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━━━太陽は今日も眩しく、青年を見ている。温かい太陽に照らされる青年、セインは口に加えた煙草に火をつけて白い息を吐く。
セイン「ああだりぃ。また土を掘んのかよ。そんなことより大学生っぽいことしてぇよ〜。」
26歳の彼の職業は学生と墓守。
墓守は親の仕事を受け継いだもので、彼はそれを気に入っていなかった。
栗色の髪をした女性がセインに近づき、彼の隣に座った。
エレノア「ま〜た弱音吐いちゃって!男のくせにみっともないよ〜。」
ボサボサでショートカットな髪だがどこか優雅で美しい女性。
セインは煙草の火を消してエレノアに文句を言うように喋る。
セイン「明日はオレ達の結婚記念日だろ?普通デートしたりプレゼントしたりとかが普通じゃん。その日をあの嫌いな親のせいで潰されるってんのが嫌なんだって!」
鼻を啜りながら怒ったような顔で話すセインを見て、エレノアは照れたように笑う。
エレノア「良いじゃん!墓地で一緒にいるのも楽しいんじゃないの〜?」
からかうようにエレノアはセインの長い前髪を耳にかける。
何か言いたげなセインの顔を見て、エレノアは口を挟んだ。
エレノア「“ごめんね”はもう聞き飽きたな〜。」
セインはため息をついて煙草をゴミ箱に投げ入れた。
そして明るく温かい太陽を手に翳して見る。
セイン「太陽神様に願ったら良いことあるかな〜。」
エレノア「お化けが出たらくっつくね。」
セイン「最初っからくっついとけって〜。」
いつの間にか夕方になっており、太陽は目を閉じるようにオレンジ色に輝いていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
9月1日8:00AM.
空は曇っており真っ白だった。
目を覚ましたセインはアラームをとめ、身支度を整え寝室を出る。
今日は珍しく妹のレリィが朝早くからセインの家にいて朝ご飯をつくっていた。
レリィ「おはよセイン!」
セイン「うんおはよ」
欠伸をしながら挨拶をするセインを見てレリィはニコッとする。
…何故か油臭い。
セインは気の所為だと思って出された朝ご飯を食べる。
セイン「やっぱ母親の作るご飯よりお前の作るご飯の方が美味しいわ」
レリィ「ママのも美味しかったでしょって!」
ご飯を食べた後、上着を着てリュックサックを背負って外に出る準備をする。
レリィはセインが扉を開ける前に急いでセインの元に行く。
レリィ「もう!いつも無言で外に出るんだから!」
セイン「どーせあれでしょ?『カルティエさんに宜しくって伝えておいて!』でしょ?」
呆れたようにセインはこたえる。
レリィは目を輝かせて長いまつ毛で瞬きをする。
レリィ「そう!カルティエさんってハンサムじゃない???クールで素敵で優しくて!イケメンじゃん!!」
一人で妄想しては照れてフライパンをブンブン振り回す。
セインは腕時計を見て驚いた顔をした。
8:40AM.
セイン「やっべ走っていかなきゃだ!!カルティエには謝らなきゃな!またなレリィ!」
バタンッと思いっきりドアを閉めて走って大学へ向かう。
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今にも雨が降りそうな暗い雲がセイン達の上を歩く。
いつもよりスピードを上げて走る。
何故なら親友のカルティエと待ち合わせしたし一限目は9:00から始まるからだ。
大学の目の前にある小さなカフェに向かって大急ぎで走る。
その先には見覚えのある男。
スマホをいじってポケットに手を入れている。
小刻みに貧乏ゆすりをしているのでかなり怒っているようだ。
遠くから大声でセインはカルティエに話しかける。
セイン「ごめんなカル!!!今日オレん家に妹来てたんだ!!」
カルティエ「急ぐぞ阿呆。」
スマホをリュクサックにしまってカルティエはセインと共に走る。
8:56AM.
