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蓮司はソファに無造作に腰を下ろすと、缶コーヒーのプルタブを片手で開けた。もう片方の手で、無言のまま遥を指差し、顎で「来い」と示す。
「……なに?」
わずかに眉を動かして遥が言うと、蓮司はにやりと笑って言った。
「別に。日下部に、もっと信じてほしいんだろ? あの“俺の彼氏だよ”発言さ」
遥の喉が、わずかに鳴った。
息を吸う音すらうまく殺せなくなってる。
「……あれは……ただの……」
「嘘? ああ、もちろん知ってるよ。オレが一番ね。けど、周りは信じかけてんじゃん。だったらさ──“恋人らしく”したらいいと思わない?」
蓮司の声は、柔らかく、意地悪く、そして深く抉るように響いた。
「……どこまでが演技で、どこからが本気か──その境界、なくしてみたら?」
遥は答えなかった。
いや、答えられなかった。
黙って、蓮司の視線を避けようとしたが、その手首を蓮司に掴まれる。
「逃げるなよ。おまえが最初に言ったんだ。“付き合ってる”って。だったらさ──日下部の前で“本当にそうなんだ”って、思わせてみたくない?」
静かに、だが確実に──蓮司の指が遥の喉元に這う。
嘘の代償。演技の代償。
そして、それが“現実”になっていく予感。
遥は、笑うしかなかった。
壊れた笑い。
救いなんてどこにもない。
けれど、それでも「演じなければならない」と思った。
そうしなければ、自分の中の“本当”が壊れてしまう気がしたから。
「……だったら……やってみせるよ。おまえの“オモチャ”らしく」
蓮司は目を細めた。
満足気にも、どこか退屈そうにも見える。
「へぇ。やっぱ、面白いよ。おまえ」
そして、そのまま、指先が遥のシャツの端に触れる。
その動きが何を意味するか、遥はもうわかっていた。