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「へー、枕返しは座敷童だって説もあるんですって」
朝食の席で、入り口にあった小冊子を見ながら壱花が言った。
大きなガラス窓から宿を囲む竹林がよく見えるテーブルだった。
朝食は、サラダとフルーツだけがバイキング形式になっている和定食。
薬味いっぱいの湯豆腐がお腹にやさしくて、ほっとする味だった。
「座敷童がせっせと枕返してんのか。
まあ、そんな感じだったな」
と冷たい水を飲みながら、倫太郎が言う。
「それだと枕返されてありがたい感じですね。
帰る前に拝んでおこうっと」
と壱花は笑う。
部屋に戻り、忘れ物はないか確認したあと、あの銭箱を拝んでいて、壱花は気がついた。
「あっ、そういえば、腕枕しそびれましたね」
そう言い、倫太郎たちを振り向くと、倫太郎がちょっと赤くなり言う。
「……腕枕?
誰が誰にだ」
「いや、誰でもいいんですけど。
冨樫さんが腕枕したら、腕返されるのか気になるって言ってたんで」
あ、まだ時間ありますね、とスマホで時間を確認しながら、壱花は言った。
「やってみましょうか」
えっ、と言う倫太郎が挙動不審になる。
「冨樫さんお願いします」
「……冨樫にして欲しいのか」
「いえ、冨樫さんが社長に腕枕されてください」
倫太郎の言葉に、壱花がそう言い直すと、冨樫がキレた。
「だから、なんで俺が社長にだっ。
お前がされろっ」
そう冨樫に言われた壱花は、さすがに照れて後ずさり、
「い、いや、それはちょっと恥ずかしいですよ」
と言ったのだが、冨樫は、
「俺と社長より、お前と社長の方が絵になるだろうが」
と言ってくる。
……いや、冨樫さん。
木村さんに訊いてみてください。
絶対、あなたと社長の方が絵になるって言うと思いますよ……。
「あ、じゃ、じゃあ、私が社長に腕枕しますよっ」
「いや、なんでだ……」
「その方がまだ恥ずかしくないかなって」
「いや、なんでだ……」
「風花にも恥ずかしいとかいう感情があったんですね」
冨樫が長年飼ってきたペットを眺めるように壱花を見ながら、そう言った。