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もうそろそろ汐田と一緒になる交差点だ
と思い、交差点付近を見る。しかし伊織の姿はない。少しその辺りを彷徨く。
偶然を装ってタックル挨拶をかますためである。
…もういつもの時間過ぎたけど…
左手の手首の内側の時計で時間を確認する。いつもよりゆっくり職場までの道を歩く。
たまに振り返るが、結局職場につくまで伊織の姿は確認できなかった。
もしかして早めに来たのかな
と入り口の扉を開いて中に入る。入ってすぐのお客様を応対するデスクの横を通り奥へ。
左に曲がるとガラス張りのオフィススペース。中を確認するが伊織の姿は見えない。扉を開いて中へ入る。
「お、気恵、おはよー」
明観が挨拶する。
「尾内くんおはよう」
社長も気恵に挨拶する。
「おはよー。おはようございます。汐田って今日朝から仕事とかですか?」
社長に聞く。
「ん?いや特にはなにも聞いてないけど」
「風邪とかじゃない?」
明観が言う。
「誰が風邪ひいてるって?」
累愛(るあ)がオフィススペースに入ってきて聞く。
「汐田。まだ来てないから」
明観が答える。
「悪魔も風邪ひくんだな」
「あ、…悪魔ですか?」
ルビアが気まずそうな顔でオフィススペースに入ってきた。
「おぉルビアくん!おはよう!」
「あ、累愛先輩、おはようございます。景馬(けいま)先輩と尾内先輩もおはようございます」
「ルビアくんおはよー」
「おはようルビアくん…。汐田と一緒ではなかったんだね?」
「え。あ、はい。伊織先輩まだ来てないんですか?」
「見ての通り。来てないのよぉ〜。だからみんなで風邪でもひいたかなって話しててね。
あの悪魔でも風邪ひくのか?って」
「あぁ。それで悪魔。なるほど」
と累愛とルビアが話している中、明観がスマホで気恵にメッセージを送る。
通知音が鳴り、スマホの画面を確認する。
明観「家知ってんでしょ?確認がてら、本当に風邪だったら看病でもしてあげたら?」
メッセージを読み明観を見る。明観はいつも通りの眠たげな目で頷く。
「しゃっ、社長!」
「ん?なに尾内くん」
「わっ、私、心配なので見てきます!も、もしかしたら風邪で右腕が爆発しているかもしれないので!では!」
と言いながらバッグから財布を持って職場を走って出ていった気恵。
「いってらっしゃーい」
明観がいつも通りの眠たげな目で手を振る。
「…風邪で右腕が爆発?最近の風邪って怖いねぇ」
と言う社長。
「社長。そんな風邪あったら今ごろ世界中パニックですよ」
と冷静に言う累愛。
「…あぁ〜…。頭いてぇ…」
とズキズキする頭に眉間に皺を寄せ、まるで悪魔のような顔をしながら
寝ていたベッドでゆっくりと上半身を起こす伊織。
「…んん〜…」
眉間に皺を寄せた、まるで悪魔のような顔のまま、頭は働いていないのでボーっとする。
とりあえずベッドから足を下ろす。
「…ひっさしぶりだな、この頭の痛さ…」
と両膝に両膝をつき、前に項垂れるようになりながら呟く。頭は痛さで回らないため、思考を口に出す。
「二日酔いか…。そうか。昨日は…。頭痛っ…。あぁ…ルビアん家(ち)にお邪魔して…」
〜
「悪魔って…いまだに若干信じられないですね」
と言いながら伊織はシャンパンを飲む。
「まあそうだよねぇ〜。ただ歴史的には、だいぶ昔から人間とは親交があったらしいよ。天使もそうでしょ?」
赤い髪の悪魔、アイが水色の髪の天使、タズに話を振る。
「あぁ、そうだな。それこそ海外の絵画なんかに描かれている天使とかは
実際に天使を見たから描けたっていう話もあるほどだし」
「うちが天使の顔なのだ!」
むふぅ〜と得意気な顔をする、白に近い薄い金髪というか、白に近いクリーム色髪をした天使、アルノ。
「ま、オレたち悪魔も絵画に描かれてるけど、だいたいは禍々しいよな」
ルビアが言う。
「そうなのよぉ〜。別に私らの先祖、人間に対して悪いことしてないよね?」
「…してぇ〜…ないんじゃない?知らないけど」
「ま、そりゃ人間がこっちに危害加えてきそうなときは、さすがになんかはするよ?
