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。 .:・.。. .。.:・
耳に刺しているブルートゥースのイヤホンの電源を切り、樫木の床にパンプスがコツコツと響くのを竜馬は黙って聞いていた
鏡越しにジェニが入って来たのが映ったのを見て、竜馬は心底驚いた、いったいどうやって入って来たのだろう?だが冷静なフリをしてトレーニングを続けた
そして近づいて来るタイミングに合わせて、威嚇するようにバーベルをどさっとマットに落とした
案の定ジェニは仰天して飛び上がった、竜馬はそれを面白いと思った
。 .:・.。. .。.:・
彼が・・・ゆっくりと振り向くなり、ジェニは目を丸くして足と息を止めた
口から心臓が飛び出そうだ・・・急に何も考えられなくなり、頭の中に濃い霧がかかったみたいだ、今の彼はジェニの知っているクールな彼ではなく、髪はボサボサで、息を荒げ、頬を染めている、シャワーを浴びたように汗まみれだ
汗まみれの彼は・・・何ていうか・・・こんなことを男性に思うのはおかしいのかもしれないが「美しい」と思った、筋肉質なのに・・・しなやかな体、髪をセットしていなかったらこんなに前髪が長いの?・・・
汗まみれの無造作の前髪が、目をチラチラ隠している・・・とてもセクシーだ、今彼を道端に放り投げるときっと、彼に見とれて街灯にぶつかる女性が後を絶たないだろう
「あ・・・あの、松下社長!」
ジェニはあわててとりとめもなく話し始めた
「うちの三浦の解雇を取り下げて頂きたいんですっ!彼は父の代から一緒に働いて来た、それは良い人で、今彼を辞めさせられたら困りますっっ!」
彼は激しいトレーニングに荒い息をハァハァ整え・・・じーっと無言でジェニを見つめ・・・一人で来たのか?と周囲を見回した
ハァ・・・ハァ・・・「三浦?」
「ここには私の意思で来ました!失礼ですがどこかに腰を下ろして、この神崎の利益シュミレーション資料を見ていただけませんか?」
ジェニはキョロキョロあたりを見渡した、腰を下ろして資料を見てもらえる所はなさそうだ、ジムなのだから当たり前だろう、必要ならばルームランナーの上で、彼の隣で一緒に走って熱弁してもいい、それにしても・・・
―まただわ・・・また彼はあの猛禽類の目つきで私を見る・・・あの目つきやめて欲しい―
。 .:・.。. .。.:・
ジェニも思わず彼を見つめてしまう・・・脚の長さや胸板の厚さ、そしてなんともすごい肩幅の広さを目で確かめずにいられない、そう・・・この手でつかみきれないほど大きく厚く逞しいあの肩にしがみついたら、どんな感じがするのだろうと想像してしまう
そして、しかめっ面をしていてもハンサムな顔・・・ハァハァ苦しそうに息を荒げ、汗だくの彼はしゃべるのも辛そうに見える
そしてそれが『あの時』の後を・・・思わず想像させる、まるで女性と激しく愛を交わした直後のようなって・・・何考えているのよ!あたしっ!!
