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一般の職業がお休みである土日も仕事がある不動産業。そんな土日も仕事をして過ぎていき、月曜も過ぎ
「オーライ おおらか不動産」における土日である火曜と水曜に突入した。
しかし火曜日、仕事以上に緊張している人が1人。その名も尾内(オウチ)気恵(キエ)。
そう。火曜日に同僚の汐田伊織と食事の約束をしていたのだ。
遅めの朝食をいつもより多く食べ、お昼前にメイクを始め、前日の夜に決めた服に着替える。
「…地味?」
鏡の前で着替えた自分を今一度見る気恵。
「時間は〜っ」
と左腕の手首の内側を見る気恵。
「あ、そうだ。つけてないんだった」
腕時計はいつも仕事でつけているため、あえてつけていなかった。部屋の時計で時間を確認する。
「まだ時間は平気だけど、一応早めに出ておこ」
家を出る直前に手首に香水をつけ、両手首を擦り合わせる。
そして首にも吹きかけ、アウターの袖にも吹きかけた。
部屋の中を歩いてみて自分の通った部分の匂いを嗅いでみる。
「…うん。よし」
一瞬また手首を見そうになるが、すぐに部屋の時計に視線を向ける。
先程時計を確認してから10分も経過していないが
「行こ」
と出ることを決断した。ガムを噛んで。電車に乗り、待ち合わせである恵位寿(えいす)駅へ。
電車の中でガムを包み紙に吐き出し、駅で降りる。
恵位寿ってもっとオシャレなとこだと思ってたけど、案外普通なんだなぁ〜…
と駅前の景色を見て思う気恵。
どこで待とう
と思って駅を彷徨っているとベンチに座ってスマホをいじっている伊織が目に入った。
え!?早くない!?
と思い、伊織の座るベンチに近づく。
「お、お待たせ」
伊織が顔を上げる。
「ん」
伊織が立ち上がる。
「早くない?」
「恵位寿までもっと時間かかると思ってたら、案外早く着いてしまった」
「あぁ〜、あるある。でもどうして恵位寿だったの?」
「ん?いや、特に理由はないけど」
「よく来るとか」
「まさか。こんなオシャレで物価が東京よりも高いとこ」
「恵位寿も東京だけどね」
「東京の中でも高いイメージでしょ」
「ま、それはそうだわ」
「ま、単純にオシャレかなって」
「なるほどね」
「どっか行きたいとこある?」
「行きたいとこって言われても、私も恵位寿なんて来ないし」
と気恵が言うと伊織がベンチに座る。
「座れば?」
と伊織が言うので気恵も隣に座る。伊織がスマホの画面をつけて
「イタリアン?中華?…中華なんて恵位寿にあんのか知らないけど」
と気恵に聞く。
「恵位寿にだって中華あるでしょ」
「中華?」
「パスタがいいかな」
「イタリアンね」
「あ、そんなお堅いとこじゃなくていいからね」
「カジュアルな感じね」
「うん」
検索した伊織。
「はいはい…。はあ…」
不動産業なので地図を見て目的地周辺を把握するのもある程度得意。
「じゃ」
と言いながら立ち上がり
「行くか」
と言うので気恵も立ち上がり
「うん」
伊織について歩いていった。お昼時だったため空きが出る時間を聞いて
その時間まで恵位寿の街を歩いてみることにした。
「うわぁ〜…。ここらへん月いくらすんだろう」
「ワンルームでも15万くらいするって聞いたことあるよ」
「マジで?」
「やっぱ恵位寿はブランドエリアだからね」
「ブランドエリアねぇ〜…」
と皮肉混じりに街を見回す伊織。
「見栄見栄。安く…はないけど恵位寿とか中目(中目雲(なかめくも)の略称)とか
白風(しろかぜ)とかよりは全然安くて、アクセス良い、しかも地価上がってるとこたくさんあるだろ」
「それは汐田が不動産業だからでしょ?」
「関係あるか?」
「あるでしょ。交通の便が良くて、家賃安くて地価上がってるとこなんて不動産業の人以外知らないって」
「だって恵位寿に限った話じゃないでしょ。
山の背(やまのせ)線沿線は高いってのは一般の人も知ってるでしょ。
なのにわざわざ沿線に住むってことは、ブランドエリアに住んでるっていう見栄のみでしょ」
「…うん、やめようか、休日にまで不動産の話するの」
「…だな」
なんて話をしながら見慣れない街を歩き、時間きっちりにお店に戻った。
しかしお店側も時間きっちりに案内できるわけではなかったので
結果店内で少しだけ待って席へと案内してもらった。
高そぉ〜
と思う気恵を他所にメニューを気恵の前に置く伊織。
「あ、ありがとう」
と言う気恵の前で、伊織はすでにメニューを見ていた。
うわぁ〜…。さすが恵位寿。たっか
と思っていた。気恵もメニュー見る。
うわっ、高っ!
