒されながらも苦笑した。
「そんなすごい?」
「すげーよ!」
ひとりの子が目をきらきらさせる。
「俺の兄ちゃん全然遊んでくんねーもん!」
「あーわかる!」
「ゲームばっかしてる!」
「あとすぐうるせーって言う!」
口々に不満を言い始める小学生たち。
すちは思わず吹き出した。
「兄ちゃんってそんなもんじゃない?」
「えー!」
「でも兄ちゃん優しいじゃん!」
その言葉に、みことの肩がぴくっと動く。
男の子は、すちの後ろに隠れているみことへ笑いかけた。
「みこと、お前の兄ちゃんかっけーな!」
「……っ」
みことは目を丸くした。
たぶん、予想していなかったのだ。
からかわれるとか、変だって言われるとか、そういうのを身構えていた顔だったから。
「一緒に遊んでくれるとかめっちゃいいじゃん!」
「うらやましー!」
「しかも優しそー!」
わいわい騒ぐ声。
みことはきょとんとしたまま、少しずつすちの後ろから顔を出す。
その横顔を見て、すちはなんだか胸がじんわりした。
学校で、ちゃんと見てくれてる子たちもいるんだ。
みことが知らないだけで。
「……おにいちゃん」
小さく服を引っ張られる。
「ん?」
「……ぼくの、おにいちゃん」
みことは少し照れたみたいに笑った。
嬉しそうだった。
その顔を見た瞬間、周りの男の子たちが一斉に騒ぐ。
「うわまた笑った!」
「みことそんな笑うんだ!」
「初めて見たかも!」
「いつも静かなのに!」
「……っ!」
みことはまた真っ赤になる。
慌ててすちの背中に隠れようとして、でも途中で止まった。
ちら、とクラスメイトたちを見る。
みんな笑っていた。
嫌な笑い方じゃない。
からかいでもない。
純粋に驚いて、楽しそうに。
「……」
みことは少し迷ってから、恐る恐る口を開く。
「……お、おにいちゃん、優しいもん」
その瞬間。
「いいなーー!!」
男の子たちが一斉に叫んだ。
「俺もそんな兄ちゃん欲しい!」
「ずりー!」
「みことだけずるい!」
公園に笑い声が広がる。
みことはびっくりしたあと、耐えきれなくなったみたいに小さく吹き出した。
「ふふ……っ」
その笑顔は、家で見せるものと同じだった。
柔らかくて、安心した顔。
すちはそれを見て、そっと目を細める。
みことはまだ少し緊張していた。
でも。
ちゃんと、前を見ていた。
すちの服を掴みながら、それでもクラスメイトたちの輪のほうを見ている。
「なぁ兄ちゃん!」
「ん?」
「サッカーしようぜ!」
「え、俺も?」
「しよしよ!」
「みことの兄ちゃんめっちゃ足速そう!」
勝手なイメージをつけられて、すちは苦笑する。
「期待しすぎ」
「でも来てよ!」
わいわい囲まれながら、すちは困ったように笑った。
その隣で。
みことが少しだけ胸を張った顔をしていた。
まるで、自慢みたいに。
夕焼けが、公園の遊具をオレンジ色に染めていた。
「うおっ、待っ、速っ……!」
すちは肩で息をしながら、逃げていく小学生集団を見つめる。
「捕まえてみろー!」
「兄ちゃーん遅ぇー!」
「みこと! 逃げろ逃げろ!」
きゃあきゃあ騒ぎながら走り回る子どもたち。
元気が無限すぎる。
鬼ごっこから始まり、サッカーをして、滑り台競争をして、最後はなぜか“地面の白線から落ちたらワニに食われるゲーム”までやらされた。
高校生の体力を容赦なく削ってくる。
「……小学生って化け物か……」
すちがベンチに崩れ落ちると、周囲の子どもたちが笑った。
「兄ちゃんバテてる!」
「弱っ!」
「うるさ……お前ら元気すぎ……」
息も絶え絶えに返すと、またきゃははっと笑い声が広がる。
その輪の中で、みことがぱたぱた駆け寄ってきた。
「おにいちゃん!」
「んー……」
返事をすると同時に、みことがぎゅっと抱きついてくる。
汗ばんだ小さな体。
遊び回って熱を持った頬。
みことはすちの腕にぺったりくっついたまま、満足そうに笑った。
「いっぱい遊んだね!」
「……遊ばされた、の間違いでは」
「えへへ」
楽しそうだ。
それだけで、疲労が少し軽くなるから不思議だった。
クラスメイトたちはまだ騒いでいたが、少しずつ帰る支度を始めていた。
