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第48話 〚家族の言葉、決まる答え〛(澪視点)
家に帰っても、
澪の胸は落ち着かなかった。
鞄を置いて、
制服のまま自分の部屋に座る。
――花火大会。
――一緒に行かない?
海翔の声が、
何度も頭の中で再生される。
(行きたい……)
でも同時に、
不安もあった。
夜。
人も多い。
帰りも遅くなる。
リビングから、
家族の話し声が聞こえる。
澪は深呼吸して、
扉を開けた。
「……お母さん」
夕飯の準備をしていた母が、
振り返る。
「どうしたの?」
澪は一瞬、
言葉に詰まった。
でも、
逃げたくなかった。
「今度……花火大会があって」
「クラスの……友達と」
“友達”という言葉に、
少しだけ罪悪感。
母は手を止めて、
澪を見る。
「誰と?」
心臓が、
どくんと鳴る。
「……橘くん」
その名前を出した瞬間、
胸の奥が熱くなった。
母は少し驚いた顔をして、
でもすぐに柔らかく笑った。
「最近、よく一緒にいる子ね」
澪は小さく頷く。
「……夜だし、人も多いし」
「心配かもしれないけど……」
言葉が、
だんだん小さくなる。
すると、
奥から父の声がした。
「花火大会か」
父は新聞を畳んで、
澪の方を見る。
「澪」
「ちゃんと考えて言ってるなら、いいんじゃないか」
澪は思わず、
顔を上げた。
「え……?」
「最近、前より表情が明るい」
「その子といる時、特にな」
胸が、
きゅっとなる。
母も頷いた。
「遅くならないこと」
「連絡はちゃんとすること」
「それが守れるなら、いいわ」
一瞬、
世界が静かになった。
(……いいの?)
「……ありがとうございます」
声が、
少し震えた。
自分の部屋に戻って、
澪はベッドに座る。
スマホを手に取って、
画面を見る。
(返事、待ってる)
その言葉を思い出して、
指が動く。
――送信。
【行けます。
よかったら、一緒に……】
既読がつくまで、
数秒。
その間が、
とても長く感じた。
すぐに、
返信が来る。
【ほんと?
ありがとう】
短い文なのに、
胸がいっぱいになる。
【当日、楽しみにしてる】
その一言で、
澪の頬が、少し熱くなった。
スマホを胸に抱えて、
澪は目を閉じる。
(……初めてかもしれない)
こんなふうに、
誰かとの時間を
心から楽しみにするのは。
窓の外では、
夏の夜の風が静かに吹いていた。
――花火大会まで、
あと少し。
澪の心は、
確かに前へ進んでいた。
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