同じことを思った気恵。
めちゃくちゃ美味しそうな匂いするけど大丈夫
遅めの朝ご飯を、いつもより多く食べていたお陰でそこまでお腹は空くことはなかった。
「どうする?ピザもあるけど」
と言う気恵。
「あぁ。どうするって?」
「ピザとパスタ1品ずつ頼んで、取り皿で取り分けて食べる?」
「あぁ〜…。そういう食べ方もあるんだ」
「そーゆー食べ方しない?」
「別にオレはいいけど」
「あぁ、違くて。そーゆー食べ方したことないかなって」
「あぁそっちね。…無くはないんじゃない?中学とか高校とかはファミレスでやってたんじゃない?」
「あぁ〜。それは私もやってたかも。どうする?」
「尾内にまかせるよ」
「ほお。まかされたのか」
まかされた気恵は悩んで店員さんを呼んだ。
「エビとサーモンのクリームパスタとマルゲリータと取り皿4枚お願いします」
「エビとサーモンのクリームパスタ、マルゲリータ、取り皿4枚ですね」
と店員さんが繰り返した後
「あ、あとビール2つお願いします」
と伊織がつけ足した。
「はい、ビール2つですね。以上でよろしいでしょうか」
「はい。お願いします」
「少々お待ちください」
店員さんが一礼して去っていった。
「ビール?」
「ビール。別にいいじゃん。休みなんだし」
「そうだけど。昼だよ?」
「オレ割と昼からビール飲むよ」
「そうなの?」
「おん」
もしかしたらこの流れで、汐田のプライベート聞けるかも
ということでいろいろ聞いてみることにした気恵。
「やっ、休みの日ってなにしてんの?」
「なに?…ゲームとか」
「ゲーム。ゲームね」
脳裏にメモする気恵。
「ちっ、ちなみになんのゲーム?」
「トップ オブ レジェンズ」
「あぁ〜。明観がやってるやつ」
「あぁ、景馬はな。比較にならん。社会人とは思えないほどランク高いしうまい」
「明観はゲーマーだからねぇ〜」
「仕事よりゲーム取るやつだからな」
「職場でもゲームしてるしねぇ〜」
「あいつのパソコンだけスペック違うし」
「わざわざ取り替えてね」
「しかも社長に頼み込んでだろ」
「そうそう」
「社長の金で」
「そうそう」
と笑う気恵。しかしハッっとする。
「また仕事の話してる」
「あぁ〜…。いや、仕事の話ではないんじゃね?」
と話していると
「お待たせいたしました」
とまずはビールが届いた。
「じゃ、乾杯」
「うん、乾杯」
とグラスをあて合った。それぞれビールを流し込む。
「…っ、うまっ」
「うん、美味しい」
グラスを置く。
「昼ビールはうまいのよ。みんなが働いているときに飲むビールは」
「なかなかの思考してるよね」
「尾内こそ休みの日なにしてんの」
「私?」
「しかいないわな」
「私は友達と遊んだり、映画見たりかな」
「へぇ〜。でも休日合わないだろ」
「あぁ〜。いや、友達も特殊な仕事してるから、合ったり合わなかったり」
「あ、そうなん」
「汐田こそ友達とかは?会ったりしてる?」
「いや全然。オレの友達は特殊な仕事してるやつ〜…たぶんいないし」
