テラーノベル
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その日の夜、工藤邸の書斎は、遮光カーテンの隙間から滑り込んだ月光で淡く青に染まっていた。
新一はソファに深く腰掛け、開いたままの専門書に目を落としていたが、文字は1ミリも頭に入っていなかった。昼間のメッセージ、そして自分が黒羽にぶつけてしまったあの言葉が、頭の中でぐるぐると回り続けている。
(『じゃあ、俺が黒羽快斗だったら、今夜迎えに行ってもいい?』……って、あいつマジで何なんだよ……っ)
その時、コンコン、と静まり返った部屋に軽い音が響いた。窓の方ではない。……一階の、玄関のインターホンが鳴ったのだ。
「え……?」
時計を見れば、すでに夜の11時を回っている。新一が不審に思いながら一階へ降り、おそるおそる玄関のドアを開けると――
「よっ、名探偵。本当に来ちゃった」
そこに立っていたのは、白いシルクハットでもマントでもなく、見慣れたラフなスウェット姿に、肩に大きめのトートバッグを下げた黒羽快斗だった。
「く、黒羽……っ!? お前、なんで……っ」
新一は思わず声を裏返らせ、一歩後ろに飛び退いた。昼間のキッドからのメッセージが脳裏をよぎる。
『今夜迎えに行ってもいい?』
「なんでって、お前が昼間あんなに熱出しそうな顔してたからさ。親友として心配になって、お見舞いにきてやったんだよ。ほら、コンビニでアイスも買ってきたし」
快斗はハハッと無邪気に笑うと、固まっている新一の脇をすり抜けて、当然のように工藤邸の中へと上がり込んでいく。
「お、おい! 待てよ黒羽!」
慌てて後を追い、二人は二階の書斎へと戻った。ソファにどさりと腰掛けた快斗は、スウェットのポケットに手を突っ込み、新一をじっと見つめてニヤニヤしている。
「な、なんだよその目は……!」
新一は部屋の壁に背中を預け、快斗からできるだけ距離を取ろうとした。昼間、本人の前で「お前がキッドならよかったのに」と言ってしまった気まずさと、キッドからの予告(?)通りに本当に快斗が夜の自宅に現れたという事実。二つのパニックが重なり、新一の心臓はうるさいほどに脈打ち始めていた。
「いや? 昼間のお前の質問、なんか可愛いなーと思ってさ」
快斗は机の上のトランプをパタパタと弄びながら、わざとらしくため息をついて見せた。
「『お前、キッドだったりしねーか?』だっけ? お前さ、そんなにあの泥棒のことで頭いっぱいにされてんの?……そこまであいつのことが好きならさぁ」
快斗はトランプをピタリと止め、ソファから立ち上がった。一歩、また一歩と、壁際に立ち尽くす新一へと近づいていく。スウェット姿のせいで、夜の現場のキッドよりも、どこか生々しい男の気配が新一を圧倒した。新一の目の前で立ち止まった快斗は、新一の背後の壁に、昼間の教室と同じようにドン、と手を突いた。
「ひゃ、っ……!」
「工藤がそんなに望むならさ……」
快斗は顔を近づけ、新一の耳元で、昼間のキッドのメッセージと同じ低く甘い声音で、けれど悪戯っぽく囁いた。
「俺が怪盗キッドになって、お前のこと、今夜このまま拐(さら)ってやろーか?(笑)」
「――――――――――ッッッ!!!!」
新一の脳内で、今日何度目か分からない大爆発が起きた。
(な、何言ってんだこいつ……! 声が、あいつのセリフが、昼間のメッセージと完全に一致して……っ!!)
「な、何ふざけたこと言ってんだバカ! お前がキッドなわけねーだろッ!」
新一は真っ赤になって快斗の胸を両手で突き飛ばした。
ユイ
47
#改方学園
千導 渉
7
#名探偵コナン
サンフラワー
461
「あいつはもっと気障で、神出鬼没で、泥棒で……! お前みたいな、ただの手品バカじゃねぇ……っ!」
「あはは! ひどい言われようだなあ!」
突き飛ばされた快斗は、ソファに倒れ込むようにしてクスクスと楽しそうに笑った。その表情は、いつもの気のいい同級生のそれだった。
(あ、危ねぇ……。まーた限界迎えて抱きついちゃうところだったぜ……)
快斗は笑いながらも、内心では、顔を両手で覆って耳まで真っ赤にしている新一の姿に、猛烈な愛おしさを募らせていた。スウェットのポケットの中で、自分のスマホが小さく冷えている。自分がキッドだと明かすのは、今夜ではない。けれど――。
「ま、キッドにはなれなくてもさ。今夜はお前の隣にいてやるよ、名探偵」
快斗はスウェットの袖を少し捲り上げ、新一の隣に座るためにソファのスペースを空けた。月光に照らされた工藤邸の書斎で、大怪盗の仮面を隠した少年と、彼に完全にイカれている探偵の、甘くて危うい夜が更けていく。
コメント
1件
もうめっちゃ良かった……!! 昼間のやり取りがここに繋がるのか、って納得した。新一、快斗に「キッドだったらよかったのに」って言っちゃった後で、本人が夜中にスウェットで現れて「拐ってやろーか?」って囁くの、卑怯すぎるでしょ(笑)。新一が壁際で声裏返すとことか、快斗のポケットでスマホ冷えてる描写で「ああこいつ本人か」って確定する感じ、最高にニヤニヤしたわ。2人の距離感と空気感が絶妙で、読んでてこっちまでドキドキした🔥