『貴方想い、散りゆく恋』〜身分違いの恋だとしても〜
第伍話 初めての…
『……フィンレイ、様――。』
『……。』
微かなリップ音を立てて、唇は離れた。
『…夜も遅い。デビルズパレスまで送ろう。』
『はい……。』
フィンレイ様は私より早く歩いた。
『初めて、キスされた…。』
(それに…好きって…。酔ってたから、なの?それとも……。本当に――。)
デビルズパレスにて――。
ギィィ…
『おかえりなさいませ。主さ――。』
『出迎えご苦労。ベリアン。雪華を部屋まで頼めるかな?』
『は、はい。』
『……。』
私はベリアンに促され、階段を上る。
『ではまた、雪華。』
『は、はい…。』
ギィィ…パタンっ。
『……。思わずキスしてしまった。まさか私がこんな気持ちになるなんて――。』
私は口を手で覆う。
自室にて――
『…寝れないよ。フィンレイ様のせいだ――。』
私は頬に触れ、顔が熱いのを確かめる。
(顔、赤いな…。)
『フィンレイ様…もっと好きになっちゃいますよ。』
自室のドアの外――
『……。主様は私のことは好きじゃないんですか――。』
『ちょっと、ラト。いくら耳がいいからって盗み聞きよくないよ。』
『ちょうど主様に寝る前の蝋燭を届けようとしたら聞こえてしまってね。』
私の胸の鼓動に……気付いて下さい。
俺もっとかっこよくなりますから。
私が優しく癒してあげたい。だから、どこにも行かないで欲しい。
次の日――。
私はグロバナー家に呼び出された。
そして、部屋に入るなり、フィンレイ様は人払いをし、私と二人きりになった途端に頭を下げた。
『昨日はすまなかった!』
『!』
『嫁入り前の君に…というより、女性に軽々しく接吻を…っ。』
『い、いえ、お気になさらず…酔ってたんですから…。』
『……責任はとる。男としても。グロバナー家当主としても。』
『え?』
『その前に…。軽い気持ちであんなことを言ったわけでは無い。接吻も、そうだ。』
『…え、それって…?』
『……。』
察してくれと言わんばかりにフィンレイ様は私を見つめた。
『っ……!』
『…この話をするにはここじゃ場所が悪過ぎる。だから――君にあんなことを言った責任を負い取らせて欲しい。』
『は、はい……。』
『3日間…。君の休みを私にくれないか?』
『っ…!』
『私の別荘があるんだ。中央の大地の北の方なんだが…。そこで君に見せたいものがあるんだ。』
『つまり、それは……。』
『私と雪華……2人きりだ。』
『え、執事のみんなは……。』
『私の別荘には君だけ招待したい。大丈夫だ。別荘には私の使いの者がいる。世話なら彼らに頼めばいい。天使が現れたとしても中央の大地からはそう離れていない。すぐに駆けつけてもらえる。』
『わ、分かりました…。話しずらいなら私が執事達に話そうか?』
『い、いえ。私から。』
『分かった。私も仕事があるからすぐには行けないが…。最低でも1週間後かな。楽しみにしててくれ。』
『はい!』
(フィンレイ様とお泊まりかぁ…楽しみだなぁ……。)
私は屋敷に帰り、みんなに伝えた。
『…そうですか。1週間後…フィンレイ様よ別荘へ。』
『う、うん。でも、中央の大地の北の方って言ってたからそんなに離れてないんだって。天使が現れたとしてもすぐに駆けつけてくれるって。』
『まぁ、それはそうなんですけど…。』
『主様は……フィンレイ様のことが好きなのか?』
『…!…うん。好きだよ。』
聞きたくなかった。頬を赤く染めて、執事以外のことを想っているなんて。
『主様…危機感がないと思いますよ。フィンレイ様とはいえ…2泊も同じ屋敷で…。』
『それを言ったらみんなだってそうじゃん?』
『そ、それは……俺たちは執事ですから…。』
『主様のそばにいるのは当たり前だろ?』
『そうっすよ。俺たちは主様のこと大事に思ってるっすから。』
好きだから離れないで欲しい。俺達のそばにいて欲しい。
『主様。1度振られているのにどうしてそんな…。』
『そのことを含めて話してくれるって言ってた。1週間後に。』
『健気すぎますよ。いや、優し過ぎます。一度振った相手をまた……。』
『ナック……。でも――。』
『僕なら主様のことずっと大好きですよ?』
どんな涙も受け止める。私たちのいきすぎた愛情で――。
『どうしてフィンレイ様じゃないとダメなんです?』
『そ、それは、フィンレイ様はかっこよくて、凛としてて…いつどんな時でも正しいから…。』
『では…私もフィンレイ様のようになればよろしいですか?』
『ちょっと、ラト。そういうことじゃないと思うけど。』
『どうして?フィンレイ様のかっこいい所や凛としてる所が好きになったなら…。私もそうなればいいだけですよね?』
『だから、それは……。』
『2人とも。喧嘩はいけないよ。主様。フィンレイ様のことを疑う訳ではないが…彼もその、男性だから、万が一ってことも…。』
『フィンレイ様はそんな人じゃ……。』
どこにも行かせたくない。ずっとここに居ればいい。癒してあげるから。
『いーや、わかんないぞ?男は好きな女が目の前にいたら――手を出したくなる生き物だぞ?』
『好きな女って…っ。』
『ハナマルさんと意見が合うのは癪ですが…。フィンレイ様も主様が好きなんですよね?何も無いとは言い切れませんよ。 』
『っ、それは……。』
『とにかく心配ですよ。主様、行くなら俺達も……。』
『っ、でも、私はフィンレイ様と2人きりが…いい。』
『戯けが。襲ってくれって言ってるようなものだ。』
『甘やかして欲しいなら俺がやってあげるよ?』
素直になれない。行かせたくないから。
離れたくない――。
『…フィンレイ様は今回の別荘に誘ってくれたのは。お礼なの。』
『お礼……?』
『うん。その、詳しくは言えないけど。そのフィンレイ様の気持ちを無駄にしたくはない、かな…。ほら、みんなの立場も危うくなる、し……。』
『……。』
(あくまで私たちのため…それが一番辛いし、刺さるんです。)
執事達の気持ちは伝えられないまま、日だけが過ぎていき――。
別荘へ行く2日前――。
フィンレイ様にグロバナー家庭園に呼び出され、告げられた。
『――――――。』
『え……?どう、して、そんな……。』
2人の距離を劈く…鋭く、大きなものに邪魔された。この恋は…儚いものなのか。
次回予告
フィンレイ様に告げられたこととは…?
『…私じゃダメなんですね。貴方には…相応しくない。』
『……済まない。雪華。』
次回
第陸話 残酷な報せ
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