「たぶん?」
「いや、クラスメイトとか他クラスのやつとか、全員知ってるわけじゃないから」
「あぁ〜、たしかにね。汐田って高校どこだったの?」
「猫」
「猫って猫井戸高校?」
「そ」
「そうなんだ?」
伊織の新情報を脳裏にメモする気恵。
「尾内は?」
「私は紅女(べにじょ)」
「べにじょ?どこ」
「え、知らない?紅ノ花水木女学院」
「あぁ〜紅花(あかはな)だろ?知ってる知ってる」
「紅花って呼んでんの?」
「逆に紅女って言ってんの?」
なんていう呼び方の相違があったところで注文していたパスタとピザ、取り皿が届いたので
「ま、食べるか」
「うん」
食べることにした。気恵がフォークとスプーンでパスタを取って取り皿に盛る。
「はい」
そして伊織に渡す。
「お、おぉ。さんきゅ」
気恵も自分の取り皿にパスタを盛る。
「いただきます」
「いただきます」
食べた。
「あぁ〜…うん。うまい…」
「うん!美味しいね!」
美味しかったが微妙な反応な伊織。ピザも食べてみる2人。
「…あぁ。まあ、うまい」
「うん!美味しい美味しい」
これまた微妙な反応をしてビールを飲む伊織。
「うん。ビールは最高にうまい。ま、ビールはどこでもうまいか」
と会話をしながら食べ進める2人。
「汐田って高校の頃なにか部活やってた?」
「部活?剣道部だったけど」
「剣道!?」
「んん。そんな驚くことか」
意外すぎる…。汐田が剣道か…
と剣道をしている姿を剣道のことをあまり知らない気恵が想像する。
〜
伊織は防具一式をつけて相手と向かい合う。竹刀を相手に向ける。
相手も伊織に竹刀を向ける。面の隙間から鋭い眼光がキラリと光る。
静かなる睨み合いが続く。相手が先制に攻撃に打って出た。斜め右上から左下に振り下ろす。
伊織は左側にサッっと避ける。斜めから面を狙って攻撃する伊織。
相手はしゃがみ、伊織の懐に入り、右肩でタックルをする。伊織は押されて体勢を崩す。
「ふっ。隙あり!」
相手が伊織の面に向かって竹刀を振り下ろした。
面の隙間からキランと伊織の目が光った。伊織は体勢を立て直し、しゃがんで相手の振り下ろした竹刀を
右手で持ち手、左手で剣先を握った状態で横に向けた竹刀でガードする。
そして竹刀を上に押し上げるように立ち上がる。相手がよろける。
さらに追い討ちとばかりによろけた相手の竹刀を弾き飛ばす。
「はっ」
相手は弾け飛ばされた竹刀を見る。竹刀が遠くの床に落ちる。
広いに行こうとした視線の先に竹刀が入ってくる。伊織の竹刀だ。
視線を伊織のほうに向ける相手。右手で竹刀を伸ばしている伊織。竹刀をしっかりと持ち直す。
「今楽にしてやる」
そう告げて伊織は相手の面に竹刀を振り下ろした。
〜
とんでもない想像をした気恵。しかし
カッコいい…
カッコよかったらしい。
「部長やってたとか?」
「ん?部長ではなかった。ま、キャプテンではあった」
「マジ?」
「マジ」
「なんで?やっぱり強かったの?」
やっぱりってなんだ?
