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「はぁ~ったく、ルカスのお人好しもいい加減にして欲しいもんだぜ!」
「ご、ごめん。でも、人間の俺に対して襲って来なかったわけだし……」
「そりゃあ、アーテルの義理ってのがあるからだろ。だけどオークの奴らが真面目に教えるなんて、あたしは思ったことなんかねえってのに!」
ミディヌがこんなにも腹を立てているのには訳があった。それは、俺が呪符を使わずに徒歩で移動していることが関係している。加えて、俺がオークたちの言葉を一切疑わなかったことだ。
そしてもう一つは――
「こっちニャ~! 確かミルは沼の方に行くと言ってたニャ。きっとそこでボクのことを待ってるニャ~」
ネコのミューちゃんこと、ミュスカの言うとおりに動いているからだ。ミュスカがはぐれたとされる仲間のネコたちは、散り散り状態。何とか仲間のネコたちの名前は聞き出せた。
名前さえ分かれば冴眼を使って探せなくも無かったわけだが。そうしようとしたら、どうやらそれぞれで待ち合わせ場所を決めていたらしく。その言葉を信じ、セルド村の西にあるセデラ沼を目指すことに。
問題は沼に行くことではなく、セルド村のオークに聞いた道案内が問題だった。
「うっ!? 結構ぬかるんでるな……」
「あぁぁ、もう!! もっとも嫌な道に来ちまった! ルカス、あたしをおぶってくれてもいいんだぜ?」
「動けなくなりそうだったらそうするから、我慢して歩いてもらえると~」
「くそっ……」
セルド村を抜けてしばらくは何の苦労も無い草地を進んでいた。そこから一転、雨が降り出した途端に土がぬかるみだし、一気に歩きづらくなる。さらに追い打ちをかけたのが、かなり低地にある沼地だ。
無数に見える沼と水草が繁茂《はんも》する浮島。これに足を取られて歩みがかなり遅くなった。俺はこういった環境に慣れていなかったが、任務経験があったことでまだ何とかなっている。しかしミディヌは双剣士。なるべくなら剣を雨に濡らしたくない思いが強い。
「早く早く渡るニャ~!」
それに引き換えネコ族のミュスカは、さすがといった軽やかな動きを見せて浮島を難なくクリアしていく。
「ミューちゃん、本当にこっちでいいのかな?」
「きっといるニャ! ミルたちはボクと同じく黒い毛色をしてるから、遠くからでもすぐに分かるニャ」
ミュスカによれば、漆黒のネコ《ノワールキャット》のメンバーはみんな黒色のネコ。見分け方は、語尾が異なるからすぐに分かるということらしい。
セデラ沼の奥まで行くと帝都近くの森に抜けるトンネルがあり、ミルというネコとはそこで待ち合わせを決めているのだとか。
「くっ、あたしはこれ以上進めねえ。ルカス、肩を貸せ!」
「え?」
「……お前に背負ってもらう。あたしは軽いだろうし、問題無い」
「た、確かにそうなんだけど」
ぬかるんでいるのは俺も同じだ。とはいえ、ミディヌよりは軽装ということもあって、泥で動けなくなることは無い。
「――ルカス、前方に魔物だ」
俺の判断よりも先にミディヌが俺の背中に密着してきた。背中に感じる感触を気にする前に、顔を上げてすぐに魔物の影が前方にあった。
「あのネコも気付いたみたいだな」
「本当だね」
調子よく前を進んでいたミュスカも魔物に気付いたようで、俺たちの方を振り向いている。助けを求めているというよりはどうするかを気にしている感じか。
そういえばミュスカは、雑貨屋で何も武器を手にしていなかった。冒険者パーティーかどうかはともかく、彼女はどういう戦い方をするのか。
「!! 魔物ニャ~! ルカス、今すぐこっちに来てニャ~!」
いや、やっぱり戦えそうになさそうだな。
「……ルカス。あんたなら手を使わずにやれるだろ? ネコが襲われる前に片付けちまえ!」
「このままで?」
「あたしがいても関係無いだろ? ほら、とっととネコの所に進みな!」
「わ、分かったよ」
背中にはミディヌ、前方の浮島には手招きのミュスカ。とにかく魔物を片付けてここを抜け出さないと、先に進めそうに無いな。