でもそうじゃない限りは見ての通りほぼ人間だし」
「もしかしてその絵を描いた人間が悪魔に悪いことをしようとして
そのとき怒った悪魔の姿を見て絵に描いたんじゃないですか?」
と伊織が言うと
「それだわ」
とアイがこの世の真理に気づいたような顔を伊織に向ける。そして
「なるほどねぇ〜。ま、私らの本来の姿は絵の感じだしねぇ〜」
と言いながら伊織のシャンパングラスにシャンパンを注ぐアイ。
「あ、すいません。ありがとうございます」
「私お手製の美味しい美味しいおつまみを食べながらゆっくりしていきたまへ」
明日も仕事なんだけどな…
と思いながらも伊織は笑顔でシャンパンをもらい、飲み
アイお手製の美味しいおつまみを食べ、シャンパンを飲み、アイにシャンパンを注ぎ返したり
タズにもシャンパンを注いだり、ルビアにシャンパンを注いでもらったり
あきらかに子どもな見た目だけど…と躊躇しつつもアルノにシャンパンを注いだりして
食べ、飲み進めていった。
「ほんと…オレ接客業向いてないんじゃないかって…笑顔疲れるし」
他人(ひと)の家に行くからということで
いつものビジネス爽やか笑顔と普段通りの死んだ顔のちょうど真ん中くらいの顔で過ごしていたが
お酒が進むにつれてどんどん普段の死んだ顔になった伊織。
「ほおほお」
アイはほろ酔いで話を聞く。
「今んとこ(オーライ おおらか不動産)に拾ってもらって最初のうちは帰ったら表情筋が痛くて痛くて」
「なるほどねぇ〜…大変だ」
「大変大変…。家でも鏡の前で笑顔の練習とかしてたから」
「今そのビジネス笑顔やっってみせてよ」
「やだよ。なんで酒入っててビジネス笑顔しなきゃなんないんだよ」
「でもたしかにすごいね。私ら悪魔でもそんな悪魔顔いないよ」
「褒めてんの?貶してんの?」
「んん〜半半?」
「ま、大抵みんなそうじゃないの?お客様の前で笑顔でいる分
家に帰ったら表情なんてオフるでしょ。オレは落差が酷いだけだって」
「まあまあ、飲みたまえ飲みたまへ」
「このシャンパン高いんじゃないの?オレシャンパンの良し悪しわかんないけど、スルスル飲めちゃうし」
「んん〜…高いの?」
アイがタズに聞く。
「うん。まあまあするね」
「やっぱり。そんな高いものそんな飲めないよ」
「私の注ぐ酒が飲めないってか!」
「今それアルハラ(アルコールハラスメント)でいろいろ言われるから」
「あ、そうなの?ってか今さら遠慮することないっしょー。もう結構飲んでまっせ?親方」
「まあ…たしかに…。じゃ、いただきます」
「よし!飲むぞー!」
「悪魔ってお酒強いん?」
「人によるかな?私はそこまでじゃないけどタズは弱い。ねぇ〜?」
タズは2杯目は、伊織に注いでもらって一口も飲まないのは悪いと思ったのか
一口は飲んだものの、シャンパングラスに入っているシャンパンは全然減っていない。
「そうですね…。自分のエネルギー源が水なので…。
しかも自分でいうのもなんですけど、自分の中に流れてる水って不純物の少ない、すごくいい水なんですよ。
なのでアルコールが混ざると影響を受けやすいというか…。ま、たしかにアルコールは弱いです」
「なるほどね」
なんて話をしながら楽しく飲み進めた。
〜
「全然覚えてねぇけどシャンパンめっちゃ飲んだ気がする…。とりあえず水」
と「よっこらしょ」と声には出さなかったが、それくらいゆっくりと立ち上がる。
キッチンへ行ってグラスに水を入れて飲む。
「…二日酔いでも水って美味く感じねぇよな…」
