テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
462
知らない病室に入れられた。今までなら意識しなかった、特に何もない3階の奥の部屋。よりにもよって2人部屋で、ため息が零れた。
『名前なんて言うの?』
同室のヤツに話しかけられて、答えた。
『リク。草かんむりに便利の利と、王へんに久しいで莉玖』
『ふーん。僕は、涼。涼しいって字で涼』
『何年?』
『小6だよ。生まれつきの脳の病気』
脳の病気、か…
『俺も。心臓が悪いんだって』
それ以外はあまり話すこともなくて、沈黙が続いた。
特に何も話さないまま1週間が過ぎた。
ベッドに寝転んでゲームをしていた俺は、心臓の違和感にゲームを中止した。
なんだろう。何か、変だ。
急に、息ができなくなる。
まさか発作───
ナースコールに必死に手を伸ばす。
ボタンを押そうとして下ろした手がすいっと空振ったのを最後に、何も見えなくなった。
「はあ⋯」
今日も屋上から見る空は綺麗だ。
もう少しであの美しさの一部になれる。
そろそろ戻ろう、と腰を浮かす。
部屋のドアを開けて、ベッドに座った。
莉玖は寝てるのかな⋯
莉玖のベッドを覗き込んで、違和感を覚えた。
何か顔色悪い。
一応呼んどいたほうがいいかな───
ナースコールに手を伸ばす。
押す直前で、手が止まる。
余計なお世話、かな。
莉玖、僕のことあんまり好きそうじゃなかったし。
なんなら嫌そうだったし。
普通に寝てるだけかもしれないよな。
だったら、僕なら迷惑に感じるかも。
───でも、これで本当に緊急事態だったら?
莉玖は僕のこと嫌いかもしれないけど、僕は莉玖のことちょっと気になる。
仲良くなってみたい。
ナースコールの音が、静かな病室に響いた。
『どうしましたか?』
『莉玖⋯くん、これ寝てるだけですか?ちょっと顔色悪い気がして⋯』
『⋯呼吸困難ですね。近くに滝上さんがいるはずです、先生を呼ぶよう伝えてください』
その後莉玖はなんとか一命をとりとめて、僕は先生に呼ばれた。
『伝えてくれてありがとう。もう少ししたら莉玖くんも起きると思うし、話しかけてあげてね』
『⋯でも、莉玖⋯僕のこと、嫌そうにしてて』
『涼くんは莉玖くんのこと、どう思ってる?』
『⋯色々、莉玖のこと知りたい。もっと、仲良くなりたいです』
『いいこと教えてあげよう。“知れたらいいな”は友達の第一歩だけど、“知りたい”は親友の第一歩だよ』
知りたいは親友の第一歩⋯
できるかな。僕にも。
その後の先生の言葉を反芻する。
『莉玖くんは入院するとき、友達と離れてずっと泣いてたんだ。それ以来同年代の子とも仲良くしようとしなくなって。きっと、別れるときが怖いんだと思う。涼くんとは、仲良くなってほしいな』
病室に戻ると、莉玖がベッドの上で体を起こしていた。
『⋯あの』
莉玖の声に首を傾げる。
『⋯さっき、助けてくれたって聞いて⋯ありがとう』
『助かってよかった。改めて、よろしくね』
うん、と莉玖が微笑む。
『莉玖は、ゲームとかする?』
『ゲーム好き。涼も?』
『うん。ここにあるけど、やる?』
涼は、人見知りだけどフレンドリーで。
『莉玖、体調どう?』
優しくて。
『脳の移植って難しいんだよ』
病気の話をすると少し嫌そうにしていたけど。
すっごい、いいヤツだった。
最期まで。
『涼聞いてよ!』
『どしたの?』
いつもより一段と寒さが増した初雪の日。ベッドで本を読んでいた涼は、俺の声に顔を上げた。
『俺来週手術するんだって、』
『ふーん。どんな手術?』
『心臓移植らしいんだよね。ドナー見つかったらしくてさ』
『よかったじゃん。何でそんなテンション低いの』
『だって、心臓移植だよ?元の持ち主の人は、』
『移植なんてそんなもんだよ。あーあ、羨ましい。僕も早く手術して退院したいな』
手術の前の日には2人でネイルサロンまで足を運んで、いつものベッドの上で写真を撮った。
『莉玖、頑張ってね』
『うん!絶対帰ってくるから!』
涼も早く移植してくれる人見つかるといいね、なんて。
軽い気持ちで言葉を投げかけて。
失敗したかな、怒らせたかな、なんて心配したけど、いつも『余計なお世話だよ』なんて帰ってくるからきっと大丈夫。
だからこそ、涼の次の言葉は衝撃的だった。
『ふざけないで』
『っ、ごめん!』
『脳の移植って難しいんだよ。そんな簡単にドナーは見つからないし、見つかったとしても手術で死ぬこともあるの』
『ごめん、ひどいこと言った』
『莉玖のそういうとこ嫌い。もういいよ。早く行っておいで』
ひどい。何もそんなに言わなくてもいいだろ。俺は涼のことが心配で、助かってほしくて、言っただけだったのに。
下唇を噛んで、病室を後にした。
莉玖とほぼ入れ替わりのような形で、1人の看護師さんが入ってきた。肩上で髪を切り揃えた、切れ長の目の看護師さん。
『よかったんですか?あんなこと言って』
どこか気まずそうに口にした看護師さん。
冷たそうな見た目なのに意外と繊細みたいだ。
聞いてたんですか、と乾いた笑みを零した。
『莉玖くん、泣いてましたよ』
『いいんです。ここで正直に話して手術やめるとか言われたら僕も困る。未練を、作ってほしくないんです。僕が理不尽に怒ったら、お互い諦めきれるかなって。莉玖が死んだらきっとしのさんも辛い。でも、僕には誰もいません』
それに、と呟いたときには、僕も無意識に泣いていた。
『莉玖はまだ助かる見込みがあったし。こんな人生で親友の命を救えるなら願ったり叶ったりです』
『⋯じゃあ、行きましょうか』
『はい。⋯莉玖によろしくお願いします』
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!