テラーノベル
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朝、目が覚めた瞬間、志村レンはその異変に気づいた。
「……どこだ、ここ……?」
視界に広がるのは、石造りの天井、白い大理石のような床、そして周囲には同じ制服を着たクラスメイトたちの姿。
まるでRPGの神殿のような空間。中央には巨大な石像と、その下に浮かぶ“光の球体”。
戸惑いながらも、レンは周囲の声を聞く。
「な、なにこれ……」「異世界転生……?」「お、おれ、剣が使えるようになった!」
混乱する中、光の球体がふわりと宙に浮かび、響き渡るような声が耳に届いた。
『ようこそ、選ばれし勇者たちよ。汝らはこの世界を救う使命を帯びて転生した存在である。』
あまりにもテンプレすぎるその言葉に、誰かが興奮した声で叫んだ。
「マジでチート展開じゃん! クラスごと転生とか!」
「俺は戦士! ステータスもヤバい!」
「おい見て、ユイは“聖女”になってるぞ!」
次々に表示される“転生スキル”や“クラス”。
だが――
「……え?」
レンの前にだけ、何も表示されない。
周囲の生徒たちはざわつき始める。
「おい、レンだけ……何も出てなくね?」
「まさか、“ハズレ”……?」
焦るレンのもとに、浮遊する光の球体が近づいてくる。
『汝の魂は不完全である。この世界において受け入れ可能な器ではない。』
「……は?」
『よって、補助的存在“スライム”として転生される。』
「スライム……? おい待って、それって雑魚モンスターじゃ――」
言葉を最後まで言う間もなく、レンの視界が真っ白になった。
そして――。
次に目を覚ましたとき、レンは森の中にいた。
風が冷たい。地面は湿っていて、妙に視点が低い。
「っ……!? 喋れない……!」
声を出そうとしても、喉が動かない。いや、そもそも喉が“無い”。
体は柔らかく、丸く、跳ねるようにしか移動できない。
水たまりに映る姿は――
小さな、青白いスライムだった。
(……マジかよ……)
全身から絶望が染み出す。
異世界に転生したはずが、スライムという最弱のモンスター。
いや、それどころか“喋ることすらできない”という制限付き。
唯一表示されたスキルは、《捕食》と《粘体再生》。
(ふざけんな……こんなん、ゲームオーバーじゃねぇか……)
そのとき、近くの茂みがガサリと揺れた。
野犬のような獣が、涎を垂らして現れる。
――生き延びるには、喰うしかない。
レンは、スライムの体を震わせながら、突進した。
コメント
5件
今作も面白かったです!頑張ってください!!!