と言いながらもグラス1杯の水を飲む。
「とりあえず会社行く用意…」
服を脱ごうとする。
「昨日の服のままか…。着替えなかったのかオレ」
と呟きながら上を脱ぐ。
「でもベッドには行ったんだな…。てかよく帰れたな」
と呟きながら下も脱ぐ。するとピーンポーン、ピーンポーン。とインターフォンが鳴る。
「…なんだ?朝っぱらから…」
インターフォンモニターには焦った顔の気恵が写っていた。
「は?」
と思った、というか口に出たものの返事もなにもせずエントランスのロックを開ける。
気恵は
なにも言わずにロックを開けるってことは、声が出せない?本当に風邪なのかも…大丈夫かな…
もしかして!本当は強盗に入られて汐田は縛られてて、私が来て、私も口封じのために招き入れたとか?
と黙ってエントランスのロックを解除しただけなのに、妄想というか暴走していた。
「朝から仕事のトラブルか…?嫌だなぁ〜…」
と呟いて、とりあえず顔を水で洗う。ほんの少し二日酔いが軽減された気がする。
そして歯を磨く。
あ、パン焼かないと…。でも朝食う気しねぇなぁ〜…。コンビニで飲むゼリーでも買ってくか
とキッチンで歯を磨きながら思う。
「汐田!大丈夫!?」
ドアを開けて入ってきた気恵。気恵の目に飛び込んできたのは
いつも以上に死んだ顔で歯を磨きながら気恵を見る伊織。その格好は下着のパンツ一丁。
「…っごっ、ごめん!」
ドアを閉じる気恵。
なんだ?騒々しい
と思いながらベッドに移動して部屋着のパンツを履く。
え?あれ?めっちゃ普通に歯磨いてた。風邪…じゃないのかな?
あ、歯磨いてたから声出せなかったのか。あるある。というか…
伊織の体を思い出す気恵。
意外と筋肉あるんだなぁ〜…
と勝手に少し赤くなっていた。伊織は玄関へ行き、ドアを開ける。
「んんっん(入って)」
と気恵に言う伊織。
「え?あ、うん。お邪魔します」
靴を脱いで伊織に着いていき、リビングへ行く気恵。
伊織はテレビをつけてリビングをあとにする。気恵はローテーブルの前に座る。
これが汐田ん家(ち)か…。汐田の家の匂い…
とまた勝手に赤くなっていた。伊織は口を濯いでからもう一度顔を洗う。
そしてインナーを着てリビングへ向かう。
「どうしたん?こんな朝早く。トラブル?」
「え?あ、いや。汐田が会社に来てなくて、みんなで風邪でもひいたのかなって…。
でお見舞いがてら様子を見に…」
と気恵が少し照れながら言うと伊織は「は?」と言う顔をする。
「何言ってんの?まだ時間」
とテレビのニュース番組の左上に表示された時間を見た。9時51分。
「…」
そのままベッドに倒れた。
「汐田!?」
「…マジで?」
「なにが?」
「時間」
「うん。もうすぐ10時。やっぱ今日休む?」
「いや、さすがに二日酔いでは休めない」
と言ってベッドから立ち上がる。頭が痛くて頭をおさえる。
「二日酔いだったんだ?大丈夫?」
「ふつーに頭痛いけどな…。あ、足崩して寛いどいて。すぐ準備するから」
と気恵が律儀に正座しているのに気づいて言う。
「え。あ、うん」
優しい
と思いまた少し赤くなる気恵。
「なんか飲む?…とか言ってる場合じゃないか」
「気持ちはありがたいけど言ってる場合じゃないね」
「社長怒ってた?」
「ううん全然。あっけらかんとしてたし、なんならみんな心配してた」
「悪いことしたな」
話しながらYシャツを着てスーツのパンツを履く。
「てか尾内は会社戻んなくていいの?」