ギリギリ教室に入ることができたセイン。
窓を見ると、雨がいつの間にか降っていて、運が良かったセインは少しホッとした。
カルティエとセインは学部が違う為途中で別れた。
セインは神学部、カルティエは医学部である。
椅子に座って準備をしながら噂話をする女性の声を耳にする。
噂話する女性の声「ねえ知ってる?ここの近くの女子高生が亡くなったんだってよ。それに、自殺だって。」
話を聞く女性の声「あーそういえば朝ニュースでやってたわ。あの女子校って確か虐めが多いんじゃなかったっけ?」
噂話する女性の声「絶対そうだよね。うち偏差値低いとこ行って良かったわ〜。」
話を聞く女性の声「そういう問題じゃないでしょ笑」
雨の音はもっと響き、その後の会話は聞こえなくなった。
セインは朝のニュースを見るのを忘れて少し後悔をした。
セインの心の中(気の毒だなあ…。)
あまり考える時間はなく、少し経つと授業が始まった。
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静かに授業を聞いている時、突然エレノアから電話がかかってきて、セインはビクッとなった。
驚きすぎてシャーペンを落としてしまった。
教授「セイン君。これからはマナーモードするんだよ。」
セイン「すみません、少し電話に出てきます。」
そう言うと急いで席を立ち、教室の外へ出る。
嫌な気配が彼の背筋を凍らせる。
セイン「可笑しい…。エレノアも今美術学部の授業を受けているはずなのに…。」
恐る恐る彼は電話に出る。
それは聞き覚えもない淡々と話す低い男性の声。
男性の声「奥様のスマートフォンに残されていた━━━━ました。大変申し━━━ですが、奥様が交通事故━━━━お亡くなり━━━━━ました。」
ノイズが入っており、全部は聞き取ることは出来なかったが、どういう状況かは判断してセインは手が震えた。
自然と目から涙が出る。
頭がからっぽになり、返事することができなかった。
聞こえるのは遠くから聞こえる教授の声と話を進めるノイズの入った警察の声と、自分の息切れだった。
その音をかき消すように雷が鳴り響く。
そして頭の中ではいつも見ることができるはずのエレノアの笑顔を思い浮かべる。
セイン「今日はお前が楽しみにしていた結婚記念日だったていうのに…」
掠れた声で、目からは止まらない涙が溢れていた。
セイン「エレノア…」
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葬儀場で彼女の親族らは静かに涙を流していた。
しかし、音は雨だけで沈黙が続いていた。
それはとても冷たく寂しい時間だった。
目を閉じるエレノアを見てセインはまた涙を流した。
肌白いが穏やかそうに眠っており、その顔は昨日も見た顔。
セイン「ここで会うはずじゃなかったのに…」
タオルで涙を拭きながらエレノアの顔をジッと見る。
彼の頭は絶望と悲しみと、温かい思い出でいっぱいになる。
過呼吸になっている時、隣の少女がセインの服を小さく引っ張った。
その子はエレノアの年の離れた8歳の妹のデイジーだ。
まだ「死」を知らないで、大好きな姉の夫にくっつく。
その姿を見てセインはまた心が揺さぶられる。
デイジー「セインお兄さん。お姉ちゃんどうしたの?いつもは鼾をかいてるのに今日はとても静かだよ。」
セインはどう返すか躊躇ったが、優しくデイジーの頭を撫でた。
セイン「少し疲れちゃったみたいなんだ。大丈夫、いつかは目を覚ますから………。」
デイジーは小さく頷いて小さな手でセインの大きな手を繋ぐ。
デイジーの手は温もりがありセインを少し安心させた。
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いつの間にか夜になっていた。
星は闇に隠されたようにひとつもなかった。
外を出ると傘を持ったカルティエが待っていた。
カルティエは無言でデイジーの顔を見る。
デイジーは少し怖がってセインの後ろに隠れた。
そしてゆっくりと口を開く。
カルティエ「…突然すぎて俺も驚いた。」
セイン「…まだ信じられないんだ。何処かで生きているような気がして…明日も会えるような気がして………。」
また泣きそうになったが、鼻を啜って自分を落ち着かせた。
デイジーは無言でセインの手を繋いだままセインとカルティエについていく。
今日は太陽が見ていなかった。
肌寒く、体を温める手段はデイジーの手の温もりだけ。
真っ暗な空に真っ白な頭の中。
目がチカチカし始め、セインは前を向けなくなってしまった。
そしていつの間にかデイジーの手の温もりが、するりと消えてた。
…その時、エレノアのような光が走っていった。
セインは思わず走り、追いかける。
カルティエの声とデイジーの声も聞こえない。
その光は道路の真ん中へと走った。
セインも思わず道路へと飛び出してしまった。
━━━ギギーッ!
クラクションと共に車のライトに照らされるような感じがした。
その時、“世界が反転した”。
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目を覚ますとそこは見知らぬ世界。
周りに人がいる気配は感じない。
ここから、本当の物語が始まる。