と思うがそれは口にせず
「強くはなかったよ」
と答える。
「そんなこと言ってぇ〜実は強かったんじゃないのぉ〜」
「いや?強くはない。ただ」
「ただ?」
「警察で剣道習ってたから、それでキャプテンにされたんだと思う」
「…ん?警察で剣道?」
「そ」
「どゆこと?」
と気恵に聞かれて答えようとした伊織だが、店員さんが近くを通ったので
「あ、すいません」
と声をかけ、店員さんを呼び止め
「この、カルパッチョとトマトとオニオンのサラダを追加でお願いします」
「はい。カルパッチョとトマトとオニオンのサラダですね。かしこまりました」
と追加注文をした。
「あ、で、どーゆーこと?」
仕切り直す気恵。
「いや、だから警察で剣道習ってたんだって。ま、習わされてた、だけどね」
「警察で剣道習えるの?」
「あぁ、そこね。警察には柔道場、剣道場があって、剣道も柔道も習える…と思う」
「へぇ〜。そうなんだ。知らなかった」
「ま、冷静に考えたら知らない人ほうが多いかもな」
「高校で?」
「いや?小学生のときから習ってた」
「え!?めちゃ強じゃん」
「だから強くなかったって。現に1個下にボロ負けだったし」
「そ、そうなんだ。でも相手が強かっただけじゃ」
と気恵が言うと伊織はビールが残り少ないグラスを持ちながら斜め上を向いて考える。
「…たしかに。そいつ全国で個人2位だしな」
「全国で2位!?そりゃー強いわ」
「天才だったわ。おまけに顔良し、性格良し、しかも金持ち」
「無敵かよ」
「それな」
と話しているとサラダが届く。気恵が取り分ける。
「汐田普段野菜とか食べないでしょ。ほら」
と伊織に差し出す気恵。
「尾内はオレの母親か」
と言いながら受け取る伊織に
ま、まあ…汐田の母親ではないけど、汐田に「お母さん」「ママ」とは呼ばれたいかも…
と一段階先の妄想をした気恵。
「…あぁ。まあ。まあうまいわ」
気恵も自分の分を取って食べる。
「んん。美味しい」
一通り食べ終え
「じゃ、出るか」
と出ようという話になった。
「あ、じゃあ私ちょっと」
という気恵に、伊織は察して頷く。気恵がそそくさと立ち上がってトイレへ向かう。
伊織は店員さんを呼ぶ。気恵がトイレから帰ってくると
「んじゃ、行くか」
と立ち上がり、出入り口に向かうので
「お会計お会計」
と伊織の肩を叩くが
「このまま出たら捕まるかな」
と冗談を言う顔じゃない顔で冗談を言う伊織に
「捕まりはしないかもだけど、呼び止められはするだろうね」
という気恵。
「ま、いっか。出よ」
「まいっかじゃない」
と言うが店員さんたちも
「ありがとうございました」
と頭を下げている。
「ありがとうございました」
と頭を下げて言う伊織。
どーゆー状況?
と思っていると伊織が出入り口から外に出た。
「あっ、え。ちょ」
とキョロキョロしているとレジの方が伊織のほうを手で指し示しめした。
「あ」
頷く店員さん。気恵は察して
「あ、ありがとうございました」
と言って伊織の後をついて外に出た、
「どっか行きたいとことかある?」
と言う伊織に
「お会計済ましてくれてんだね。ありがと」
と言う気恵。
「いや。ま、最初から奢るつもりだったし」
「え、いや、悪いよ。半分出すって」
「いや、お返しだから」
「お返し?」
「こないだ風邪って心配していろいろ買ってきてくれたじゃん?」
「あぁ〜。ま、勘違いだったけど」
「それのお返し」
「え、別にいいのに。勘違いで買っていっちゃっただけだし」
「ま、オレの気持ちだと思って受け取っといてくれ」
と言いながら伸びをする伊織。
オレの気持ちだと思って受け取っといてくれ?
伊織のそのセリフが頭の中でこだまする気恵。
ほ、ほ、ほ、惚れてまうってぇ〜!!いや、もう惚れてるけど
と思い、顔が熱くなる気恵。
「ちょ、タバコ吸っていい?」
と振り返ると気恵の顔が赤くなっていたので
「大丈夫か?酔った?」
と心配になった。しかし
でもビール1杯…。尾内って酒そんな弱くないよな…。気分悪くなったとか?
と思い
「帰る?」
と提案すると
「いや!もっと遊ぶ!」
と鬼気迫ったような赤い顔で食い気味に言う気恵。
「お、おぉ。気分悪かったら言えよ?」
「う、うん」
ということでデート?は続行となった。