「あ、うん。私今日の内見午後からだし、小角決(おかけ)は内見午前から入ってるだろうけど
明観は今日内見ないらしいから、飛び込みのお客さんの対応はできるし。なんなら社長もいるし大丈夫」
「悪いな」
「ううん。全然大丈夫。なんなら私が好きで、来ただけだし。
あ!別に「好き」ってそういう意味ではないからねっ!?」
「ん?なにが?」
自分で言って勝手に赤くなる気恵。
「あ、そうだ。これ。冷蔵庫に入れといていい?」
と立ち上がってレジ袋を伊織に見せる気恵。
「ん?なにそれ」
「いや、風邪かもってことでいろいろ」
スッっと近寄ってレジ袋に人差し指をかけレジ袋の中を覗き見る伊織。
中には伊織が毎朝飲んでいる約1日分の鉄分 飲むヨーグルト2本と
スポーツドリンク、「Try Duet(トライ デュエット)」、風邪薬に飲むゼリー3本、なぜかエナジードリンク
緑色の引っ掻き傷のような「W」のロゴが印象的な「Warning Energy(ワーニング エナジー)」と
CMでの「願(ねがい)を助けるぅ〜」という文言が有名の「Reed Bule(リード ブルー)」が入っていた。
「おぉ。助かる。いただきます」
レジ袋から飲むゼリーを1個取り出す伊織。
「あ、うん。え、朝ご飯食べないの?」
「これだけど」
「ご飯とかパンとか」
「食べる時間ないし、そもそも食べる意欲もない」
「あぁ…二日酔いだもんね。冷蔵庫開けるね?」
「ん。悪い。テキトーに入れといて」
「わかった」
冷蔵庫を開く気恵。中にはビールばかり。軽いおつまみ
そして夜と土日に飲む用の約1日分の鉄分 飲むヨーグルトのみ。
「え…。冷蔵庫…こんだけしか入ってないの?」
「え?なにが?」
「え。いつもご飯とかちゃんと食べてんの?」
と言いながら買ってきたものを冷蔵庫に入れる気恵。
「あぁ…まあぁ…。夜は食べたり食べなかったり?」
「ちゃんと食べないから貧血気味なんでしょー」
「いや?中学くらいからずっと貧血だったよ」
「だったら尚更ご飯食べないと。レバニラ炒めとか…こっ、今度作ってあげようか?」
勇気を出して言った気恵だったが
「いや、レバー無理なんよオレ」
といつも以上に死んだ顔をして遠慮する伊織。
「…なるほどね」
と冷蔵庫の扉を閉めて振り返ったらすぐ近くに伊織の顔があって
「はえっ」
っと思わず声が出る。まるでキスされる距離。
気恵の心臓は唐突な出来事に激しく動くのを一瞬忘れていたが、次第に早くなっていく。
そんな…朝から?しかも汐田、私のこと好きな素振りなんてなかったのに…
と思っていると
「酒臭いかな?」
と言う伊織。
「へ?」
「いや、酒臭かったら仕事ヤバいかなって。どお?この距離で臭う?」
赤くなった顔を隠すようにバッっと離れて
「臭わない臭わない!大丈夫大丈夫!」
と言った。
「そっか。一応コーヒー買ってこ」
バッグを持って玄関に行く。
「尾内ー。行こー」
と言われ気恵は
「あ、うん」
と立ち上がる。伊織が先に靴を履く。
「あ、汐田」
「ん?」
「ネクタイ。曲がってる」
と気恵が伊織のネクタイを直す。伊織は不意打ちにドキッっとする。しかしすぐに二日酔いで頭がズキンと痛み
「あ…ありがとう…」
とまるで感謝していない言い方になってしまう。伊織がドアを開けて、気恵が出るまでドアを開けておく。
「あ、ごめん。ありがと」
と外に出る。伊織が鍵をかけているとき
…あれ?さっきの行為…
ネクタイの位置を変えたあのときを思い出す。
なんか…なんか…夫婦みたいでは!?
