彼に名はない
しいて言うならフブツと呼ばれていた程度か。
彼には市音という親友が居た。
市音は学校でも教室の隅で本を読むような人物であった。
彼は話した。
市音は彼を友として見た。
市音は彼を優要と呼んだ。
ある日、市音が人を殺した。
川に落とされそうになり突き返したら車に引かれた。
そこにいた子供たちは市音をまくし立て逃げた。
優要は素早く市音の手をつかむと
「逃げよう」
そう云い放った。
あれからどれくらい経過しただろう。
逃げて逃げて、このままならどこへだって行ける、何だってできる。
もう手足の感覚が無いが、そう思った矢先。
市音は、自殺した。
彼は眼を見開いた。
驚いた。
感情は混沌の中。
何も分からなかった。
視界が暗くなった。
気付けば牢屋に入っていた。
その中では「人形」と呼ばれた。
数日後、彼は逃げだした。
そして、呑まず食わずして1週間。
気付けば見えているのは謎の施設。
彼に付いた名前は「喪雨異威」
「博士」がつけた「もういい」の当て字だそうだ。
彼の人間としての命は終わりを迎えた。
彼はもう終焉を司る神のようなものだ。
終らせろ、市音がよみがえるまで。
それから5年の月日がたった。