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恋 の 戦 。

27 - 伝染。

♥

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2023年12月14日

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27 伝染。




梅雨の間も先生は変わらずふらっとやって来た。



雨が降っている時には、ビニール傘を持って。



それでも今年の梅雨はまだ終わらない、って常連のおばぁちゃんが教えてくれた。



そのうち、長袖を着てると少し暑苦しくて

汗がにじみでてくるような日が続く。

空にはもくもくと入道雲が並ぶ。



「やべぇよ、辛い」


手塚さんが狭いカウンターの中で小声で私に呟く。


「マジで、倒れる5秒前…」


言ってることはギリギリだけど、手塚さんの顔には笑みが浮かんでいる。

お客様からしたら、手塚さんがこんなにヘロヘロだなんて分からないくらい。








7月の最終日曜日。


今日は、前先生と一緒に帰った時、先生が降りた駅で花火大会があるらしい。



うちの店があるわけじゃないし、隣だし。

そんな混まないでしょ、なんて思っていた私が馬鹿だった。



電車がギューギューになってしまうからみんな、1駅前で降りて、歩いて向かってる。

さらに、そのちょっとした遠足のお供としてコーヒーやジュースを買っていく。




テイクアウトが多いから、店内の席は空いているのに、レジからの行列が止まらない。

花火までまだ時間は十分にあるのに、昼過ぎからお客さんが一方に減らない。




ヘロッヘロになりながらもカウンター席に目を向ける。


そこには、私の大好きなあの人。


あの人を見るだけで頑張れる。



今日、こんなにも頑張れてるのは先生がいるから。

先生が、私のエナジードリンク代わりだから。



先生、今日は花火大会ですよ?

さっきから、カップルがたくさん来てます


心の中で、先生に問いかける。



一緒に、花火を見る相手はいないんですか?



もう1度先生をみると、


体をひねってこっちを見てる先生と目が合った。



「頑張れ」


声は聞こえなかったけど、先生の口がそう言って、微笑んだ。








『 アイスラテのトール2つ、お待たせしました。花火、楽しんでくださいね』



浴衣をきてるカップルに、笑顔で渡す。


「あ、○○ちゃん!」

『 はい』


背後から店長の小西さんに話しかけられた。


「ごめんごめん、もう上がっていいよ」

『 え?』


気づくと上がりの時間をもう、20分も過ぎていた。


『 こんな時間だったんだ…はい!では、お疲れ様です』

「うん、ありがとねー。」



小西さんにペコっと頭を下げて、コーヒー豆の紙袋を急いで運んでいる手塚さんに


『 お先に失礼しますー』

「えっー!?俺も帰りたい!」



小西さんが「テツはまだ帰れませーん」って楽しそうに笑う。


この空気がすき。



「もう、俺倒れんだけどー!」

「まぁ、閉店後に飲み行こうな」

「それ残業確定じゃん!俺上がり21時なんだけどー!」



閉店23時なのに。

ご苦労様です。



ワーワーやってる2人を横目にロッカールームで私服に着替えて店内にでる。




先生は…まだいる。



『 お疲れさまです。』

「…お。お疲れー。忙しそうだったな」

『 今も全然忙しいですけどね。先に上がっていいのかな。』



店内を眺めると、ちょっと申し訳ない気持ちになる。


「店に残ってると働けって思われんじゃね?」

『 あ…たしかに、』

「早く帰ったらいいんだよ。こーゆー時は」


ふはっって笑った先生が立ち上がる。



「俺もそろそろ帰ろっかなー」


ふわぁと大きなあくび。


それに釣られて私もあくび。


「んふふ、真似すんなよ」

『 真似って違くて、伝染したって、いうか…』

「伝染、しちゃってんの」

『 はい。…え何ですか?』

「いや、別に。」


片方の口角を上げた先生が、カップを返却口に戻して、出口へ向かう。

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