と勝手に思って顔が赤くなる。
「よし。行くか…って。顔赤いけど、オレじゃなくて尾内が風邪気味なんじゃないの?大丈夫?」
「だっ!大丈夫大丈夫!あっ、アルコールで赤いだけ」
「え。朝から飲んできたの?」
「あ、違くて」
と誤解を解きながら2人で職場へと歩いていった。
「そうだ。火曜か水曜空いてる?」
伊織が唐突に言う。
「ん?ま、今んとこどっちも予定はないけど」
「どっちがいい?火曜と水曜」
「なにが?」
「昼か夜でも一緒にご飯でもと」
と伊織が言うと隣で歩いていた気恵が足を止める。
伊織はしばらく歩いてから気恵が立ち止まっていたのに気づく。
「ん?尾内?」
気恵はというと
「汐田が私に、火曜か水曜、ご飯食べに、誘ッテクレタ?」
とショート寸前のロボットみたいになっていた。
「大丈夫か?」
「だっ!大丈夫大丈夫!ちょっと頭の中の歯車の回りが悪くなっただけ」
「え、尾内ってロボだったん?」
と話していると職場についた。とっくに朝礼は終わり、店自体営業を開始していた。
「遅れてすいませんでした」
と社長に頭を下げる伊織。
「あぁ、全然大丈夫だよ。右腕無事でよかったよ」
「右腕?」
と社長と伊織が話す中、気恵は明観に
「ねえねえ」
「ん?」
「汐田に火曜か水曜ご、ご飯行こうって、さっ、誘われた」
と報告していた。
「おぉ〜。良かったじゃんか。で?どっち行くの?」
「まだ決めてない」
「火曜にすればー?」
「なんで?」
「なんでって。そりゃー夜いい感じになったとき、次の日休みのほうが…ねぇ?」
「なっ!なに言ってんの!?朝から!」
「えぇ〜?大人で付き合うってなったらそーゆーことでしょーにー」
「時間考えてっての時間を!」
と盛り上がっている女子陣。伊織は社長の元から自分のデスクに戻る。
「伊織先輩。大丈夫でした?」
ルビアが話しかける。
「あぁ…昨日はすまん。迷惑かけた」
「あ、いえ。迷惑では全然。
なんならアルノもアイも伊織先輩にまた来て欲しいって言ってるくらいなので」
「あぁ…それはなんとも…。どうも」
そしてお昼までいつも通り仕事をして、累愛は出先でお昼を食べるということで
ルビアと2人でお昼ご飯へと言った。いつも通り中華のチェーン店ファミレスに入り
注文を終え、ドリンクバーで飲み物を取って席につく。
「昨日あんま覚えてないんだけど、マジで迷惑かけなかった?」
「あ、覚えてないんですね。迷惑は全然。昨日は、ある程度飲んで、伊織先輩酔ったなぁ〜って思った後」
〜
「もう不動産って管理すること多くてさ?めんどくさいのなんのって」
伊織が焦点の合っていない目で言う。
「そうなんだぁ〜?なにがそんなめんどいの?」
アイがほろ酔いでおもしろそうに聞く。
「人。顔覚えたりさ?契約更新とか新しい物件探すときとか、見知った人のほうが
ある程度の好みとかわかってくれてるからってのでリピーターさんとかつくんだけど
顔覚えてるほうが印象いいじゃん。当たり前だけど」
「そうだね」
「だから名前と顔、部屋の好み、立地の好みとか契約時期の把握。
ま、全部できればいいんだけど、さすがに無理。そんなのできるの累愛くらい」
「累愛?同僚?」
「そ。意味わかんないくらい仕事できる。ま、愛想いいからなぁ〜」
「伊織ちゃんは悪魔みたいな顔してるもんねぇ〜」
と笑顔で言うアイに
