テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
珈琲フォーに到着したのは、もう二十時になるかというところだった。
腹の虫が、店内の香りに反応して騒ぎ始める。
席に着いて、類くんはアイスコーヒー、私はホットコーヒーとBLTを頼んだ。
食べ物はいらないのか尋ねると、彼はただ静かに首を横に振っていた。
店員が去ると、類くんは頭を深々と下げた。
「さっきはすみませんでした」
「頭を上げてくれ。それに、類くんは謝るようなことをしてないと思うが」
「僕さっき、足立さんのことも巻き込んで啖呵切ってしまったので……」
そういえば、確かに言っていた。だがあれは事実だし、私自身何も思っていない。
「なんだ、そんなことか。気にする必要はないよ。君の意見に正当性がある」
店員が私達の前に飲み物を置いた。すぐに私はホットコーヒーを口に流し込む。さて、どうしようか。
「それで……白紙のことだが」
単刀直入に聞くことにした。
私にはそういう人間関係の小細工や駆け引きは向いていない。
「……わかってます。謝らないといけないですね」
私は目を見開いて、類くんを見た。
「君は、まだ白紙と関わってくれるのか?」
「はい。さっき歩いたときに、頭が冷えました。言い過ぎたと思っています」
私が心配する必要はなかったようだ。
「ただ白紙さんにまだ怒っているのは事実ですね。あの人はもっと人に興味を持った方がいいと思います」
「それはその通りだ。どうしても、人を信用できないようでね、そこから変にこじれてしまった」
「境遇を考えれば仕方ないと思います。僕ならもっとひどいことになっていたかもしれません」
類くんの目が伏せられた。
実の両親から裏切られたのだから、それは大きくて深い傷だ。
そしてその傷はまだ新鮮で、いつまでも治らずに白紙の心を蝕んでいる。
私は何を言っていいのかわからなかった。
この話をしていれば、あの日の続きを話さなければいけなくなってしまう
。いつか話すことになったとしても、今は避けたかった。
「ところで先ほど電話したんだが、ちゃんとかかっているかな」
類くんの表情が、一瞬にして暗くなる。
「……足立さんの電話はちゃんとかかってきてましたよ」
彼は何かを隠している。そしてそれは――
「もしかして、あの友達と話していた?」
私の言葉に、類くんは目を見開いていた。
図星のようだ。
「……そうです。ヨシトから電話がありました」
あのお守りの中には盗聴器があった。
あの時の我々の会話を聞いていたのかもしれない。
だが、問題は目的だ。
私達ではなく、類くんに何を求めている。
「内容を教えてくれと言って、素直に話してくれるのかな」
「それは……」
彼は目をぎゅっと閉じて考えていた。
眉間にも皺が寄っていた。
あの宗教に関わるのは、類くん自身にも危険が及ぶだろう。
だが、これは白紙のためでもあった。
あの子の心の傷をこれ以上、広げて欲しくない。
「もし足立さんに話したとしたら、白紙さんにも伝わるんですよね」
「いや、それはない。約束しよう。私は白紙のためにここにいる」
それを聞いて、類くんはぽつりぽつりと話し始めた。
神社を出て少し歩くと、類くんのスマホに着信があったらしい。
それは、あのお守りの友人ヨシトだった。
類くんは咄嗟に、配信用に預かっていたスマホで動画撮影ボタンを押した。
一言でも聞き漏らすまいと、彼の機転のきいた行動だ。
動画は、ずっとアスファルトを写していた。
そして、すぐに声が聞こえ始めた。
「よぉ」
悪戯が成功した子供のような楽しげな声色だ。
「ヨシト、聞きたいことがあるんだけど」
「もう全部見たんだよな? あれの中身」
「うん。あれはどういうことなの」
類くんの声が震えている。
自分の友達に殺されるかもしれなかったのだ。
それなのに、彼はよく戦っている。
ヨシトという男は、電話の向こうで楽しそうに笑っていた。
「ははは、楽しかったかよ。俺からのサプライズは」
「楽しいわけないだろ。あれのせいで……あれのせいで、女の子が一人死ぬかもしれないんだぞ!」
類くんが声を荒げたせいで、音声が少し割れる。
それでも、ヨシトは電話の向こうで笑っていた。
「女の子か。それは残念だな。俺にとっても、お前にとっても」
思ってもいないであろうその態度に、動画を見ている私も腹が立ってしまった。
「お前……」
「俺からお前に対する用は一つだけだ。よく聞けよ」
ヨシトは声を一層低くして、言った。
「白紙を連れてこい」
「え……」
動画の類くんは、言葉を失っていた。
私も同じ気持ちだ。なぜ白紙を――。
「場所は後で連絡する」
そう言うと、電話は切れた。
動画もそこで終了する。
「そして、これがその場所です」
類くんはメッセージアプリを開いて、それを私に見せた。
「これは……」
指し示しているのは、病院の廃墟だった。
随分昔に潰れて、しばらく放置されていた。
確か何度も解体しようとしていたが、その度に事故が起こっていたはずだ。
「類くん、どうするつもりだい」
こんな廃墟で、あの宗教と絡んで彼が無事でいられるはずがない。
「とりあえず、白紙さんには絶対言わない方がいいと思います」
「同感だ」
頷く。
「僕はやっぱり、ヨシトと話したい。まだ何が何だかわからないんです」
類くんは、テーブルに置いた拳を握った。表情にも、いつもの様子を窺うような弱気さはない。
「直接、どういうことなのかを聞きに行きます。この場所に、僕一人で」
そうだろうと思っていた。
もし私がこの場で止めても、きっと意味がないのはわかっている。
しかしこれを放っておくこともできるわけがない。
「類くん」
「はい」
「私も一緒に行ってもいいかな」
今の私にできそうなのは、これくらいしかない。
「おまたせいたしました」
その時、忘れかけていたBLTが目の前に置かれた。
今の私には、ごちそうだ。
あいつらにとっては、私達も同じものだろうか。
私は大きな口で、バンズにかぶりついた。
#オリジナル
重田💋(omoda)
220
54
星川 愛優 全垢❌
15,288
コメント
1件
うわあああ…! このエピソード、重くて熱い…!!😭💕 類くん、ちゃんと白紙さんのこと考え直して「話す」って決めたのが尊すぎるし、ヨシトからの電話のシーンは手に汗握ったよ…!「白紙を連れてこい」って、なんであの宗教が白紙さんを狙うの!? 最後の足立さんの「私も一緒に行ってもいいかな」で胸熱すぎて泣いた、この2人の絆がもう…✨ 早く続きが読みたいよ〜!!!