テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「……へえ。面白い頭の中してるね、君。こんな時にそんなこと考えてたの?」
星蘭はいたずらっぽく目を細めると、水無瀬には聞こえないよう、幻術のパスを通じて直接、遼太の脳内にだけその声を響かせた。彼から放たれる圧倒的な妖気のプレッシャーは変わらない。味方になる兆候などどこにもないまま、星蘭は残酷なまでに楽しそうに、読み取った秘密の記憶を弄び始めた。
(ねえ、神代の跡取りくん。君の頭の奥、ものすごく賑やかだよ? ――たとえば、このクラスのあの女の子のこと、実はこっそり目で追ってたりするんだ?)
「……っ、な、にを……ッ!」
遼太の脳裏に、星蘭の幻術によって「好きな人の笑顔」が鮮明に浮かび上がる。しかしそれは温かい記憶ではなく、星蘭の妖気によって歪められ、自分の恋心が衆目に晒されているかのような強烈な羞恥心の責め苦へと変えられていく。
(それから……あはは、何これ。中学生にもなって、まだお気に入りの『アンパンマンのハンカチ』を学校のスクールバッグの底に隠し持ってるの? 汚さないように大切に仕舞い込んじゃってさぁ、可愛いところあるね)
(やめ、ろ……! 頼むから、見るな……っ!)
洗脳の激痛に耐えるだけでも極限なのに、一番隠しておきたかった子供っぽい秘密まで暴かれ、遼太の精神の防壁が羞恥心でガタガタと細かく震え出す。星蘭の意地悪な揺さぶりは止まらない。彼の感情を読み取る力が、遼太の脳内から次々と「黒歴史」を引っ張り出しては、幻術のスクリーンに映し出していく。
(小学生の時、カッコつけて自分のことを『闇の支配者』って日記に書いてたの? 痛々しくて最高。あ、こっちの記憶は……誰もいない教室で一人でカッコいいポーズの練習をしてたら、先生にガラッと扉を開けられて見られたやつだ。うわぁ、思い出すだけでも消えたくなるねぇ)
(う、あ……ああ……っ!)
「書き換え」による精神の破壊とは違う、内側から心が爆発してしまいそうなほどのパニック。顔は真っ赤に火照り、心臓は狂ったように脈打つ。椅子に縛り付けられたままの遼太は、耳を塞ぐことも、顔を覆い隠すこともできない。完全に精神の全裸にされたような、凄まじい精神的陵辱だった。星蘭は潤んだ目で必死に耐える遼太を見下ろし、さらにサディスティックな笑みを深めて脳内に囁きかける。
(ねえ、遼太くん。これ、僕たちの『味方』にならないなら、今ここで妖界共通放送(ブロードキャスト)の電波に乗せて全土にバラしちゃおうか? 君の好きな人も、アンパンマンのハンカチも、闇の支配者の日記も、みーんな妖界中の娯楽になっちゃうね)
(……っ!? な、なんだよそれ……っ! 卑怯だろ……!)
あまりにも容赦のない脅迫に、遼太の心臓がどくんと跳ね上がる。ただでさえ水無瀬の洗脳に抗うので精一杯なのに、もしそんなことになれば社会的に、いや霊的に完全に死亡してしまう。最悪の悪夢の上塗りに、遼太の精神は今度こそ崩壊の一歩手前まで追い詰められていた。
「……おい、星宮。何をもたもたらしている。さっさとその神代の自我をへし折れと言っているだろう」
301
367
#恋愛
十色
196
82
隣で呪具を掲げる水無瀬が、一向に洗脳が完了しない状況に苛立ち、三白眼を血走らせて吐き捨てる。水無瀬には、星蘭が遼太の脳内でどんな「おもちゃ」を見つけて遊んでいるのか、一切見えていない。
「えー、言ったでしょ。僕、めんどくさがり屋なんだよね……。でも、もうすぐ壊れるよ。ね? ハルタくん」
星蘭は気だるげに微笑みながら、突き出した指先の狐火をさらにギラリと輝かせた。
(ほら、これ以上恥ずかしいところを大拡散されたくなかったら、さっさと諦めて僕たちのシステムになっちゃいなよ。楽になれるよ?)
耳元で囁かれるような悪魔の誘惑。羞恥心と怒り、そして呪具の濁流。あらゆる負荷が重なる最悪の悪夢の深淵で、遼太の瞳は涙と紅い光で潤みながらも、まだその奥にある「人間としてのプライド」の芯だけは、奇跡的な執念でパキリと踏みとどまっていた――。
コメント
2件
wwカオスだねてか黒歴史暴露されたら僕でも死にたくなるわwwwww
みぅ🥀 遼太が晒されてる……「精神の全裸」って表現がピッタリで、読んでてああ……ってなったよ🥲 子供の頃の痛い記憶とか、焦った秘密が全部暴かれてる感じが、本当に恥ずかしくて、でも星蘭の狡い脅し方がやばいね。 あと少しで崩れそうな遼太のプライドがまだ折れてないのが凄い……続き読みたい。