「じゃーなみこと!」
「また学校でな!」
「兄ちゃんもばいばーい!」
元気な声が飛ぶ。
みことはすちにくっついたまま、小さく手を振った。
「ばいばい……」
最初、公園に来たときとは違う声だった。
怖がって隠れていた子と同じとは思えないくらい、柔らかい。
すちはその変化が嬉しくて、そっとみことの頭を撫でた。
すると、みことが服に顔を埋めながら、小さく呟く。
「……おにいちゃん」
「ん?」
「ありがとう」
か細い声。
でも、ちゃんと聞こえた。
「……なにが?」
「いっぱい、一緒にいてくれて」
みことはぎゅっとすちに抱きつく。
「ぼく、今日たのしかった……」
胸の奥が、じんわり熱くなる。
すちは少し黙ったあと、ふっと笑った。
「そっか」
「うん……」
みことは甘えるみたいに擦り寄ってくる。
その姿があんまり可愛くて。
すちは衝動的に、みことの脇へ手を入れた。
「わっ!?」
ひょい。
軽々と持ち上がる。
「お、おにいちゃん!?」
「軽」
「ちょ、ちょっと!」
突然抱き上げられて、みことが目を丸くする。
すちはそのまま膝の上へ乗せるみたいに抱え込み、近くで顔を覗き込んだ。
遊び疲れたせいか、頬がほんのり赤い。
髪は汗でしっとりしていて、目はきらきらしていた。
可愛い。
思わず、そう思う。
「……なにその顔」
すちが笑うと、みことは恥ずかしそうに視線を逸らした。
「だ、だって急だもん……」
「ごめんごめん」
「びっくりした……」
言いながらも、みことは嫌がっていない。
むしろ安心したみたいに、すちの肩へこてんと頭を乗せる。
そのとき。
「うわー!」
帰りかけていた男の子たちが振り返った。
「みこと抱っこされてる!」
「まだまだ子どもじゃん!」
「赤ちゃんだー!」
「ち、ちがっ……!」
みことの顔が一気に赤くなる。
慌てて降りようともがくが、すちは普通に支えたままだった。
「おにいちゃん下ろしてぇ……!」
「えー」
「恥ずかしい!」
じたばた暴れるみことに、小学生たちは大爆笑する。
「みこと真っ赤!」
「兄ちゃん大好きなんだろー!」
「うるさいっ!」
みことは半泣きみたいな顔で抗議する。
けれど、完全に離れようとはしない。
その様子がまた可愛くて、すちはくすっと笑った。
すると男の子のひとりが言う。
「兄ちゃん甘やかしすぎじゃね?」
「小四で抱っこはやばいって!」
すちはその言葉に少し目を瞬いたあと、ふっと笑った。
「んー」
それから、腕の中のみことを見下ろす。
「俺が抱っこしたくなっただけだよ」
「……っ!」
みことの顔がさらに真っ赤になる。
「おにいちゃん!!」
わあっとまた騒ぎになる小学生たち。
「うわーカホゴってやつだ!」
「みこと愛されてんなー!」
「いいなー!」
夕暮れの公園に笑い声が広がる。
みことは恥ずかしさで耳まで真っ赤にしながら、結局すちの服をぎゅっと掴んでいた。
すちはそんなみことを見て、小さく目を細める。
最初は、どう接していいかわからなかった。
兄なんて、自分にできるのかと思っていた。
でも。
今こうして腕の中にいるみことは、ちゃんと笑っている。
学校では見せられなかった顔をして。
安心したみたいに、甘えるみたいに。
「……帰るか」
すちが立ち上がると、みことは小さく頷いた。
「うん」
その声は、どこか幸せそうだった。
玄関の扉が開いた瞬間。
「……ちょっと待って」
母親の声が、低く響いた。
すちとみことは同時にぴたりと止まる。
「え」
「ただいま……?」
恐る恐る顔を上げると、母親は呆然としていた。
そりゃそうだ。
みことは膝も手も泥だらけ。靴下は茶色く染まり、服には草までくっついている。
そして。
「……みことくんはまだしも、すちまで何してるの」
「いやこれには深い事情が」
「どんな事情で高校生が全力泥遊びするの」
すちのズボンにも盛大な泥はねがついていた。
サッカーで転ばされたあと、小学生たちに引きずり込まれる形で謎の泥エリアへ突入した結果である。
みことはすちの後ろに隠れながら、くすくす笑っていた。
「みことくん」
「は、はい」
