テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#主人公最強
ウサギ様
431
麗太
513
5,470
#失踪確定
「……で、さ。なんで君はそんなに必死になって、そのガキを洗脳しようとしてるわけ?」
星蘭は狐火を指先に灯したまま、ふと思い出したように、ひどく無邪気なトーンで水無瀬に問いかけた。
「効率悪すぎでしょ。僕ならもっとスマートに片付けるけどね」
「……この男は神代の『覚(さとり)』の跡取りだ」
水無瀬が苛立ちを隠さずに、吐き捨てるように応じる。
「こいつの全方位読心と精神干渉のシステムを僕の支配下に置けば、妖界の市場(マーケット)での利権はすべて僕たちのものになる。星宮、手伝うと言うなら、無駄口を叩かずに今すぐ君の力でこの神代の防壁を粉砕してくれ」
「へえ、利権ね。ま、どうでもいいけど。早く終わらせて寝たいし、いっちょ壊してあげるよ」
星蘭は気だるげに頷くと、灯していた青白い狐火を遼太の額へと向け、自身の特技である最高位の「幻術」を冷酷に解放した。
「――っ、が、あ……ッ!?」
遼太の視界が、一瞬にして真っ白な狂気へと染まる。水無瀬の呪具による、脳の神経を一本ずつ焼き切るような「強制的な書き換え」。そこに、星蘭の「現実と偽物の境界を完全に喪失させる幻術」が、逃げ場のない脳の最深部へと直接突き刺さる。脳裏で、あの共鳴ノイズが何千倍もの爆音となって鳴り響く。自分の心という領域が、水無瀬の支配領域と、星蘭の容赦のない狐火によってジリジリと焦がされ、削り取られていく。
(あ、熱い……、いや、感覚が、ない……!?)
人間のものではない二つの強大な妖気に挟まれ、遼太の精神は、今まさに完全にすり潰される寸前の、壮絶な極限状態に達していた。意識の壁はパキパキと音を立てて崩れかけ、深い絶望の闇が脳内を埋め尽くしていく。大声を出す余力すら残されていない。呼吸すらまともにできない極限の緊迫状態。それでも遼太の心は、ただ「自分であり続ける」ためだけに、奇跡的な執念でギリギリの踏みとどまりを見せていた。
「……ん?」
その時、遼太の脳内に深く幻術の触手を潜り込ませていた星蘭の指先が、ピクリと不自然に跳ねた。強い感情を読み取る能力を持つ九尾の狐の特技が、極限まで張り詰めた遼太の「頭の中」を、ほんの少しだけ強制的に読み取ってしまったのだ。
(あ、あれ……? これって、遼太くんの……?)
星蘭の脳裏に流れ込んできたのは、緊迫した戦いの記憶などではなかった。それは遼太が日常の中で必死に隠していた、「誰にも見られたくない、最高に恥ずかしい秘密の記憶や妄想の断片」だった。かつて学校でやってしまったちょっとした黒歴史、脳内でこっそり考えていた恥ずかしい妄想、他人には絶対口が裂けても言えないようなプライベートな思考の数々――。極限状態の過負荷で頭のガードが甘くなったせいで、そんな一番奥底の「恥ずかしい領域」が、星蘭のレーダーに面白いくらい筒抜けになってしまったのだ。
(ちょ、ちょっと……! 何見て、るんだよ……ッ!?)
洗脳の苦痛とはまた違う、あまりの羞恥心とパニックで、遼太の心臓が跳ね上がる。顔が一気にカッと熱くなるが、身体は呪術的な椅子に縛り付けられたままで、頭を隠すことすらできない。
「……へえ。面白い頭の中してるね、君。こんな時にそんなこと考えてたの?」
星蘭はいたずらっぽく目を細め、気だるげに微笑みながら、指先から放つ青白い狐火の出力を静かに維持した。彼から放たれるのは依然として圧倒的な妖気のプレッシャーであり、味方になる兆候など、今のこの絶望的なアジトのどこにも存在しない。自分の心という領域が、水無瀬の支配領域と、星蘭の冷徹な狐火によってジリジリと焦がされ、狭められていく。人間の世界にいるはずの慶介たちの気配は、遮断結界の向こう側から一切届かない。完全に孤立無援。二人の強大な妖に挟まれ、いつ自我の防壁が粉砕されてもおかしくない最悪の闇。それでも、遼太は耐えていた。恥ずかしさで精神が爆発しそうになりながらも、水無瀬に意識の壁をパキパキとひび割らされようとも、遼太はただ歯を食いしばり、血が滲むほどに拳を握りしめる。
(俺は……絶対に、お前たちの、人形には……ならない……っ!)
大声を出す余力すら残されていない。呼吸すらまともにできない極限の緊迫状態。それでも彼の紅く染まりかけた瞳の奥には、羞恥と怒り、そして人間であり続けようとする驚異的な執念の炎がまだ確かに灯っていた。
「おい、星宮。遊んでいないで一気に畳み掛けろ」
水無瀬が三白眼を焦燥にぎらつかせ、影鰐の影を苛立たしげに蠢かせる。
「えー、言ったでしょ。僕、めんどくさがり屋なんだよね……」
星蘭はそう答えつつも、突き出した指先の力を緩めることはない。息の詰まるような沈黙と、ジリジリと魂を削り合うような精神の戦い。助けの来ない異界の闇の中で、遼太はただ一人、自我の崩壊という最悪の悪夢の淵で、限界を超えて持ち堪え続けていた――。
コメント
4件
やばい色々カオス(?)になってきた面白い!
うわ、第10話、めちゃくちゃ緊迫してた……! 水無瀬の執念と星蘭の飄々とした危うさの対比が鮮やかで、遼太くんの「恥ずかしい記憶」が読み取られるギャップに思わず笑いそうになったけど、それでも自我を守り抜こうとする執念が熱かった。あの絶望的な状況で「人形にならない」と踏ん張る姿、本当に応援したくなる。次が気になる!