ジェニは心の中で自分を殴りたくなった
ハァ・・・「着いて来い」
竜馬は更衣室に向かってスタスタ歩いて行った、ジェニはあわてて彼を追いかけた、一番奥のドアを竜馬が開けてジェニは甲高い悲鳴を上げた
そこはシャワー室で、竜馬が汗で湿ったタンクトップを脱いで、上半身裸になったからだ
「なっ・・・何をしているんですかっ!」
「僕には時間がない、これから得意先で会議がある!どうしてここにいるのか謎だが、君が突然、僕のタイムスケジュールに突撃してきたから、100歩譲ってスケジュールを遂行しながら聞いてやろうというんだ!!逆に感謝してほしいね、僕がシャワーを浴びている間、内容を話せっっ!」
竜馬は何個かあるシャワー個室の、一番奥のつい立てに入って行った、つい立てからは彼の足首だけが見えた・・・つい立てから竜馬のショートパンツとボクサーブリーフが籠にポイッと放りこまれた
シャワーの栓をひねる音と同時に、お湯が流れる音も聞こえた、ふとジェニは自分にはあると思ってもなかった想像力に取りつかれた
竜馬が降り注ぐお湯の下で・・・上を向いて逞しい大きな体に石鹸を塗っている・・・彼はとんでもない精力的なセックスアピールのあるセクシーな男性だ
―ああ・・・彼の使っているシャンプーの匂いがここまで漂ってくる・・・凄く良い匂い!何を使っているんだろう?―
。 .:・.。. .。.:・
「これは時間との戦いだっ!!あと君の持ち時間はせいぜい20分だろう、さっさとプレゼンした方が君のためだと思うが?」
彼がシャワー個室から叫んだ
「だっ!だから―今三浦君を解雇されたら困るんですっ――きやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ジェニが飛び上がって、かん高い悲鳴をあげロッカー室の隅に逃げ込んだ、叫び声がロッカー中に響く
「鼓膜が破れるっ!」
竜馬が耳を手で押さえて腰にバスタオルを巻いて、シャワー室から出てきた
「今誰かに見られたら、セクハラで騒がれるのは僕だろうが実際はまったく逆だ!君が僕のトレーニング中に突撃してきたんだろう!むこうを向いていてくれっっ!」
ジェニは真っ赤になってロッカーの隅にうずくまった、竜馬は荒々しく髪を拭いてロッカーから新しいシャツを取り出した、次にジェニが振り返った時には真新しい真っ白なワイシャツを身に着けていた
グレーのスラックス姿はまるで何かのCMのように素敵だった・・・黒の皮のベルトにエルメスの金ロゴのバックルが光っている、髪型はまだ半渇きだろうが、スッキリとオールバックにセットされている
おでこを出すとハンサムな顔立ちが際立つ、そして彼は別のドアを開けてずんずん進んで行った、ジェニもあわてて後を着いて行く
そこはフローリングの床の快適な部屋で、きついトレーニングの後に欲しくなるものがなんでも揃っていた。ガラスのドアがついた冷蔵庫に、ミネラルウォーターや栄養ドリンクが入り、カウンターのトレイに果物と栄養補助食品プロティン入りスナックが所狭しと並んでいる
給仕はいないので、たっぷり用意された軽食は、ジムを利用するどのメンバーにも提供されるのは明らかだ、竜馬はミネラルウォーターのボトルを1本取り出して一気に飲み始めた
しばらくジェニは水を飲み干す度に動く彼の大きな喉仏に見とれた・・・もう鼻血を吹きそうだ
―私はいつからこんなにいやらしくなったの?―
。 .:・.。. .。.:・
そしてまたブンブン頭を振って、カバンから取り出したタブレットと、持参した書類をすべて引き出した、私の持ち時間は後10分もないだろう、10分を過ぎればこの人は会議に行ってしまう、今ここで詰め込めるだけ詰め込もう!
「詳しい内容はすべて印刷しています!今後の確定売り上げシュミレーションです!」
竜馬は必死の形相の彼女を見つめていた
「三浦君は本当に良い人で――」
「それはもう聞いた!」
。 .:・.。. .。.:・
竜馬は思った、どんな状況でも、竜馬が常に厳守する時間がどんどん過ぎて終わりに近づいてきているのは確かだ
ここは大目に見て、時間を延長してやろうか・・・?
あの大きな琥珀色の目は、こちらをおずおず伺いながらも、挑発的な所も見せている、同時に彼女の説得力はおかしなくらい鋭さを欠く曖昧なものだが、この三浦とかいう男に特別な感情でもあるのだろうか?
コメント
1件
おお、第78話、めちゃくちゃ面白かったです!ジェニの「あの時を思い出す」って心のツッコミ、もう笑っちゃいましたよ。あの汗だくの竜馬さん、確かに「美しい」って表現したくなるのも分かります。シャワー室に連れて行かれて、しかもちゃんとプレゼンしろって…この二人の空気感、やばいですね。次が気になりすぎます!