「あなたも笑ってる場合じゃありません」
「ごめんなさい……」
しゅん、と肩を落とす。
けれど口元がまだちょっと楽しそうだった。
すちはそれを見て吹き出しそうになる。
「すち」
「はい」
「あなたも」
「すみません……」
高校生と小学生が並んで怒られている光景は、なかなか妙だった。
最終的に、母親は深いため息を吐く。
「もういいからお風呂入ってきなさい。床が泥だらけになる前に」
「はーい」
「おにいちゃんいこ!」
みことがぱっと元気を取り戻し、すちの手を引く。
「切り替え早……」
苦笑しながら洗面所へ向かった。
鏡を見ると、確かにひどかった。
髪にまで砂がついている。
「うわ、俺こんな汚かった?」
「おにいちゃん、ほっぺに泥ついてる」
「みこともな」
「えへへ」
笑いながら服を脱ぎ、浴室へ入る。
シャワーを出した瞬間、みことが「つめたっ!」と飛び上がった。
「動くなって」
「だって急にぃ!」
「ほら頭流すよ」
みことは素直に小さな椅子へ座る。
すちはその後ろに立ち、シャワーで髪を濡らした。
「わ、わわ……」
「ちゃんと下向いて」
「んぅ……」
濡れた髪がぺたんと額に張りつく。
公園ではしゃいでいた姿とはまた違って、妙に幼かった。
すちはシャンプーを手に取り、みことの頭をわしゃわしゃ洗い始める。
「ひゃはっ」
「笑うなって」
「くすぐったい!」
泡だらけになったみことが身をよじる。
すちは片手で額を支えながら、丁寧に指を動かした。
「泥入ってる」
「いっぱい転んだから……」
「知ってる」
髪の間を洗うたび、みことが気持ちよさそうに目を細める。
猫みたいだな、とまた思う。
「おにいちゃん」
「ん?」
「もっとわしゃわしゃして」
「注文多いな」
言いながらも、少し強めにわしゃわしゃする。
すると、みことはきゃっきゃ笑った。
「きもちいー!」
「はいはい」
洗い終わって流すと、みことはすっきりした顔で振り返った。
頬がほんのり赤い。
「次、体」
「自分で洗えるもん!」
「背中は?」
「……むり」
「でしょ」
すちはスポンジに泡を立て、みことの背中を洗う。
小さい肩甲骨。
細い腕。
まだ子どもの体だ。
「じっとして」
「はーい」
みことは大人しくしていたが、時々くすぐったそうに肩を揺らす。
「そこ弱い?」
「んっ、わ、わきはだめ……っ」
「はいはい」
笑いながら泡を流していく。
腕、首、足。
転んだ膝に小さな擦り傷ができていた。
「痛くない?」
「へーき」
「あとで薬塗るか」
「おにいちゃん塗ってくれる?」
「いいよ」
その返事だけで、みことは嬉しそうに笑った。
すちはそんな表情を見るたび、胸の奥がやわらかくなる。
浴槽に湯を張っている間、みことはぴったり隣にくっついていた。
肩が触れる。
濡れた髪から、シャンプーの甘い匂いがした。
「おにいちゃん」
「ん?」
「今日たのしかったね」
「……そうだね」
「みんな、おにいちゃんのことかっこいいって言ってた」
「みことまで言うの?」
「ほんとだもん」
みことは真っ直ぐ言う。
「ぼく、おにいちゃんといるの好き」
どく、と胸が鳴った。
すちは少し黙ってから、みことの頭へぽんと手を乗せる。
「……俺も」
「えへへ」
みことが嬉しそうに笑う。
その瞬間、ちょうど浴槽のお湯がいっぱいになった。
「よし、入るか」
「はーい!」
みことはぱしゃぱしゃ湯船へ飛び込む。
「こら暴れるな」
「だって気持ちいいー!」
湯気の中で笑う顔は、今日公園で見た笑顔と同じだった。
安心しきった顔。
すちは湯船に浸かりながら、その隣にいるみことを見下ろす。
小さな体がぴったり腕に寄りかかってきた。
自然に。
当たり前みたいに。
すちはその重みを感じながら、静かに目を細めた。
風呂場には、二人の笑い声が長く響いていた。
「……ねむ」
「そりゃあんだけ走り回ってたらね」
すちは呆れ半分で笑う。
夕飯のときはまだ元気だったのだ。
ハンバーグを頬張りながら、「今日ね!」「あの子がね!」と公園の話を一生懸命していた。
けれどお腹が満たされ、安心した途端これである。
