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『私、黙っていました。斉藤さんです、トロフィー落としてて壊してしまったのは』 伊藤さんが私に目を向けたことにより、それを追うように多方向から鋭い視線を向けられることになった。
『えっ……?』
頭の回転が遅いのに加え、石化させられるのかと思うぐらいの目力で全員に睨まれたことにより脳がフリーズしてしまい、状況を理解するのに三十秒ぐらいかかってしまった。
目撃者が発言する前に、その罪を被せる。先手を打たれてしまったのにすぐに否定出来なかった私は、どんどんとドツボにハマっていった。
『……あ、私は……』
ようやく自分が置かれた状況に気付いた私は否定しようとするけど、速くなった息によって口の中は乾いていて、上手く声が出せない。
なんとか、壊したのは伊藤さんの方で自分は見ていただけ、三時間目の理科の前だったと具体的に話すも、クラスの人たちが私に向ける視線は変わらなかった。
『本当のこと言ってくれないか? このままでは収集つかないから』
『だからナカセン、ホントのこと言ってるってばぁ!』
『別に、|美羽《みう》のこと疑ってるわけじゃない。信じてるから』
放課後、伊藤さんと私は職員室に呼び出されて、もう一度話を聞かれた。
何度聞かれても同じことを具体的に話す私に対して、伊藤さんは言うことがコロコロと変わり、「私はやってない」と感情論で話す。
学校の先生を主人公にしたヒューマンドラマだったら、きっと伊藤さんの方に「本当のことを話せ。一緒に謝ろう」とか諭して事件は解決となるのだろうけど、現実はそうならないみたいだ。
先生は私の顔を見て、「本当のことを話せ」とまた言ってきた。
中田先生は若くて親しみやすいからか、クラスの殆どの子に「ナカセン」と呼ばれていて、伊藤さんもそう呼んでいた。
先生も一部の生徒を名前呼びしていて、明らかに普段から扱いが違う。前々から分かっていたけど、成績さえ影響なければ良いやって開き直っていた。
だけどまさか、こんなことになるなんて。
結局、今回のことはうやむやになり、次の日に先生は「誰か分からないけど反省しているだろうから許してやれ」と言って、終わらせた。
だけどそれは、私を守ってくれたんじゃなくて、むしろ……。
『痛っ!』
登校時、自分の席に行こうと、等間隔に配置されてある机と机の間を歩いていたら、途端に足が飛び出てきて、私は咄嗟に反応出来ずハデに転んでしまった。
『あー、ごめーんねぇ!』
陸上部の男女グループがケラケラと笑い、「まあ、ウソツキだしー!」と盛り上がっていた。
『わ、私は、私は何もやってな……!』
『しかも、いとーちゃんに罪被せるとか信じられないしぃ!』
『ってゆーか、謝ってないよね? アンタ? どうゆう神経してんの?』
手を叩いて「謝れコール」をされ、違うと否定しても誰も聞いてくれず、伊藤さんを見ると、一緒に手を叩いていた。
その後も、私の謝らない態度にムカついたのか、苦手な数学の期末テストの点数を勝手に撮ってクラスのメッセージグループに貼ったり、おそらく家で壊れたと思われる物を持ってきて私に壊されたとヒソヒソ話したり、クラスで起こる小さなトラブルを全て私のせいだと結論付けられ良いように利用されるようになった。
どうしてこうなったの? 私、何も悪いことしてないよね?
頭の中でグルグルと巡る感情を抑え、クラス替えまでただ耐えるしかなかった二月。この話を聞いてしまった。
『いやー、知らんフリするのしんどいわぁー。あれ壊したの、絶対、美羽だよねぇ?』
『教科書忘れたぁって教室に取りに行った後、明らかにキョドってたもんね? 騒ぎになって、やってんなーって思ったもん』
『「私、黙ってました」だっけ? マジで引いたし!』
『まあ、そうは言っても。私ら、一軍に目ぇ付けられたら終わりだもんねー。大体さぁ、あんなところに置かれてガチでメイワクだったし。壊されたくないんだったら、校長室にでも預けとけってーの』
『ホント、あれのせいで、なんかイジメっぽくなってるし、クラスの雰囲気サイアクじゃん! ナカセン絶対、気付いてるのに止めないし』
『気付いてるって、イジメのハナシ? それとも……?』
『どっちもに決まってるじゃん! しっかしあの子、貧乏くじ引いたねぇー。えーと、名前なんだっけ?』
『ま、私らに飛び火しなければいーけど』
『それなー!』
全員で笑いながら手を叩き、話は次へと流れていく。
そんなハナシをトイレの個室で聞く。こんな小説みたいな展開、ホントにあるんだ。
その女子たちは教室にいたらイジメに加担しているみたいだからとトイレの手洗い場に逃げてきたらしいけど、私の逃げ出せる場所はトイレの個室しかないんだよ。
何、なんなの?
同じクラスの女子が濡れ衣で酷い目に遭わされているのに、それだけなの?
そりゃ友達の罪を言えないのは分かるけど、私を庇ったら伊藤さんが疑われるから言えないのも分かるけど、私に対して思うのは「貧乏くじを引いた名前も知らない子」?
そこに憐れみや、罪悪感とか、そうゆうものはないのだろうか?