「さすがにお客様の前では笑顔だっつーの」
「そうだったそうだった。てへぺろ」
「リアルの世界でてへぺろは痛いのだ…」
と呟くアルノに
「アルちゃん?今なんて言ったのかなぁ〜?」
と笑顔で角を生やすアイ。
「な、なんでもないのだ…」
「ふうぅ〜ん?」
角を引っ込める。そしてまたしばらく飲み進め、伊織はアイとソファーへ移動。
アルノはテーブルに突っ伏したタズをツンツンと突いていた。
「アイぃ〜!」
「いおちゃぁ〜ん!」
「アイぃ〜!」
「いおちゃぁ〜ん!」
「美味しい料理をありがとぉ〜!」
「食べてくれてありがとぉ〜!」
「かんぱぁ〜い!」
「かんぱぁ〜い!もう自分ん家(ち)みたいに寛いでくれたまへぇ〜!」
「第二の家だぁ〜。わぁ〜い」
「わぁ〜い!家族が増えたぁ〜」
「伊織先輩、もうそろそろやめないと明日に響きますよ?」
とルビアが言うと
「舐めるな。今まで風邪で休んだことも、遅刻したこともない。
風邪は休日にひいて治してきた。これ如きでオレの神話を途絶えさせてたまるか」
と酔った顔でルビアに言う伊織。
「おぉ〜!いおちゃんすごぉ〜い!もう魔界の一員になってその神話を語り継ごーよー!」
と言うアイ。
「あぁ。いいかも。悪魔が不動産で働くなんて前代未聞でしょ」
「あ、いや、オレがいるんですけど」
というルビアの話は入っておらず
「たしかにぃ〜!それはマジウケるわ!ま、いおちゃん顔は悪魔顔だけどね?」
「言うねぇ〜。かんぱぁ〜い!」
「かんぱぁ〜い!」
シャンパンの入ったシャンパングラスで乾杯し、シャンパンを飲むアイと伊織。
「神話なら天界に来て天使となるほうが神話としては正しいのだ」
アルノがシャンパングラス片手にソファーへ参戦してくる。
「神話…たしかに。神様か…。天使のほうが近い…のか?」
「そうなのだ。だからなるなら天使のほうがおすすめなのだ!」
「はあぁ〜?魔界に誘ったのが先ですけどぉ〜?」
「神話なら天界だって話なのだ」
アイが立ち上がり、角と羽と尻尾を生やす。アルノも立ち上がり、天使の輪と羽を生やす。
今にも天使対悪魔が始まりそうな雰囲気になるが
「はいはい」
とパンパンと手を打ち鳴らすルビアのことをぽわぁ〜っと、とろぉ〜んとした目で見るアイとアルノ。
その後我に返ったような目に戻る2人。
「今私たちを誘惑したろ!?」
「してたのだ!」
「「サイテー!」」
「なのだ」
「サイテーって…。しょーがないでしょ?2人ケンカしそうだったし」
「へぇ〜。ケンカの仲裁もできるんだ」
「ま、自分の魅力で相手を惹きつけさえすれば、ケンカしそうな相手から目を逸せられるんで」
「なるほどなぁ〜。すご。オレも欲しい。能力」
「能力なんてすごいもんじゃないですけどね。というか伊織先輩もあるじゃないですか、能力」
「なに」
「二面性?天使と悪魔の顔を使い分ける感じ?ある意味能力ですよ。
オレたち悪魔と天使のいいとこ取りって感じがしますよ」
と伊織に言うと伊織は寝ていた。
「伊織先輩?伊織先輩?」
とルビアが肩を軽く叩くが
「んん〜…。んん」
と言うだけ。起きる様子がない。ルビアは伊織をお姫様抱っこして
「ちょっと伊織先輩家まで送ってくる」
とベランダに行く。
「泊まってもらえばいいのに」
「うん。オレもそれは考えたんだけど、明日も仕事だし、スーツとか持ってきてないし」