みことの頭が、ぐらりと揺れた。
危ない。
すちは慌てて肩を支える。
「っと」
「んぅ……おにいちゃ……」
半分寝ている。
母親が苦笑した。
「もう限界ね」
「歯磨きして寝かせる」
「お願い」
すちは小さく頷く。
「みことー、歯磨きするよ」
「んー……」
「返事になってない」
手を引いて洗面所へ連れていくと、みことはふらふらしていた。
眠気に負けかけたひよこみたいで、見ていると危なっかしい。
歯ブラシを持たせても、動きが遅い。
しゃこ……しゃこ……
一応磨いているが、明らかに適当だった。
しかも途中で止まる。
「みこと」
「……ん」
「寝るな」
「ねてない……」
完全に寝ている声だった。
すちはため息混じりに笑う。
「貸して」
歯ブラシを受け取ると、みことは素直に口を開けた。
「あー」
「あー……」
眠そうに開かれる口。
すちは鏡越しにその顔を見ながら、丁寧に磨いていく。
「ほら、奥」
「んぅ」
「噛むなよー」
時々ぼんやりしたまま歯ブラシをはむっと咥えるので、そのたびにすちは笑ってしまう。
「子どもか」
「こどもだもん……」
「確かに」
口の端から泡がつきそうになり、すちは指で拭った。
みことは眠たそうにすちへ寄りかかる。
ほぼ全体重が預けられていた。
「立てる?」
「むりぃ……」
「むりじゃない」
そう言いながら、結局支えてやる。
歯磨きを終え、口をゆすがせると、みことはすぐすちの腕に抱きついてきた。
「おにいちゃん……」
「はいはい」
「ねむい……」
「知ってる」
髪を撫でると、みことは安心したように目を閉じる。
その様子を、少し離れた場所から父親が見ていた。
「……すち」
「ん?」
振り返ると、父親が穏やかに笑っていた。
「みことの兄になってくれて、ありがとうな」
不意の言葉に、すちは目を瞬く。
「え」
「最初、急に環境変わって不安だったと思う。でも、お前がいてくれて助かってる」
父親はそう言いながら、すちの頭をぽんと撫でた。
大きな手だった。
子どもの頃以来かもしれない。
こんなふうに頭を撫でられるのは。
「みこと、前よりずっと笑うようになったから」
「……」
すちは少しだけ視線を落とす。
腕の中では、みことがうとうとしながら服を掴んでいた。
「俺、そんな大したことしてないですよ」
「してるよ」
父親は優しく笑う。
「いっぱい遊んで、いっぱい構ってくれてるの、ちゃんと伝わってる」
胸の奥が、じわりと熱くなる。
照れくさくて、すちは頭を掻いた。
「……まあ、みこと可愛いんで」
「ふふ」
父親が笑う。
その声を聞きながら、みことが薄く目を開けた。
「……おとーさん?」
「もう寝るか?」
「……おにいちゃんとねる」
「え、今日も?」
すちが聞くと、みことはこくりと頷く。
「だっておにいちゃん、あったかいもん……」
眠気でとろとろの声だった。
父親は吹き出しそうになりながら肩を揺らす。
「完全に懐かれてるな」
「……そうですね」
でも、悪い気はしない。
むしろ。
みことに頼られるたび、胸の奥があたたかくなる。
「ほら、寝るぞ」
「ん……」
すちはみことを抱き上げた。
みことは自然に首へ腕を回し、肩へ頬を寄せる。
小さな体温がぴったりくっつく。
「おやすみなさい……」
「はいはい、おやすみ」
そのまま部屋へ向かう背中を、父親は静かに見送っていた。
新しい家族の時間が、少しずつ形になっていく。
その空気は、春の毛布みたいに優しかった。
♡.*・゚———————.*・゚♡
次話更新:♡1000⬆
コメント
3件
沢山の更新感謝です!!でもクォリティは落ちてなくてもうすばらしいに尽きる
第2話も尊すぎてやられた…!「おにいちゃんと友達」ってタイトルそのまんま、公園でみことがクラスメイトと関わるシーンがもう堪らなかった。最初はすちの後ろに隠れてたのに、最後はちゃんと前を向いて笑ってるみことにジーンと来たわ。風呂シーンのわしゃわしゃとか、歯磨きで寝落ちしかけてる感じもすごくリアルで、兄妹の距離感が自然に縮まってくのが伝わってきた。父親からの「ありがとう」でさらに泣きそうになったよ。次の話も絶対読む🔥