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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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久しぶりにしたキスは歯磨き粉の味がした。湿った舌の感覚が懐かしく感じた。

最近は凪が何もするな、触れるなと言ったから触れるだけのキスだっておあずけ状態だったのだ。


セックスがいいならキスもいいはず。勝手にそう思った千紘は、一度キスをしたらもう止まらなかった。

本当はずっと触れたくて触れたくてたまらなかったのだ。それを凪に嫌われたくないからと必死に我慢をした。

凪の体の負担になりたくないからと、なるべく休息がとれるように努力した。


けれど、それもようやく解放されたのだ。何度触れさせてくれないかと頼もうか悩んだことか。もしかしたらキスくらいならいいと言ってくれるかもしれない。

抱きしめるだけでも、腕枕だけでも嬉しかったが、キスができたら尚嬉しい。でもきっとキスをしたら止まらなくなる。それくらいは自分でもわかっていた。


わかっているつもりだったが、こんなにも胸の奥が熱くなり、全身で凪を求めるとは千紘自身も思っていなかった。

このところ、感情のコントロールが上手くできるようになってきていたのだ。凪をこの上なく好きなのは変わらないが、凪が嫌がる程の過度な愛情表現をせずとも心の中に留めておくことができていた。

だから、例え凪の体調が戻って以前と同じように元気になって、何かの気まぐれで凪から誘ってくれることがあったとしても、腕枕だけで我慢できたようにもっと冷静に対応できると思っていた。


しかし、何も考えられなくなるくらい凪でいっぱいになって、好きだという感情が溢れて止まらなくなった。


「凪……凪、好き」


キスをしながら、合間で凪へ気持ちを伝えた。凪も千紘からの好きという言葉を久しぶりに聞いた気がした。

何度も角度を変えて舌を絡める千紘。余裕などなく、既に膨れ上がった下半身も、凪の太腿が感知していた。


ウザったいくらいの愛情をぶつけられたのは久しぶりで、凪もなんとなくこれが懐かしく感じた。

自分が知ってる千紘はこうだった。しつこくて強引で、自制心がない。なのに時々優しくて、凪の気持ちを不安そうに確かめようとする。

体調を気遣うような言葉をかけたり、優しく触れたり。そこから凪への千紘の愛がたくさん伝わるようだった。


凪は千紘のキスを受け入れながら、フワフワとした気分だった。客から好意を寄せられる度どこか冷めた目でそれを見ていた。

以前は千紘に対してもそうだったはず。それなのになんとなくそれも当たり前のように受け入れた。

むしろ、自分のことを諦めようとしていた千紘が戻ってきたのを実感した。


「凪……」


千紘は愛しそうに凪の名前を呼びながら結局服の裾を上までたくし上げた。凪は仕方なく両手を上げてされるがまま服を脱いだ。

それは洗濯機に入ることもなく床に落とされた。凪の腹筋の上を千紘の指先がなぞり、ズボンのウエスト部分に触れる。ゴムを伸ばし軽やかに下ろす。一緒にズレた下着から凪の腸腰筋が現れた。


凪は抗うのもやめ、千紘に任せた。どうせ抵抗したところで脱ぐのだ。自分が抱かせてやると言った以上、それを撤回するつもりもなかった。

最終的に行為に及ぶのであれば、このまま千紘に身を任せても同じ気がした。


「好きだよ、凪」


何度も好きだと言われながら降り注ぐキスの雨。凪はそれをくすぐったそうにクスクス笑いながら受けることになった。


「わかったよ。お前、ほんとに俺の事好きだな」


「ん……好き」


千紘はすんなりと惜しげもなく好きだという言葉を発する。凪も客に対してはそうだ。綺麗も可愛いも好きもいくらでも言える。けれど、千紘が使う好きと凪が使う好きは全く別物だった。

千紘の好きは、凪が知らない好きだ。その好きを受けることは多々あっても、同じ好きを与えたことは一度もなかった。


凪はこんな時にそんなことを考える。その先に浮かぶのはまた樹月の存在。樹月はきっと千紘が言う好きを上回る程の好きをたくさん与えてくれたはず。

それなのに千紘は、そんな樹月よりもなんの見返りも期待できない凪を選んだ。凪はいつまで経ってもそれが不思議でならなかった。


「俺はさ、お前のこと好きにならない」


凪がそう言うと、千紘はピタリと動きを止めた。それと同時に「わかってるよ、いい加減」と言いながら切なそうに眉を下げた。


凪はその表情をじっと見つめた。


「なのに何でいつまでも好き?」


「わかんない。でも、俺は凪じゃなきゃ無理」


「んー……。こんな感じでずっといくつもり?」


「凪が受け入れてくれるなら」


「受け入れるって今みたいに?」


「だって、付き合ってくれないでしょ?」


「……千紘の言う付き合うってなに?」


本気で人を好きになったことがなかった凪にとって、未だに付き合うという意味自体よくわからなかった。


「むしろ凪の言う付き合うってなに?」


凪は質問に質問で返されたことに面食らった。ただ、そう言われて初めて付き合うということの意味を考えた。


「よくわかんね。……彼女がいたこともあるけど、デートしてキスしてセックスして。他のヤツは間に入れたらダメで、優先しなきゃいけない。してることはセフレと変わんないのに」


「ふむ。なるほど。でもセフレと違うのは、そこに好きって感情があるかないかかな」


「でも付き合ってるヤツら皆が皆、お互いに同じ熱量で好きなわけじゃない」


「そうだね。一方通行だけどとりあえず付き合ってみるってパターンもあるわけで」


「……俺それだったかも」


凪は、過去に付き合った女性のことを思い出した。人としては好きだったし、触れ合うのもデートも嫌じゃなかったから相手からの告白を受け入れた。

けれど、いざ付き合ったら過度な束縛や嫉妬で癇癪を起こすことも、行動を制限されることも耐えられなくなってすぐに別れた。

あれが付き合うことだというのなら、凪は一生誰とも付き合わなくてもいいと思った。


「かもね。何で凪はその人のことは受け入れたの? 好きじゃなかったのに」


「人としては好きだったから」


「じゃあ、なんで別れたの?」


「束縛されるの無理。してないことで疑いかけられるのも無理。監視されるのも、自由じゃないのも全部無理」


「樹月みたいな」


「ああ……それだ」


「うん。俺も無理だったよ。でも、それが付き合うこととイコールとは違うよ」


千紘は、凪の言葉におかしそうに笑う。まるで小中学生に説明しているような気分になった。


「んー……でもお互いがお互いのモノってことだろ?」


「そうだね。でも、お互いに所有物じゃないし、意見は尊重し合うべきだと思う。お互いがお互いのモノになるのは、お互いがそうしたいからであって強制じゃない」


「もう意味わかんねぇわ」


凪は、んーっと明後日の方向を見ながら千紘の1つ1つの言葉を理解しようと頭を働かせた。けれど、わかるようでわからなかった。


「俺なら凪と付き合うなら、縛り付けたりもしないし変に詮索もしない。凪が会いたい時にだけ会うし、嫌なことはしない」


「今と変わんねぇじゃん……」


「でも付き合うなら、俺が会いたい時も会いたいって言うし、その時が無理なら強制はしない」


「ふーん?」


「でも、キスもセックスもするのは俺だけってこと」


「女はダメってこと」


「当然。てか、女の子じゃイケないんだからする必要なんかないよね」


千紘にニッコリ笑って言われたら、凪はぐっと口を結んで押し黙るしかなかった。

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