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第47話 〚誘う言葉、揺れる心〛
ホームルームが終わっても、
澪の胸は落ち着かなかった。
――花火大会。
担任の一言が、
頭の中で何度も繰り返される。
(……海翔くん、行くのかな)
放課後の教室。
荷物をまとめながら、
澪はちらりと前を見る。
海翔は友達と話していたが、
ふと視線が合った。
一瞬、
互いに目を逸らす。
その沈黙が、
なぜか心臓に響く。
教室を出るタイミングが、
自然と同じになる。
廊下を歩きながら、
二人の間に言葉はない。
(言わなきゃ)
(でも、もし断られたら……)
澪の指先が、
鞄の持ち手をぎゅっと握る。
昇降口が近づいた、その時。
「……白雪」
呼ばれた声に、
澪の肩が小さく跳ねた。
「は、はい」
海翔は少しだけ、
視線を逸らしている。
「さっきのさ」
「花火大会……」
一瞬、言葉が詰まる。
(海翔くんも、緊張してる)
そう思っただけで、
澪の胸がじんわり熱くなる。
「……一緒に、行かない?」
その一言は、
思ったより静かだった。
でも、
澪にははっきり届いた。
――誘われた。
頭の奥が、
少しだけざわめく。
妄想(予知)は、
流れてこない。
ただ、
胸の音だけが大きい。
「……」
一秒。
二秒。
澪は顔を上げて、
海翔を見る。
「……私で、いいんですか」
消えそうな声。
海翔は驚いたように目を開いて、
すぐに小さく笑った。
「いいに決まってるだろ」
その言葉に、
澪の心が揺れる。
(行きたい)
(でも……家の人の許可)
「……家に、聞いてみます」
そう言うと、
海翔は少し安心したように頷いた。
「うん。無理しなくていいから」
夕方の風が、
二人の間を通り抜ける。
並んで靴を履きながら、
澪は思う。
(これって……)
(デート、なのかな)
校門を出る前、
海翔が一度だけ振り返る。
「……返事、待ってる」
その一言で、
澪の心臓が、また跳ねた。
――夏が、
静かに動き出していた。