「なるほどねぇ〜。いってら。気ぃつけてぇ〜」
「ん」
ルビアは背中から羽を生やして空を飛んでいった。
伊織の家のベランダに降り立ち、ベランダのガラス製のスライドドアを開ける。
「やっぱ開いてた。伊織先輩、前もベランダのドアの鍵してなかったからな。お邪魔しまーす」
と言って家の中に入る。そして伊織をベッドに寝かせて家へと歩いて帰るのだった。
〜
「ざっとこんな感じでした」
「…。すまん。普段シャンパンなんて飲まないから加減がわからなかった」
「全然大丈夫です!いつもと違う伊織先輩見れたのでむしろありがとうございます」
「忘れてくれ…」
「忘れません!」
「…ん?」
よく考えたら引っかかるポイントがあった。
「飛んだって言ってた?」
「ん?はい」
「え。オレ飛んだの?」
「はい。まあ、正確には自分が伊織先輩を抱えて飛んだって感じですが」
「…え。飛んだの?」
「飛びました」
「なんで?」
「え。おんぶして歩くの面倒だったので」
「あ、そっか…。…。え!?飛んだん!?」
大きな声で驚く伊織。店中の注目が集まる。しかし注目が集まることよりも
大きな声で頭が痛くなり頭を抱える。ルビアが伊織の代わりに周囲にペコペコ頭を下げる。
イ、イ、イ…イケメンだぁ〜!
男女、お客さん店員さん関係なく、お店中の人がルビアを見てそう思った。
「伊織先輩、大丈夫ですか」
「二日酔いで大声出すって自傷行為の1つなんだな…覚えておこう…」
「そうなんですね…」
「ごめん。驚きすぎてつい」
「いえいえ。全然全然」
「でもそうか…飛んだか…マジか…。…起きてればよかった」
「今度起きてるときにやってあげますよ」
「マジで!?」
という話をしていると注文したメニューが届いてお昼ご飯を食べた。
そして仕事へ戻り、定時まで仕事をし、それぞれ家へと帰った。
「火曜…水曜…」
気恵はソファーで体育座りをしながらスマホを持って考える。
なんでってそりゃー夜いい感じになったとき、次の日休みのほうが…ねぇ?
という明観の言葉が蘇り赤くなる気恵。
「いや、そういう意味じゃないけど、決して違うけど、火曜にしてもらおう」
ということで伊織にメッセージを送った。ビールを飲もうとして冷蔵庫を開けた伊織は
うん。今日はやめとこ
と思ったが、なにかは飲みたかったので
気恵が買ってきてくれた「Reed Bule(リード ブルー)」を手に取って冷蔵庫を閉めた。
「Reed Buleー願(ねがい)を助けるぅ〜」
とCMの文言を口ずさみながら、缶のプルタブを開ける。
リビングに戻るとローテーブルの上に置いたスマホの画面がつく。
Reed Buleを一口飲んでから座り、ローテーブルに缶を置いてスマホに持ち替える。
気恵「火曜でどうかな?」
というメッセージが来ていた。
「あぁ。火曜ね。オッケーっと」
気恵に返信する。
伊織「オッケー。昼?夜?」
という返事が届いて、座ったままあたふたする気恵。
「昼ご飯か夜ご飯かって話だよね?昼のほうがカジュアルな感じでいいかな?」
ということで
気恵「じゃあお昼」
というメッセージを送った。
伊織「昼ね。了解」
と気恵に返信してスケジュールアプリを開いて、月曜の夜に通知されるように
明日 尾内
とだけ書いて保存する。
「火曜日…。楽しみだなぁ〜」
とスマホを胸に抱いてソファーに寝転がりながら天井に呟く気恵なのであった。